イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~

テヅカミユーキ

文字の大きさ
3 / 54
第1章・それぞれの転生

1・剣士の憂うつ

しおりを挟む
 世界は、ある日を境に突然変貌をとげる。
 それが異世界転生――。


 私立冥聖めいせい高校2年、剣道部主将。沢渡一二三さわたりひふみは夕暮れの河川敷をトボトボと歩いていた。
 防具袋ぼうぐぶくろを肩に下げ、竹刀袋しないぶくろを頼りなく握れば、一歩一歩に、地区大会準決勝の苦々しい後悔が込み上げる。
 この試合で勝敗が決するという高まった空気の中。両者譲らぬ激しい接戦による一本負けならば、いさぎよく敗戦を受け入れるところではあった。が、両校2勝2敗で迎えた大将戦。一二三は開始2秒で胴を薙がれて一本負けをきっしたのだ。ひと振りさえ竹刀を交えることなく、がら空きの横腹へ敵の竹刀が心地よいほどの音を会場に響かせた。

――「一本!」

 会場が歓声に包まれる中、その後の記憶はほぼなかった。気合の抜けた3位決定戦では惨敗ざんぱいだった。消えてなくなりたいと、それだけが彼の胸を満たしていた。高校2年生最後の試合を、思い出を、黒一色に染め上げた気分だった。

(異世界……。そんな都合のいい空想の世界があるなら、今すぐにでも飛んでいきたい。あれは確か、不慮ふりょの事故で死んでしまったりすると――)

 そんな都合のいい話がある訳はない。深いため息と共に一二三がそう思った時、不意打ちにあった様な激痛が彼の左わき腹を襲った。敵の主将に思いきりはじかれた、まさにその場所だった。何かが猛スピードで走り去った気配もあった。

(ぐっ……!)

 痛みの意味を知る前に、彼は、陽の暮れる夕焼け空と、芝生の緑と、それぞれを景色に映し出しながら河原の土手を転げ落ちた。痛みは錯覚などではなく、まさに本物の刃物で深くえぐられたかのようなリアルさがあった。転げ落ちた先の河辺で、ゆっくりとその場所に触れると、生温いものが溢れてくるのを感じた。
 一二三は消えそうな意識の中で手のひらを空にかざす。そこには、夕焼け空に負けないほど赤々と染められた指先が見えた。そこで、意識が飛んだ――。




 一二三は、長い眠りに落ちていた――という夢を見た。その気分の中で、痛んだわき腹を撫でてみる。傷などなく、芝生の端を引きちぎった右手だけがあった。身体を起こせば、見渡せるのは普段のままの風景だ。
(やっぱり、転生とかじゃないな。何考えてたんだろ、僕。さっさと帰って――)

 そう思った矢先、もう紺碧こんぺきの夜へと向かいそうな空から眩しい光が射した。真っ白な一本の光の筋は大きく空気を震わせながら地上へ落ちると、やがて一二三の目の前で人の形を成した。

「ん……確かに今、ここへ異世界転移した者の気配がしたのだが。ああ、そこなる少年。そなた、もしや転生者か? つい今しがた、その身の死を感じはしなかったか?」

 光はすっかり消えて、一二三の目の前には一人の老人の姿があった。雰囲気は、どこか時代がかったエビ茶色の着物に、白く長いあごのヒゲ。そして謎の言葉である。当然、一二三は当惑する。

「あの……。もしかして僕、死んだんですか? これってもしかして?」

 老人は納得した顔で、一二三に笑顔を見せる。

「やはり、そなたであったか。私は大転生者『ヤマダ・グラン・キュービック』。異世界転生のことわりを知るもの」
「そ、それじゃあ。ここって異世界なんですよね?」
「転生者にとっては、そういうことになる」

 重厚に答える老人の手には、よく見ると一本のひもが握られていた。一二三は、その紐をゆっくりと目でたどってみる。すると――。

「ワムワム!」

 犬だった。瞬間、老人の威厳が消えて、ただの犬の散歩途中の爺さんにしか見えなくなった。ガッカリ感が拭えない。

「それで、僕はこれからどうすればいいんですか? 何か、すごい魔王とか倒す旅に出たり、仲間ができたり」
「うむ。その道を示すのが大転生者の役目でもある。そなたはこれから……ぐはあっ!」

 そこで老人が、いきなり血を吐いた。大きく天を見上げると、噴水のように盛大な血を吐いた。

「ちょ、ちょっと! 大丈夫ですか!?」
 老人はしばらく肩で息をしていたが、血まみれの顔を起こすと言った。

「私は幾千の世界を転生してきた大転生者。しかし大転生者といえども、寿命には勝てぬもの……。残念だが、わたしの生はここでついえる。そなたに残せる言葉も、ゲフウッ! ガフウッ! しかし心配するでない。そこなる大転生犬『ダックス』が、必ずや、そなたを未来へと導いてくれるであろう。ゲホゲホッ! ではさらばだ少年。そなたの幸運をゲフッ! オエエエッ!」

 身勝手な末期まつごの言葉を残すと、大転生者はふたたび光のかたまりとなり、夜空へ消えていった。

「ワムワム!」

 犬だけ残して――。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~

黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」 女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。 この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。 『勇者道化師ベルキッド、追放される』 『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...