月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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旅行

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夏休みも終わりに近づいている八月下旬、目覚ましのアラームでいつもより早く目を覚ました。
今日は彼女との約束通り花火を見に広島へ行く。
早朝に岡山駅のすぐ目の前にある桃太郎像で待ち合わせをした。
僕が待ち合わせ十分前に行った時には、彼女は既に桃太郎像の前に到着していた。
まだ集合時間前とはいえ先に来ていた彼女に申し訳ない気持ちになって、待ち合わせ場所の桃太郎像の前まで早足に歩いて彼女に声を掛ける。
「おはよう。ごめん結構待たせた?」
彼女は「おはよう私もさっき着いた所」と言ってからわざとらしく「普通は男の子が先に待っていて、僕も今来た所とか言うんだけどね」と彼女は揶揄ってくる。
世間的には男女平等と言われているが、未だに価値観をアップデート出来てない僕は男性の方が先に待つのが当たり前と思ってしまうので、その事を失念していた僕はとりあえず急いで彼女に謝罪する。
すると彼女は冗談だと笑い「ごめんね。待ち合わせ時間より早いから問題ないよ」とフォローしてくれる。

それでも彼女も昔から繰り返されるやり取りに憧れのようなものを持っていたようで次からはもう少し早めに来て待たせないようにしようと心の中でひっそりと決意した。
会って早々に僕を揶揄ってご満悦な彼女を見ると、夏休みなので当然ながら制服ではなく私服姿で、病院の時と学校でしか会った事が無く何気に私服姿は初めて見る。
正直かなり似合っているけど言葉にするのは気恥ずかしく、僕は何も言えなかった。
彼女の今日の服装はハイウエストのワイドパンツにふんわりとしたホワイトのトップスだった。
そこに日除けの麦わら帽子とサングラスで、特徴的な髪と瞳を隠すようにしている。
ファッションに疎い僕でも、ぱっと見でかなりオシャレな事がわかる着こなしで、人の少ない時間帯でも既に結構な視線を集めている。
そんな彼女の隣を歩くと思うと、適当なブランドでマネキンを参考にして服を選んでいる僕としては、彼女に恥ずかしい思いをさせていないか不安になった。
すると彼女は、いつもより気持ち大き目の声でこちらの気後れを吹き飛ばすように声をかけてくれた。
「じゃあ、早速だけど旅の醍醐味を探しに行こうか」
お互いに待ち合わせの時間より早めに到着していたので、新幹線の時間までかなり余裕がある。駅の二階へエスカレーターで上ると駅弁を買う為にコンビニではなく、売店の並ぶ駅の弁当売り場へとやってくる。
「やっぱり旅行と言えばまずは駅弁だよね」
彼女はじっくり吟味を重ねて時間ぎりぎりまで悩んだ末に駅弁を購入し、新幹線に乗るために駅のホームへと迷惑にならない程度に早歩きで向かう。
新幹線の窓からの景色を眺めつつ、駅で買った駅弁を食べていると彼女が隣でいつもより楽しそうな声で話しかけてくる。
「私は広島なんて行くのは中学校の研修以来だけど篁君は?」
僕も中学校の研修以来だったので同じように答えた。
「僕も中学生の時に平和学習の研修の時に来て以来かな」
「篁君は転校して中学の時は元々この辺りの学校じゃなかったって言っていたと思うけど、地域が違っても案外みんな似たような時期に同じ所に行くよね」
「うん。広島に行くか長崎に行くかの違いだから西日本の近畿地方と中国地方の学校は大概の場合は広島に行くと思うよ」
「近いからね」
お弁当を食べ終え雑談をしているうちに、新幹線が到着して思ったより早く広島に着いた。
そこから公共交通機関を使い観光をしながら中学校の時以来の厳島神社へ行くために、フェリーに乗りこんだ。 
宮島に着く頃には僕も彼女も朝が早かった事もあって真夏の日差しと気温でかなりぐったりしていた。
流石の彼女も暑さがキツイのか、朝の元気な姿は見る影もない。
昼過ぎに着いた僕らは神社へ向かう前にお店で休憩と昼食を兼ねて、目星をつけていたネットで人気の学生にも優しいリーズナブルなお店に入る事にした。 
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