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文化祭
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休み明けの教室ではホームルームを利用して秋に開催される文化祭の催し物を何にするかの話し合いが行われている。
文化祭実行委員が教卓の前に出て司会をしてそれをクラスの中でも目立つ人間がアイデアを出して多数決で決める流れになっている。
僕は去年と同じように傍観してその光景を眺めて退屈な時間を過ごした。
学校からの帰り道をいつものように彼女と歩いていると必然的に話題は文化祭に事になる。
「篁君は文化祭何するの?」
当たり前のように参加する前提で聞いてくる彼女に僕も当たり前のように返す。
「クラスで役割を振られたらそれをやるけど」
高校に入学して初めての去年の文化祭でも催し物を決める光景を眺めながら批判するされないように振られた役割をこなして過ごしていた。
大多数ではないけれど文化祭ではよくいるタイプの人間だと思う。
そんな僕の態度で去年の文化祭の様子を察したようで呆れたようにため息をつく。
「来年は受験だし、何も気にせず楽しめる文化祭は今年で最後だよ!」
文化祭について力説する彼女に既に予想は出来ているけど、礼儀として質問する。
「そこまで力説するなら君は何をする予定なの?」
待ってましたとばかりに彼女は満面の笑みで言う。
「大正ロマン喫茶!」
そう言われてこの間後楽園で見たハイカラさんスタイルの彼女の姿を思い浮かべる。
大方あの時に遭遇したクラスメイトから話が伝わってそんな提案がされたのはなんとなく想像出来た。
あの時に彼女は頼まれても写真の撮影を一切クラスメイトに許可しなかった。
もし遠目に気付かれないように撮影していたとしても暗くてあまり画質の良い写真はないだろう。
結果としてその時の評判が話で伝わって文化祭という場で和服姿が見える機会を用意した訳だ。
それに大正ロマン喫茶なら文化祭の定番となっているメイド喫茶に比べたら出店許可を出す先生からの評判も良いだろう。
近頃色々と煩くなっているPTAからもクレームも来ない筈だ。
「良いんじゃないかな。当日はクラスにお邪魔するよ」
「うん。待ってるね」
そこまで言ってから彼女は無難に話を終わらそうとした僕をムッとした表情で見る。
「ってそうじゃなくて、篁君も何かやろうよ」
まさかの文化祭の押し売りだった。
昨今流行りの所謂なんとかハラスメントだ。
僕に文化祭ハラスメントをする彼女に僕は往生際悪く逃げの一手を打つ。
「そうは言っても、今更クラスの出し物もでしゃばる訳にもいかないし」
「つまり何か機会があれば何かしらやるって事で良いよね?」
その物言いに不安を感じつつも僕は頷く。
「うん」
「そう言うと思って文化祭の有志枠に篁君の名前でエントリーしておきました!」
得意気にネタバラシをする彼女に唖然とする。
所謂文化祭の有志枠とは、体育館のステージでバンドや演劇や漫才までクラスの枠や部活に関係なく友人同士で出来る枠で毎年そこそこの人数が集まる。
申し込みには名前と学年とクラスとやる事を書いて提出する事が出来る。
但し悪戯で勝手に提出する人が頻繁したとかで生徒本人からの提出のみ受け付けるルールだったはずだった。
「ところでどうやって申し込みしたの?」
彼女が勝手に申し込み用紙を記入したところで本人からの提出のルールがある以上申し込みは受理されないはずだ。
「それはね、篁君の名前で申し込み用紙を書いて先生から頼み事をされた時に職員室に行って文化祭の担当の先生机の前で落としましたよって声をかけて申し込み用紙を裏向きにして渡しておいたの」
流石は優等生だけあって先生も彼女の企みに疑う事なく申し込み用紙をそのまま受け取って本来の申し込み用紙の中に入れたのだろう。
心の中で先生の確認不足を呪うべきか、彼女の計画性に怒るべきか迷って僕は結局、諦める事にした。
こういう時の彼女は僕が逃げても今回のようにやらざるおえない状況に追い込んでくるのが目に見えていて無駄に疲れる前に白旗をあげることにした。
「それで僕は何をすればいいの?」
「演目の所は演奏にしてあるよ」
「まさか、何かの影響を受けてバンドをやろうしてるの?」
一昔前に流行って当時の高校生を軽音の道へ進ませた某軽音のアニメを想像しつつ尋ねる。
何の楽器も出来ない僕はこのままだと体育館のステージで公開処刑にされてしまう。
「違うよ」
「なら一人でも出来るエアバンド?」
今度はネタ寄りの有名なエアバンドを想像して尋ねる。
彼女も同じエアバンドを想像したのか思いっきり笑って親指を立ててこちらに向ける。
「逆にそれは面白いかもね。第二希望で採用!」
「第二希望? 第一希望をまだ聞いてないんだけどそれで、本当は何をするつもりなの?」
「ピアノで演奏!」
今度は彼女も真面目な顔をして答えてくれる。
「無理、無理、たった一カ月ちょっとで人前で演奏出来る訳ないよ」
全力で否定する僕を見て彼女は確信しているように
力強く告げる。
「出来るよ。曲目はこの前家で私が弾いた曲ね」
そう言われて彼女がこの前弾いてくれた曲を思い出す。
メトネルとかいう人の回想ソナタとか言っていた曲
とチャイコフスキーの眠りの森の美女のワルツこちらは日本でも有名でテレビでよく流れていて耳にする事も多い曲だ。
どちらもきらきら星を弾くのがやっとの僕に弾けるような曲とは思えない。
「何でこの選曲にしたの? せめてこの前弾いたきらきら星とかさ」
「文化祭のステージで一曲は誰も知らない曲とみんなが知っている曲を演奏したら、意外感もあるし。みんなの記憶に爪痕を残せそうでしょう?」
「確かに文化祭だとみんなが知ってる曲を演奏しがちだからインパクトはあるけど」
尚も不安そうにする僕に彼女は大丈夫だと笑う。
「大丈夫だよ。回想ソナタでは私が伴奏するし、眠りの森の美女のワルツは一緒に連弾で弾くから」
こうして文化祭当日までに弾けるようになる為に練習する事になった。
文化祭実行委員が教卓の前に出て司会をしてそれをクラスの中でも目立つ人間がアイデアを出して多数決で決める流れになっている。
僕は去年と同じように傍観してその光景を眺めて退屈な時間を過ごした。
学校からの帰り道をいつものように彼女と歩いていると必然的に話題は文化祭に事になる。
「篁君は文化祭何するの?」
当たり前のように参加する前提で聞いてくる彼女に僕も当たり前のように返す。
「クラスで役割を振られたらそれをやるけど」
高校に入学して初めての去年の文化祭でも催し物を決める光景を眺めながら批判するされないように振られた役割をこなして過ごしていた。
大多数ではないけれど文化祭ではよくいるタイプの人間だと思う。
そんな僕の態度で去年の文化祭の様子を察したようで呆れたようにため息をつく。
「来年は受験だし、何も気にせず楽しめる文化祭は今年で最後だよ!」
文化祭について力説する彼女に既に予想は出来ているけど、礼儀として質問する。
「そこまで力説するなら君は何をする予定なの?」
待ってましたとばかりに彼女は満面の笑みで言う。
「大正ロマン喫茶!」
そう言われてこの間後楽園で見たハイカラさんスタイルの彼女の姿を思い浮かべる。
大方あの時に遭遇したクラスメイトから話が伝わってそんな提案がされたのはなんとなく想像出来た。
あの時に彼女は頼まれても写真の撮影を一切クラスメイトに許可しなかった。
もし遠目に気付かれないように撮影していたとしても暗くてあまり画質の良い写真はないだろう。
結果としてその時の評判が話で伝わって文化祭という場で和服姿が見える機会を用意した訳だ。
それに大正ロマン喫茶なら文化祭の定番となっているメイド喫茶に比べたら出店許可を出す先生からの評判も良いだろう。
近頃色々と煩くなっているPTAからもクレームも来ない筈だ。
「良いんじゃないかな。当日はクラスにお邪魔するよ」
「うん。待ってるね」
そこまで言ってから彼女は無難に話を終わらそうとした僕をムッとした表情で見る。
「ってそうじゃなくて、篁君も何かやろうよ」
まさかの文化祭の押し売りだった。
昨今流行りの所謂なんとかハラスメントだ。
僕に文化祭ハラスメントをする彼女に僕は往生際悪く逃げの一手を打つ。
「そうは言っても、今更クラスの出し物もでしゃばる訳にもいかないし」
「つまり何か機会があれば何かしらやるって事で良いよね?」
その物言いに不安を感じつつも僕は頷く。
「うん」
「そう言うと思って文化祭の有志枠に篁君の名前でエントリーしておきました!」
得意気にネタバラシをする彼女に唖然とする。
所謂文化祭の有志枠とは、体育館のステージでバンドや演劇や漫才までクラスの枠や部活に関係なく友人同士で出来る枠で毎年そこそこの人数が集まる。
申し込みには名前と学年とクラスとやる事を書いて提出する事が出来る。
但し悪戯で勝手に提出する人が頻繁したとかで生徒本人からの提出のみ受け付けるルールだったはずだった。
「ところでどうやって申し込みしたの?」
彼女が勝手に申し込み用紙を記入したところで本人からの提出のルールがある以上申し込みは受理されないはずだ。
「それはね、篁君の名前で申し込み用紙を書いて先生から頼み事をされた時に職員室に行って文化祭の担当の先生机の前で落としましたよって声をかけて申し込み用紙を裏向きにして渡しておいたの」
流石は優等生だけあって先生も彼女の企みに疑う事なく申し込み用紙をそのまま受け取って本来の申し込み用紙の中に入れたのだろう。
心の中で先生の確認不足を呪うべきか、彼女の計画性に怒るべきか迷って僕は結局、諦める事にした。
こういう時の彼女は僕が逃げても今回のようにやらざるおえない状況に追い込んでくるのが目に見えていて無駄に疲れる前に白旗をあげることにした。
「それで僕は何をすればいいの?」
「演目の所は演奏にしてあるよ」
「まさか、何かの影響を受けてバンドをやろうしてるの?」
一昔前に流行って当時の高校生を軽音の道へ進ませた某軽音のアニメを想像しつつ尋ねる。
何の楽器も出来ない僕はこのままだと体育館のステージで公開処刑にされてしまう。
「違うよ」
「なら一人でも出来るエアバンド?」
今度はネタ寄りの有名なエアバンドを想像して尋ねる。
彼女も同じエアバンドを想像したのか思いっきり笑って親指を立ててこちらに向ける。
「逆にそれは面白いかもね。第二希望で採用!」
「第二希望? 第一希望をまだ聞いてないんだけどそれで、本当は何をするつもりなの?」
「ピアノで演奏!」
今度は彼女も真面目な顔をして答えてくれる。
「無理、無理、たった一カ月ちょっとで人前で演奏出来る訳ないよ」
全力で否定する僕を見て彼女は確信しているように
力強く告げる。
「出来るよ。曲目はこの前家で私が弾いた曲ね」
そう言われて彼女がこの前弾いてくれた曲を思い出す。
メトネルとかいう人の回想ソナタとか言っていた曲
とチャイコフスキーの眠りの森の美女のワルツこちらは日本でも有名でテレビでよく流れていて耳にする事も多い曲だ。
どちらもきらきら星を弾くのがやっとの僕に弾けるような曲とは思えない。
「何でこの選曲にしたの? せめてこの前弾いたきらきら星とかさ」
「文化祭のステージで一曲は誰も知らない曲とみんなが知っている曲を演奏したら、意外感もあるし。みんなの記憶に爪痕を残せそうでしょう?」
「確かに文化祭だとみんなが知ってる曲を演奏しがちだからインパクトはあるけど」
尚も不安そうにする僕に彼女は大丈夫だと笑う。
「大丈夫だよ。回想ソナタでは私が伴奏するし、眠りの森の美女のワルツは一緒に連弾で弾くから」
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