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おさとうろくさじ
8.
しおりを挟む「……りょう、がさん」
「うん」
左手の薬指を、慈しむように撫でられていた。遼雅さんの癖だと思う。
見なくても私の薬指を探り当てられる指先に苦笑して、私が笑った意味がわからないらしい遼雅さんが、首を傾げた。
「何でもないで、す」
「うん? 俺は知りたい」
「たいしたことじゃないです」
「俺は、きみのことなら、どんなことでも知りたい」
『――毎日、誰よりも長く見つめていたい人のことなら、どんなことでもわかりたくて必死になるでしょう』
耳の奥で反芻する。
何度思い出しても、遼雅さんらしいあつい言葉だった。胸に内に燃え広がって、消えてくれない。
「今日」
「は、い?」
苦笑をひっこめた私の頬をやわく、なぞるように撫でてくれる。あたたかい爪先に胸が熱くなって仕方がない。
邪に触れていた手は、いつものように私の両手に繋ぎ合わされている。
もう抵抗するつもりなんてすこしもなくなってしまっているのは、気づかれているのだろう。
溶けてしまいそうな私に向けて囁く。
「渡さんが、第一倉庫の鍵を持ち出したと聞きました」
すべてが彼の掌の上だ。
彼ほどの力をもってすれば、それが何に使われようとしていたのか、わかってしまうのだろうか。
瞳が相変わらずあまい。それなのに、有無を言わせず、そらさせるつもりもない力がこもっている。
「……返却したのは、渡さんではなく、先ほど柚葉さんと一緒にここにいた、峯田さんだそうです」
「は、い」
上司のような問いかけなのに、声色のあまさで、咎められているわけでも、監査を受けているわけでもないことがわかってしまう。
遼雅さん本人として、私の口から話を聞こうとしてくれているのだろう。
「俺は頼りない?」
まっすぐな視線が絡んでいる。
すこし切なそうな瞳に胸が詰まって、考える間もなく首を横に振っていた。
「いえ、そんな」
「第一倉庫は長いこと蛍光灯を取り換えてないんだ。あそこに入るような用事はないから。荷物も整頓されてないし、普段は誰も近寄らない場所なんです。柚葉さん、言ってる意味、わかりますか」
「……わかり、ます。軽率でした。ごめんなさい」
壮亮にも言われたことだ。
よくよく考えれば、おかしなことだった。わざわざ私に頼むようなことでもないし、お昼休みにはじめるべき業務でもない。
「怒ってないよ。……ただ、絶対に守るって誓ったくせに、危険な目に合わせた自分が不甲斐ないだけだから」
「それはちがいます」
「でも、柚葉さんは恐ろしい目に遭う可能性もあった」
「それは」
「……だから、今度はぜったい、俺を頼ってください」
つないだ手を解いて、ゆっくりと抱き寄せられる。
その胸の中が、一番安心できる場所だと思う。
素直に頬を胸にぴたりとつけて、遼雅さんが小さく息を吐く音を聞いた。
「約束、してくれますか?」
「……はい、ごめんなさい。お忙しいかなと思って、言わなかっただけです」
「どんなに忙しくても、俺の優先すべきことは、つねにきみだけです。おぼえていて」
「は、い」
やさしい指先に髪を撫でつけられる。そのあたたかさで、やっぱり遼雅さんだけが、自分の胸に住み着いているのだとわかってしまった。
壮亮でも、もちろん渡部長でもない。
「調べれば調べるほどひどいな。俺のかわいい奥さんにおかしなことをしてくれた罰はしっかり受けてもらいたいよ」
「遼雅さん、私、そんなに気にしてな……」
「柚葉が頼ってくれないから、拗ねて八つ当たりしてるだけです」
「やつあたり……」
遼雅さんとは思えない言葉がでてきた。
すねたり、やつあたりしたりしているような表情を作っていても、本質的には大きく感情を動かされているように見えなかった。
そうでもないのだろうか。
「おこったり、しますか。遼雅さんも」
「うん?」
「あんまり、イメージがない、ので」
「あはは、怒るし、結構嫉妬もしますよ」
「しっと……?」
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