月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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参拝

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僕等は食後のお茶を飲み、少し休憩をしてからお店を出て厳島神社へと歩き始めた。



途中で野生の鹿に囲まれて久しぶりに鹿と戯れる。

その様子を見ていた可能は意外そうに見ている。

「どうかしたの?」


「篁君、動物とか大丈夫な人なんだなと思って」

「そんなに意外だった?」

「うん。正直、遠巻きに見て近寄らないと思ってた」

「犬を前に飼っていたからあんまり苦手意識とかはないよ」

勿論、他所の家の犬なら下手に近寄らないし触らない。
でも人懐っこい動物なら大体触れ合ってみたいと思っている。

「イマイチイメージが湧かないかな」

どうやら彼女の中でそれ程までに僕と犬が仲良くしているのはイメージ出来ないらしい。

「犬は可愛いんだけどね」

「テレビで見るのには可愛いと思うよ」

「それに何かあった時には愚痴も聞いてくれるし」

「篁君は犬に愚痴を言うの?」

「うん。犬は相槌も打ってくれるし聞き上手だと思うけど」

ペットを飼った事がある人は、みんな一度はペットに愚痴を言った事があると思うけど、ペットを飼った事がないのか彼女には、色々と疑問に思うみたいだ。

「犬が相槌打つの?」

「うん。わんって言ってるし」

「なんか、急にイメージ出来たかな」

彼女が若干の同情を含んだ声でそんな事を言って僕は自分からの失言を悟って誤魔化すように話を戻した。

「まあそんな訳で、動物によるけど、鹿は馴染みがあるから、犬とそんなに変わらないかな」

関西に住んでいると、鹿は馴染み過ぎて居るのが当たり前で犬と同じ感覚で餌をあげたり撫でたりと触れ合っている。
その感覚は何処に住んでる鹿であろうとそんなに変わらない。
向こうの鹿は神の使いと呼ばれるのだから、不敬かもしれないけど、子供の頃の感覚なんてそんなものだと思う。

「そういう姫柊さんはどうなの?」

「ペットとか飼ったことないから、苦手ではないけど、なんとなくね」

てっきり怖い物なしで近寄って行くと思っていたけど鹿を相手に気後れしているらしい。

それがなんだか可笑しくて近くに寄ってきた鹿を大丈夫だと示すように撫でる。
ある程度触れ合って安全を確認したら鹿を驚かせないように彼女を手招きする。
観光地の動物だけあって、人に慣れているので急にあばれたり逃げたりする事は殆ど無い。

「見ての通り驚かせたりしなかったら大丈夫だよ」

言葉だけでなく行動で実際に見た事もあって恐る恐るではあるものの、彼女は鹿にゆっくりと触る。

「本当に人に慣れてるね」

彼女が近寄って触っても鹿は特に反応を示す事もなくされるがままになっている。

そこに立派な角を持つ雄の鹿が近寄って来て彼女が後ずさる。
僕もそれを見てゆっくりと距離を取った。

その行動に彼女は意外感を示す。

「篁君も距離を取るの?」

「僕も雄の鹿に立派な角があるのは逃げるよ」


流石に雄の立派な角が生えた鹿には僕も近寄らない。
鹿による怪我の原因は鹿の角に関係するものが多い。
旅行中なのだから不意に怪我をするリスクは避けたい。
それに何より大きな角には威圧感があって近寄り難いものがある。

「鹿は神の使いって言ってなかった? これから神社に参拝するんだから立派な角のある鹿の方がご利益あるかもよ?」

「それは別の地域の鹿だし、ここにいるのは神の使いでもない普通の鹿だよ」

「まあいいけど、そろそろ神社の方に行かない?」

「うん」

程々に鹿と遊んだので満足して神社のある方向へと歩き出した。
その後は鹿がしばらく付いて来たけどそれはご愛嬌だった。



神社に到着した僕等はまず本殿へ行き、二礼二拍手一礼をして良いご縁があるようにと五円玉をお賽銭に入れお願いをする。
賽銭に関しては人それぞれで色んなジンクスがあるけれど僕は基本的にご縁と五円をかけて入れる派だ。
最近は電子決済で、賽銭を決済をする神社もあると聞くけど、この辺りにはまだ電子化の波は来ていないようで安心する。
気持ち的な問題でいつまでも賽銭だけは現金で昔ながらの賽銭箱に入れるとお参りした感じがするのでこのまま文化として残して欲しいと思う。



そんな雑念を抱えて参拝していると本来参拝というのは神様にお願いをするものではないと聞いた気がするけれど僕は、その本来の意味が思い出せず、結局神様に一つだけお願いをする事にした。
自分の病気が治るようにとは神様になんて祈らない。今の時間がずっと続きますようにただそれだけを祈る。
祈りを終えて彼女の方を見ると、彼女も目を瞑って真剣な顔をして祈っているようだった。
彼女は参拝が終わると、僕の方を見て「参拝って言うのは神様にお願い事をする為じゃなくて神様に決意表明をする場所らしいよ」などと参拝前に教えて欲しかった豆知識を披露してくる。
真剣な顔で祈っていた彼女の決意が何だったのかを聞いてみる事にした。
「なら君は何を決意表明したの?」
「秘密、いつか大人になった時に教えてあげる」
それだけ言うと笑って誤魔化されてしまった。
彼女はそのまま僕を置いて、本殿の周りを歩き出したので慌てて彼女を追いかける。
厳島神社の観光を終えた僕等はお土産物を見ていた。
僕は自分用に紅葉饅頭を買っておく。
彼女の方も家族のお土産に紅葉饅頭を買っていた。
すると彼女は妹からのリクエストと言って”一粒マスカット”を探しているがこの辺には売ってないみたいだった。
彼女はスマホで検索して「新幹線に乗る前に駅ナカで売っているから早めに行けば問題なし」と言い時計を確認し始めた。
恐らく宮島からの時間を計算しているのだろう。 
計算を終えた彼女は、花火の後の船次第だけど多分大丈夫と言い散策を再開する。
彼女はスマホの画面を見ながら「弥山って所が有名だしせっかくだから行ってみない?」
とこちらにスマホの画面を見せながら聞いてきた。
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