【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの

文字の大きさ
12 / 49

ミヤの報告

しおりを挟む
1、ライル様(コン•ブリオ家の嫡男、14歳、騎士団長の甥)がお嬢様に弟子入りしました。お嬢様が大岩を割る姿などを目撃し、身体強化術を学びたいそうです(※前回報告3の魔力測定の噂も後押ししたと思われます)
2、男性と二人にするわけにはいかないため、毎日、朝食前の一時間、裏山でライル様とお嬢様の修行に付き合っています。
お嬢様は師匠ぶっていますが、子どもなのでおままごとにしか見えません。
ただ、ライル様は着実に強くなっているようです。次回、武闘会での優勝の可能性もあります。
その場合、単純なライル様がお嬢様を師匠だと明言する恐れがあります。
3、入学式前日以来、ポチを目撃していません。グラント領に戻っていないというのは確実でしょうか?
4、歴史の授業について、宿題は終了しました。
5、お嬢様に友人はできていません。クラスではイアン様から暖かい言葉を、ジョセフィン様から小言をかけられるだけです。
6、おかしな相手からの手紙、面会は全てブロックしています。

 ミヤからの報告書をバサリと放り投げて、ヴィオラの父のハイラムと母のマドラはため息をついた。

「弟子をとって、しかも、指導の成功なんて。あの子らしい」

 マドラは頭を抱える。

「入学試験の算術で首位。入学式に遅刻して、王太子にエスコートされる。決闘を百ます計算で行い、勝利。魔力測定で水晶玉をつぶす。そして、先輩を弟子にとる。あの子のことだから、学園に行ったら、何かしでかすとは思っていたけど、やり過ぎじゃない?」
「だから、ヴィオラの望み通り、グラント領から出さなければよかったのに」

 ぼそりと言ったハイラムをマドラは睨みつけた。

「私、ヴィオラに普通の子供のような経験をさせたいんです。わかっているでしょう。いつも、何を焦っているのか、必死で人のためになることばかりして」
「確かに」

 まだ、12歳ということを忘れそうになる。それほど、ヴィオラは幼い頃からグラント領のために尽くしてきた。
 マヨネーズという不思議でおいしいソースを作っただけでない。お菓子もヴィオラが考案するものは全て画期的に美味しい。近隣に販売することでグラント領は豊かになった。
 その豊かさを子供の教育や治水に使用しているため、ますます豊かになる一方だ。
 どこから知識を得たのか、衛生という概念を普及させ、そのおかげで流行病もグラント領では広まらなかった。
 神から遣わされた子ではないかと思ったこともハイラムにはある。ただ、神の子なら、誘拐しようとした悪党を殴り倒したりはしないだろうと思い直した。

「ここから離れ、知らない人の中では自由になるかと思ったんだけど」

 マドラにヴィオラが年相応に甘えてくることがある。抱きしめて、頭を撫でてあげると、幸せそうにすうすうと寝息を立て始める。それでも、うなされることがある。助けてと涙を流すことがある。そんな時、起こしても、ヴィオラは見ていた夢の内容を絶対に言わない。親なのにヴィオラに守られてしまったからか、頼ってはもらえない。

「友人はできていません。……か」

 ハイラムは顎を撫でた。貴族にとって、裏を探らなくていい友人は貴重だ。学園では派閥とは関係のない付き合いができる唯一の場所だ。もちろん、そこでもややこしい社交術を駆使している者もいるが。
 ヴィオラはグラント領では活躍し過ぎて、友人ではなく、すぐに信者ができてしまう。メイドのミヤはその意味で貴重だ。ミヤにとってはヴィオラは「面白い子ども」、ただ、それだけらしい。

「学園で生活する内に友人ができてくれたらとは思っているんだけど、ねえ」

 テーブルの上には手紙が積み上げられている。ヴィオラとの交流許可や婚約を願うたくさんの手紙。

「本当にヴィオラを愛し、守ってくれる人が見つからないかな」
「何を馬鹿なことを。ヴィオラはまだ12歳だぞ。早い。早すぎる」

 ハイラムが声を上げた。
 ヴィオラが領の発展に寄与していると聞きつけ、王家から婚約の話が来たことがある。遠くても王族を当てがっておこうという態度が嫌で、早すぎると断った。
 早いというのをマドラはただの言い訳だと思っていたが、ハイラムは本気だったのかもしれない。

「いい人は早く婚約が決まりますからね。焦って変な人を捕まえてはダメですけど、いい人がいないかと意識することは大事です」
「いや、早い。別に恋愛に興味も無いようだし、ヴィオラはしばらく今のままでいいじゃないか」

 ハイラムはそう主張するが、今のままでいいというと、ヴィオラが次はどんな事件を起こすのだろうとマドラは不安になった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

その破滅エンド、ボツにします!~転生ヒロインはやり直し令嬢をハッピーエンドにしたい~

福留しゅん
恋愛
自分がシナリオを書いた乙女ゲームの世界に転生したメインヒロインはゲーム開始直後に前世を思い出す。一方の悪役令嬢は何度も断罪と破滅を繰り返しては人生をやり直していた。そうして創造主の知識を持つヒロインと強くてニューゲームな悪役令嬢の奇妙な交友が始まる――。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

乙女ゲームのヒロインに生まれ変わりました!なのになぜか悪役令嬢に好かれているんです

榎夜
恋愛
櫻井るな は高校の通学途中、事故によって亡くなってしまった ......と思ったら転生して大好きな乙女ゲームのヒロインに!? それなのに、攻略者達は私のことを全く好きになってくれないんです! それどころか、イベント回収も全く出来ないなんて...! ー全47話ー

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

モブ令嬢は脳筋が嫌い

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
恋愛
イーディスは海のように真っ青な瞳を持つ少年、リガロに一瞬で心を奪われた。彼の婚約者になれるのが嬉しくて「祖父のようになりたい」と夢を語る彼を支えたいと思った。リガロと婚約者になってからの日々は夢のようだった。けれど彼はいつからか全く笑わなくなった。剣を振るい続ける彼を見守ることこそが自分の役目だと思っていたイーディスだったが、彼女の考えは前世の記憶を取り戻したことで一変する。※執筆中のため感想返信までお時間を頂くことがあります。また今後の展開に関わる感想や攻撃的な感想に関しましては返信や掲載を控えさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

処理中です...