月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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提案

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今日もボードゲームを小脇に抱えて彼女の病室に向かって歩いていると、遊戯室の方に馴染みの姿を見つけて窓越しに眺める。
どうやら小学生とボールで遊んでいるようで、テープで区切られた場所から赤いボールを車椅子に座ったままの状態で白いボールに向かって投げている。
周りを見ると彼女が投げた赤いボール以外にも青いボールが白いボールの周りに散らばっている。
見たことがない遊びで詳細なルールはよくわからないけど、白いボールに向けて自分の色のボールをお互いに投げたりしているのはなんとなくわかった。
僕が見始めたのは終盤だったみたいで、同じ入院患者の小学生相手に無双して勝利する、恐らく妹相手には絶対に見せないであろう一面を見てしまった。
そのままなんとなく見ていると、散らばったボールを片付ける為に車椅子を方向転換して足元のボールを器用に拾う彼女と目が合ってしまう。
こちらに気付くと僕の表情から色々と察したようで、恨みがましげな目でこちらに視線を向けてくる。
その視線に気付かないふりをして遊戯室に入ると誤魔化すように足元に転がっているボールを拾って彼女に手渡す。
手早く片付けを終えると彼女の乗る車椅子を押して遊戯室を出た。
最近の彼女は、長期の入院による筋力の低下と病気の影響で車椅子を使用して生活するようになっている。
遊戯室を出て小学生の目が無くなると、一度咳払いをしてさっきの件について追及してくる。
「それで、どの辺りから見てたの?」
「ほんの少し前だよ」
「ほんの少し前ね。具体的には?」
誤魔化そうとする僕に対して、観念してさっさと白状しろとばかりに彼女が笑顔の圧が強まる。
短い付き合いながらもこうなると正直に言うまで追求される事を知っているので、諦めて白状することにした。
「見てたいたのは、白いボールに向かってボールを投げていたのと、小学生相手に無双して最後に勝利していたほんの十分くらいの時間だよ」
ただ、正直に言うだけではつまらないので、少しだけ意地悪してみることにした。
見られていた事を察していた彼女は恥ずかしさで顔を赤くしながらも、見た目にそれ以上の反応はない。
「あれはね。“ぼっちゃ”っていうスポーツで年齢性別すべて関係なく平等に競えるスポーツなの。だから、あくまで小学生相手でもフェアだし問題ないんだよ」
そんな風に彼女から力説されても、そんなスポーツは聞いた事がない。
そもそも小学生と高校生の時点で色々とフェアではない気がした。
恥ずかしさから早口で力説する彼女を微笑ましく思っていると彼女がこちらを見て睨んできたので話題を変える事にした。
学校での出来事を話してから、彼女が入院してからずっと考えていた事を提案する。
彼女は僕の突拍子も無い提案に少し考えてから頷いてくれた。
その日は彼女が期待に満ちた目で僕を見送ってくれる。
彼女のそんな表情を見たのは久しぶりだった。
その準備の為に駅前の家電量販店に寄ってから必要な物を買って帰路につく。
お店を出る頃にはすっかり陽が沈んでいた。近頃は陽が落ちるのがすっかり早くなった事を肌寒さを感じて実感する。
少しずつ欠け始めた視界で空を見上げる。
空気が乾燥して澄んだ空には、もうすぐ満月になる月が浮かんでいた。

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