月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人

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事実

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クリスマスが近づいてきた週末、メールの返信が来ない事に違和感を覚えながら検査でメールが見られないのだろうと思って、いつもの時間に病室へ向かう。
病室の扉の前で、返事がなかった理由がわかった。
そこには面会謝絶の貼り紙がされていた。
部屋を間違えたのだと思って再度確認しても、確かにそこは彼女の病室だった。
頭の中に次々と疑問と嫌な想像と不安が浮かんで渦巻いていく。
それでも自分では何をする事も出来ずに立ち尽くす事しか出来ない。
「いつまでそんな所に立っているのですか?」
立ち尽くす僕にそう声を掛けて来たのは、彼女の妹の夏織さんだった。
夏織さんは、面会謝絶の貼り紙と僕を見て状況を察したのか少し迷ってから提案してくれた。
「ここで立ち話をするのは邪魔になりますし、説明するので下のカェへでも行きませんか?」
そう言うとそのままエレベーターホールの方へと行ってしまった。
置いて行かれないように慌てて、夏織さんの後をついて行く。
カフェに着くまで何も話す気は無いのか、夏織さんはずっと無言だった。
カフェに付いて飲み物を購入して、空いている二人がけの席へと座る。
それでようやく夏織さんは口を開いた。
「お姉ちゃんは、この数週間相当体調が悪かったです。それで昨日の夕方に容態が急変してそのまま面会謝絶になりました。」
僕が何も言わずに黙っていると、そのまま夏織さんは話を続ける。
「本当は夏頃まで保たないだろうって先生が。それでもどうにか今まで懸命に生きてきました」
「それで夏織さんは、夏に会った時に僕に怒っていたんだね」
「そうですねあの時は残り少ない時間を盗られると思っていましたから」

そう言って当時の自分の姿を思い出したのか少しだけ笑う。

「夏織さんが言っていた事が今更だけど理由がわかったよ」

あの頃から夏織さんは僕の事を嫌いながらも、僕の事を気遣ってくれていた事が今更ながらわかった。

だからこそ改めて僕は夏織さんに言われた時の事を考えた。
あの時夏織さんの言う通りに距離を取って離れていたら単なる同級生で特に傷付く事も何も思う事は無かったのだろうか?
そんなもしもの世界を考えてから自問自答して春に出会ってから一緒に過ごして来た時点で既に手遅れだと思った。
あの時には既に彼女との間に色々な思い出があったのだから今更他人に戻れる筈がない。


「貴方はそれを知って今更後悔しましたか?」
そう問いかける夏織さんの目と声に厳しさを増す。
「この先何があっても一緒に居られた事を後悔なんてしないよ」
その目を見返して僕はこの先彼女と過ごせた事を感謝する事はあっても後悔なんて絶対にしないと断言出来る。
それくらい自分の中で彼女の存在は大切になっていた。
「そうですか、それなら私はもう何も言いません」
夏織さんは立ち上がると「着いて来て下さい」とだけ言って席を立った。
その声は先ほどまでの厳しさが消えていて、少しだけ上機嫌な気がした。
彼女の病室の前に戻ると、夏織さんが躊躇なく扉に手を掛ける。
「面会謝絶じゃないの?」

「面会謝絶でも家族は場合により面会オッケーです」
扉を開けて部屋に入る夏織さんは、「入らないのですか?」そう言って僕を病室へ入れてくれた。
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