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ポチ
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「嫌だー、嫌―」
大きな門の前でヴィオラは駄々をこねていた。
「ヴィオラ様、まだ、諦めてなかったんですか」
呆れたようにメイドのミヤが言う。
ヴィオラはミヤをにらんだ。
わかってる、わかってる。グラント領から三日もかけてハーモニー学園の前まで来たのだ。今さら、何を言っても、無駄なのはわかってる。
「十二歳にもなって、恥ずかしくないんですか」
「恥ずかしくない。嫌なものは嫌なの」
門の向こうには白亜の城が見える。優美だがその実態はハーモニー学園の本館だ。ハーモニー学園は貴族と平民の枠を無くし、身分に関わらず、カレイド王国を支える人材を育てることを目的とした全寮制の学園だ。
乙女ゲーム『聖女は愛に囚われる』をやり込んだヴィオラにとっては憧れの場所だった。
でも、入りたくない。
だって、悪役令嬢のヴィオラはこの学園でヒロインをいじめ、断罪されるからだ。
ヴィオラが前世を思い出したのは五歳の時、鏡に映っているのが自分ではないような気がした時だった。
「誰、これ?」
月の光を集めたような銀髪がゆるく波打って、肩に落ちている。ぷっくりした頬は滑らかで白い。大きな紫の瞳。幼女なのに美女になることが保証されているような顔だ。
「私じゃない。私は……」
黒髪の普通の日本人。こんな美少女じゃない。
思わず、頭を抱え込んだ。
やり込んでいたゲームの知識がどっと頭に流れ込んできた。自分がどんな人間だったかは曖昧なのにゲームの記憶ははっきりしているなんて、どれだけガチ勢だったんだろう。
『聖女は愛に囚われる』のヒロインは平民のアリアナ。光の魔力に目覚めたことから、ハーモニー学園の特待生となる。そして、学園で出会った攻略対象者たちに愛されるようになる。亡くなった幼馴染のことが忘れられないアリアナの気持ちを癒すのは一体、誰なのかというゲームだ。やがて、心の傷が癒されたアリアナは聖女として目覚め、愛する人と二人で浄化の旅に出る。
そして、どの攻略対象者を選んだルートでも立ち塞がり、アリアナをいじめ、邪魔するのがヴィオラ。おまけに最後は断罪がセット。よくて、修道院、悪くて、処刑だ。
「大丈夫。内容はわかっているんだから、断罪の未来なんて変えてみせる。今から対処すれば大丈夫。」
ヴィオラは拳を握りしめた。
それからは必死に頑張った。
転生のチートなのか、ステータスオープンと唱えると、自分のスペックを確認できた。
「鑑定の力はないのか」
他の人のスペックを見ることはできなかった。
まず、何かあった時にすぐに逃げられるように体を鍛えた。
それから、悪役らしく闇の魔法が使えるけれど、それは封印。魔力を消費しきって眠りにつくと、上限がアップするというゲーム知識を利用して魔力を鍛えた。光魔法も習得した。
あとはヒロインや攻略対象には近寄らなければ完璧と思っていたのに、なぜか、ゲームの舞台に来ることになってしまった。
「もしかして、これがゲームの強制力というもの?」
「お嬢様、変なことを言っていないで、行きますよ」
メイドのミヤがピシャリと言う。
身分に関わらずと言いながら、ハーモニー学園に貴族は従者を一人まで伴うことができる。そして、ミヤはヴィオラが逃げ出さないように見張るお目付け役だ。
「奥様に勝てるわけないんですから、覚悟を決めてください」
そう、我が家で母様に逆らえる人はいない。だから、ヴィオラもハーモニー学園に来た。ヴィオラはミヤに押されるように門に向かって歩き始めた。
キェー。
「ミヤ、何か変な声聞こえない?」
ミヤが眉をひそめた。
「残念ながら、ポチの声に聞こえます」
「ついてきたら、ダメだって言ったのに。ちょっと、追い返してくる」
「ポチと一緒にグラント領に帰ったらダメですよ」
「わかってる」
ヴィオラは飛び出した。
学園の裏にある山に向かった。身体強化を使えば、あっという間だ。
「ポチ!」
名前を呼びながら、ヴィオラは山を登った。頂上まであと少し。
その時、一斉に鳥が飛び立った。
そこには空をおおうような巨大な黒いドラゴンの姿。
「ポチ! 家でおとなしくしていなさいと言ったでしょう」
ヴィオラは風魔法で浮くと、一気にポチに近づく。
ヴィオラが領地でやらかしたことの一つ。ドラゴンと友達になってしまった。自分のレベルアップのために魔獣狩りをしていたら、一目置かれるようになってしまった。おまけに適当に名付けたポチという名を気に入られてしまった。
「だって、退屈なんだもん」
「でも、困るの。こんなところを他の人に見られたら、終わりじゃない」
黒いドラゴンを引き連れた悪役令嬢って、悪役として出来すぎだ。
「じゃあ、ちょっとだけでも遊んで」
「だーめ! 週末には帰るようにするから、ここにきては駄目」
魔力全開!
ヴィオラはポチを風魔法で力押しする。
「ヴィオラの意地悪~」
ポチの声と姿がスーッと遠くなる。
ホッとしたら、ガクンと体の力が抜けた。やばい。焦りすぎて、魔力を消費し過ぎてしまった。
あっという間に地面に向かって、ヴィオラの体が落ちていく。
「えー、まさか、これで私の人生、終わり?」
大きな門の前でヴィオラは駄々をこねていた。
「ヴィオラ様、まだ、諦めてなかったんですか」
呆れたようにメイドのミヤが言う。
ヴィオラはミヤをにらんだ。
わかってる、わかってる。グラント領から三日もかけてハーモニー学園の前まで来たのだ。今さら、何を言っても、無駄なのはわかってる。
「十二歳にもなって、恥ずかしくないんですか」
「恥ずかしくない。嫌なものは嫌なの」
門の向こうには白亜の城が見える。優美だがその実態はハーモニー学園の本館だ。ハーモニー学園は貴族と平民の枠を無くし、身分に関わらず、カレイド王国を支える人材を育てることを目的とした全寮制の学園だ。
乙女ゲーム『聖女は愛に囚われる』をやり込んだヴィオラにとっては憧れの場所だった。
でも、入りたくない。
だって、悪役令嬢のヴィオラはこの学園でヒロインをいじめ、断罪されるからだ。
ヴィオラが前世を思い出したのは五歳の時、鏡に映っているのが自分ではないような気がした時だった。
「誰、これ?」
月の光を集めたような銀髪がゆるく波打って、肩に落ちている。ぷっくりした頬は滑らかで白い。大きな紫の瞳。幼女なのに美女になることが保証されているような顔だ。
「私じゃない。私は……」
黒髪の普通の日本人。こんな美少女じゃない。
思わず、頭を抱え込んだ。
やり込んでいたゲームの知識がどっと頭に流れ込んできた。自分がどんな人間だったかは曖昧なのにゲームの記憶ははっきりしているなんて、どれだけガチ勢だったんだろう。
『聖女は愛に囚われる』のヒロインは平民のアリアナ。光の魔力に目覚めたことから、ハーモニー学園の特待生となる。そして、学園で出会った攻略対象者たちに愛されるようになる。亡くなった幼馴染のことが忘れられないアリアナの気持ちを癒すのは一体、誰なのかというゲームだ。やがて、心の傷が癒されたアリアナは聖女として目覚め、愛する人と二人で浄化の旅に出る。
そして、どの攻略対象者を選んだルートでも立ち塞がり、アリアナをいじめ、邪魔するのがヴィオラ。おまけに最後は断罪がセット。よくて、修道院、悪くて、処刑だ。
「大丈夫。内容はわかっているんだから、断罪の未来なんて変えてみせる。今から対処すれば大丈夫。」
ヴィオラは拳を握りしめた。
それからは必死に頑張った。
転生のチートなのか、ステータスオープンと唱えると、自分のスペックを確認できた。
「鑑定の力はないのか」
他の人のスペックを見ることはできなかった。
まず、何かあった時にすぐに逃げられるように体を鍛えた。
それから、悪役らしく闇の魔法が使えるけれど、それは封印。魔力を消費しきって眠りにつくと、上限がアップするというゲーム知識を利用して魔力を鍛えた。光魔法も習得した。
あとはヒロインや攻略対象には近寄らなければ完璧と思っていたのに、なぜか、ゲームの舞台に来ることになってしまった。
「もしかして、これがゲームの強制力というもの?」
「お嬢様、変なことを言っていないで、行きますよ」
メイドのミヤがピシャリと言う。
身分に関わらずと言いながら、ハーモニー学園に貴族は従者を一人まで伴うことができる。そして、ミヤはヴィオラが逃げ出さないように見張るお目付け役だ。
「奥様に勝てるわけないんですから、覚悟を決めてください」
そう、我が家で母様に逆らえる人はいない。だから、ヴィオラもハーモニー学園に来た。ヴィオラはミヤに押されるように門に向かって歩き始めた。
キェー。
「ミヤ、何か変な声聞こえない?」
ミヤが眉をひそめた。
「残念ながら、ポチの声に聞こえます」
「ついてきたら、ダメだって言ったのに。ちょっと、追い返してくる」
「ポチと一緒にグラント領に帰ったらダメですよ」
「わかってる」
ヴィオラは飛び出した。
学園の裏にある山に向かった。身体強化を使えば、あっという間だ。
「ポチ!」
名前を呼びながら、ヴィオラは山を登った。頂上まであと少し。
その時、一斉に鳥が飛び立った。
そこには空をおおうような巨大な黒いドラゴンの姿。
「ポチ! 家でおとなしくしていなさいと言ったでしょう」
ヴィオラは風魔法で浮くと、一気にポチに近づく。
ヴィオラが領地でやらかしたことの一つ。ドラゴンと友達になってしまった。自分のレベルアップのために魔獣狩りをしていたら、一目置かれるようになってしまった。おまけに適当に名付けたポチという名を気に入られてしまった。
「だって、退屈なんだもん」
「でも、困るの。こんなところを他の人に見られたら、終わりじゃない」
黒いドラゴンを引き連れた悪役令嬢って、悪役として出来すぎだ。
「じゃあ、ちょっとだけでも遊んで」
「だーめ! 週末には帰るようにするから、ここにきては駄目」
魔力全開!
ヴィオラはポチを風魔法で力押しする。
「ヴィオラの意地悪~」
ポチの声と姿がスーッと遠くなる。
ホッとしたら、ガクンと体の力が抜けた。やばい。焦りすぎて、魔力を消費し過ぎてしまった。
あっという間に地面に向かって、ヴィオラの体が落ちていく。
「えー、まさか、これで私の人生、終わり?」
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