42 / 54
第2章・七人の侍編
39・問い、問われ
しおりを挟む『香月・ユーカスティス』――目の前の老人は、確かにその名前を口にした。彼女の父の名を。
香月は目がくらんで倒れそうになる。それを支えたのは、いちばんそばに座っていた伊東一刀斎だった。
「おいおい。そういうのは夜の河辺で二人きりの時にしてくれねえか」
飄々と笑う彼に、香月はすぐに身体を起こして頬を染めた。
「ありがとうございます……」
彼女はそれから言葉を繋いだ。
「どうして父の名を、私の父の名を知っているんですか!? 一度目の転生先が、『惑星・ユーカスティス』だったんですか!?」
「やはり、縁の者でありましたか。ワシらをマルズ星へ送った方がユーカスティス殿でありました。いや、そのことを怨んではおらなんだ。あの御仁には、大変に世話になり申した。右も左も分からぬワシに、様々と教えてくださったよ。その礼として、ワシは自らマルズ星へ行くことに決めたのでございますよ」
香月はまだ信じられない顔だ。
「惑星移住計画のことを知っていて、それでも自分の意思で向かったというんですか? あの星は事前調査ですでに、危険な惑星だと分かっていたはずなのに」
「そう聞いてはおりました。しかし、我らは転生地の方々から集い、そして決めたのです。この生まれ変わりは、そのためのものであったのだと。誰も迷いはございませぬでした。戦場があるならば、そこがワシらの生きる場所と信じて――」
やはり香月には信じられない。わざわざ死に向かう意味が分からない。
「でも……。皆さんは……結局はそこでも……」
「その通りでござります。返り討ちに会いました。侍というのは、時に馬鹿でしてな」
卜伝は快活に笑った。
が、巌流は笑えない。
「そなたらが大転生者に会ったというのは、その後のことでございますか?」
卜伝は笑いを静かな笑みに変えて、
「そういうことじゃ。誰も皆、一度目の転生の意味は分からぬまま。しかし、二度目の転生では確かな意味をもらったのでござる。『武士ならば、鮮やかに散ることこそが本望であろう』と――」
「それが……この世界への転生だったんですか。また魔物の住むこの世界への転生が」と、香月。
「その通りですな。我らは剣の道を極める手段があれば、何でもやり申す。そこが修羅場と聞けば、尚のこと」
香月には、全く理解ができなかった。もしや巌流もそうであるのかと勘繰りもしていた。彼が暇を見つけては、近くの剣道場へ顔を出しているのを聞き知っていたからだ。
その話へ割り込むのは、千葉衆作。やがて北辰一刀流の開祖となる、幕末に生きた若侍だ。それが、巌流へと台詞を吐いた。
「卜伝様。巌流なるその者、本気で魔物に太刀打ちできると申せますか。今、ここで問いたくござりまする」
そうじゃのお――と、卜伝が長いあご髭を撫でながら、
「流派不明。が、剣の太刀筋は独自で優れておる。ワシの見立てでは、場合によっては、お主より強いかものお」
「な……」
そこから言葉を失くした千葉は、芝から立ち上がって、どこかへと歩き去った。侍という者は、十割をプライドで生きている。
香月の話に戻る――。
香月には、父がどこまでのことを話していたのかだけが気になっていた。この侍たちに世界のことを、宇宙のことを、まさかその先までは話していないだろうかと。
彼女は思う。何に対しても興味を押さえられなかった父が『異世界転生』などという事象を耳にすれば、飛びつかないはずがなかった。人の生と死、その永遠の課題に到達できるかもしれない現実なのだ。根掘り葉掘り、この侍たちから話を聞きだしたかったろう。そして、その代償は何だったのかと。
『不老不死』。その能力の開花を身に託された香月としては、出会ってはいけない者たちに出会った気がしてならなかった。
0
あなたにおすすめの小説
極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――
銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」
世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。
魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。
彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。
一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。
構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。
彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。
「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」
暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。
管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。
これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。
※アルファポリスで先行で公開されます。
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~
黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」
女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。
この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。
『勇者道化師ベルキッド、追放される』
『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。
お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。
永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。
17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。
その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。
その本こそ、『真魔術式総覧』。
かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。
伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、
自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。
彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。
魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。
【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる