【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの

文字の大きさ
32 / 49

キャンプの定番

しおりを挟む
「朝ご飯ですよー」

 ヴィオラはトムとピーターのテントに声をかけたが、なかなか起きてこないので匂いで起こすことにする。
 昨日のカレーの残りを使ったスープの鍋を持って、前をウロウロする。

「朝ご飯ですよー」

 すぐに動きがあった。

「すぐ行きます」

 きちんと返事したのはピーターだ。ヴィオラは鍋を元に戻して、お茶を用意する。
 身支度を整えたピーターが出てくると、すぐにトムのテントに入っていく。やはり、トムのお世話係なんだろう。
 すぐに二人は出てきた。

「おはよう」と挨拶しあってから、ヴィオラは朝ご飯を配った。

「ありがとう。朝早くに大変だっただろう」

 ピーターがねぎらってくれる。

「いつもと同じ時間に起きただけだから」
「生徒会のメンバーで訓練をしているんだろう。そこまで鍛える必要があるのか?」

 トムは鋭い目つきでヴィオラを見た。

「武闘会で引き分けになったことにジョージが意地になっているだけで、後のメンバーは真面目なだけかな」
「王太子を呼び捨てか」
「学園内ではそういう決まりでしょ。それより、どうぞ」

 晩御飯の時に距離が縮まったと思ったのは勘違いだったのかもしれない。ということで、また、食事で懐柔だ。
 チーズを炙って、昨日の残りのナンの上にのせて渡す。

「昨日の残りか」

 信じられないといった様子だが、ピーターが毒見する。

「ん。おいしい」
「でしょ」

 ピーターの反応を見てから、トムも食べる。ほらほら、カレーは次の日が一番なんだから。二人がたくさん食べたから、残りが少なくてスープにするしかなかったけど。
 食後にはピーターだけでなく、トムからもありがとうの一言があって、ヴィオラは大満足だった。

「私を置いて、どこ行ったの?」

 それから、少し経って、ヴィオラは薬草を握りしめて叫んでいた。
 課題の薬草採取に三人で出かけ、ヴィオラは夢中になっていた。植物の見極め、正しい採取方法ができているかなどがチェックされるから真剣だ。
 せっせと摘んで、ふと、顔を上げると、トムとピーターがいない。
 どこにいったんだろうと、あたりを見回したヴィオラはかすかな血の匂いに気づいた。
 匂いの元に歩いていくと、草ネズミという魔獣の死体が転がっていた。きれいに首を切られ、血が流れている。
 魔獣を狩っても課題の点数は上がらないが、狩っても問題ないことになっている。
 草ネズミは群れで行動する。トムとピーターは群れを追いかけて行ってしまったのかもしれない。

「トム! ピーター!」

 ヴィオラは名前を呼びながら後を追った。草を踏んだ跡が残っているから、難しくはない。時々、草ネズミの死体が転がっている。そのまま、ほったらかしにするのは気になるが、二人を見つけるのが先だ。
 ふと、ヴィオラの鼻が血ではない腐臭のようなものを感じた。
 ザンッ。
 何かを切り伏せるような音がした。慌てて、そちらに駆けて行くと、トムとピーターがいた。ゴブリンの群れと向かい合っている。

「トム! ピーター!」
「馬鹿、こっちに来るな。逃げろ」

 足元の石をいくつも拾うとヴィオラは身体強化をかけた。トムの言葉を無視して駆け寄りながら、石を投げる。石が当たったゴブリンはギャっと叫んで倒れる。

「なぜ、こんなところにゴブリンが?」

 学校のキャンプ場にいるには危険過ぎる。

「数が多すぎます。私が食い止めますので、助けを呼んで来てください」

 ピーターが何だかカッコいいことを言ってるけど、背中がざっくり斜めに切れて血が流れている。

「馬鹿なこと言ってないで、大人しくしてなさい!」

 ヴィオラは近くの岩をつかんだ。持ち上げにくいけど何とかなる。

「ほらっ」

 勢いよく投げると、二、三匹のゴブリンに当たった。少しゴブリンが後退したすきにピーターとついでにトムの手もつかんで、治癒魔法。

「痛いの、痛いの、飛んでけー」

 ピーターの目が丸くなった。

「な、治った?」
「それより、何でこのゴブリンたち、逃げないの?」

 グラント領でもゴブリンと出会ったことはあるが、ヴィオラが一匹倒せば、すぐに逃げて行った。

「王都のゴブリンは一味違うわね」
「いや、魔法で操られているようだ」

 トムの言葉によく見ると、石が当たって、ボロボロのゴブリンまで立ち上がろうとしている。

「えっ、それじゃあ、操っている人間を倒さなきゃダメってこと?」

 大ざっぱなヴィオラは探査魔法が苦手だ。

「私が探す」

 トムが目をつぶった。何か聞き慣れない外国の言葉をつぶやく。再び、目を開けると、黒かった瞳が白くなっている。

「こっちだ」

 スタスタと歩き出すトムの後ろをピーターが守る。ヴィオラはとりあえず、雷をゴブリンの上に落とした。火の方が得意だけど、山火事は危険だしね。あ、雷も山火事の原因か。発火していないみたいだから、まあ、いいか。

「雷魔法もできるのか」
「でも、広い範囲にしたから、威力が弱いかも。麻痺するだけでまた、動き出しそう」
「じゃあ、急ぐぞ」

 誰が何の目的でゴブリンなんかを呼び寄せたんだろう。クラスのみんなは無事だろうか。でも、元から断たないとキリがないし。
 ヴィオラは今さらながら、気づいた。
 キャンプの定番がカレーなのは日本の現実のキャンプで、乙女ゲームの定番は魔獣の出現だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

その破滅エンド、ボツにします!~転生ヒロインはやり直し令嬢をハッピーエンドにしたい~

福留しゅん
恋愛
自分がシナリオを書いた乙女ゲームの世界に転生したメインヒロインはゲーム開始直後に前世を思い出す。一方の悪役令嬢は何度も断罪と破滅を繰り返しては人生をやり直していた。そうして創造主の知識を持つヒロインと強くてニューゲームな悪役令嬢の奇妙な交友が始まる――。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

乙女ゲームのヒロインに生まれ変わりました!なのになぜか悪役令嬢に好かれているんです

榎夜
恋愛
櫻井るな は高校の通学途中、事故によって亡くなってしまった ......と思ったら転生して大好きな乙女ゲームのヒロインに!? それなのに、攻略者達は私のことを全く好きになってくれないんです! それどころか、イベント回収も全く出来ないなんて...! ー全47話ー

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

モブ令嬢は脳筋が嫌い

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
恋愛
イーディスは海のように真っ青な瞳を持つ少年、リガロに一瞬で心を奪われた。彼の婚約者になれるのが嬉しくて「祖父のようになりたい」と夢を語る彼を支えたいと思った。リガロと婚約者になってからの日々は夢のようだった。けれど彼はいつからか全く笑わなくなった。剣を振るい続ける彼を見守ることこそが自分の役目だと思っていたイーディスだったが、彼女の考えは前世の記憶を取り戻したことで一変する。※執筆中のため感想返信までお時間を頂くことがあります。また今後の展開に関わる感想や攻撃的な感想に関しましては返信や掲載を控えさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

処理中です...