月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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料理とレクチャー

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クーラーの効いた店内はまさしく天国だった。
僕らはお店のメニューからお好み焼きを注文して、待つ間に観光ガイドを出して周辺の観光地を確認する。
スマホが発達した今でもネット検索に頼らず紙の観光ガイドを買ってしまうのは今の学生だと少数派かもしれないけど、こればかりは育った環境と習慣だろう。
ちなみにネット検索派の彼女は、大概の物はサブスクリプションと電子版を買って済ませるらしい。
現物派の僕としては、書籍も音楽も作者が問題を起こすと配信停止になるし、本当に好きなら現物を買って所持しておくのが一番安全だと思っている。
それに本やCDが増えていく本棚を見ると年代別にその時に自分が何に興味を持っていたかを思い出したり、趣味嗜好や興味の変遷が見えるので、自分の本棚だけでも振り返ってみると面白かったりする。
時間的には夜の花火大会までは余裕があり、参拝したりお土産を買ったりする時間はありそうだ。
「不思議だよね。前に来た事ある場所なのに全然違う場所に見える」
「そうだね、前に来た時からそんなに時間が経ってないのに新鮮な感じがする」
丁度お好み焼きの材料が運ばれて来た所で、一旦会話を中断してテーブルの上を片付ける。
店員さんが鉄板を前に焼き方の説明を聞きながら、セルフで焼いていく方式に不安を覚える。
僕は正直に言って家庭科の授業以外で料理を作る事がないので、少し緊張しながら生地を載せていく。
結果、綺麗な円形ではなく形が歪になってしまう。
彼女の方を見てみると普段から料理しているのであろう慣れた手つきで生地を綺麗に円形に載せて焼いていた。
彼女はこちらを見ると「篁君普段全く料理してないでしょ」と断言されてしまった。
僕は図星を突かれて正直に白状する。
「うん、料理をするのは家庭科の授業以来久しぶりかな」
そんな僕に彼女は呆れたように「そんな事だと大人になった時に大変だよ」と言われて少し返答に困ってしまう。
僕は大人になるまで生きていられるのだろうか。
彼女と出会ってから遠ざかっていた疑問が頭をよぎった。
大人になった自分なんて想像した事は無かった。というよりも大人になる自分を想定してもいなかったと言ったほうが正しいかもしれない。
少しの間沈黙してしまったので、不自然にならないように当たり障りのない答えを言っておく。
「これから少しずつ練習するよ」
そんな僕の答えを聞いて彼女はやっぱりとばかりに呆れている。
「それ、絶対やらない人の答えでしょ! 私で良ければ今度教えてあげようか?」
どうやら隠したい部分は上手く誤魔化せたらしい。その代わりにやる気のない事は見事に看破されている。
「そうだね、今度機会があればお願いするよ」そんな僕の返事を聞いて彼女は「オッケー任せといて」と楽しげに言い「とりあえず今はお好み焼きの焼き方教えてあげる」と言って鉄板で生地を焼き始めた。
その後は、彼女のレクチャーを受けながら生地を焼いていく。
上手く焼けるようになった頃には、二人ともお腹がいっぱいになっていた。
彼女は少し苦しそうに「食べ過ぎた、今度練習する時は食べる人を呼ばないと」と言っているが概ね僕も同意見だった
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