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おさとうななさじ
3.
しおりを挟む鳥肌が立ってしまった。
サラダを盛り付け終わったらしい遼雅さんが、くすくす笑いながら隣に寄ってきてくれる。
鳥肌をおさえようと腕をさすっていれば、後ろからすっぽりと抱きかかえられてしまった。
片手で火を止められる。もう片方の手で、持っていたお玉から手を剥がされて、耳元にそっと囁かれた。
「ごめん、怖がらせちゃったね。……でも柚葉さん、怖いって感じるってことは、潜在的にしたくないことなんだと思うよ。だから、そういうことは、きみはしない」
まるで私がそうしない理由を、ずっと前から知っていたような口ぶりで、思わず首をかしげてしまった。抱きしめてくれている人が、私の反応にまた喉元で笑っている。
寒気がしていたはずなのに、抱きしめられたら、あたたかくて心地良ささえ感じてしまっている。
「そう、ですかね? でもわからないので、言ってください」
「はは、携帯見てみますか? 俺は気にしないですよ」
「い、いいです! なんかもう怖いです。信頼していますし、見て何をしたらいいのか……、わかりません」
「俺のことを管理するんじゃないですか?」
「遼雅さんは、私のモノじゃないですよ」
けろりと言うから、また心配になってしまう。
気軽に目の前に差し出された携帯の画面を手で隠したら「柚葉さんはかわいい」と笑って耳に口づけられた。
全てが橘遼雅のペースの上にある。
「ひぁ」
「声もかわいい。……別に、俺はきみのものにしてくれて、構わないのに」
「な、に言ってるんですか」
「してくれないんですか?」
「だめ、だめです。遼雅さんは、遼雅さんのものです」
「じゃあ俺があげるって言っているから、柚葉さんのものでもいいですよ」
ちゅ、と耳に音が反響している。
直接口づけられて、眩暈がしてきた。ほしいと言えばもらえるのだろうか。おかしなことを、考えている。
「りょうが、さん、だめです」
「うん?」
「ん、それ……、だめなあまやかし、です」
「あはは、だめですか」
「だめです、安売りしないでください」
「安売りしても、買ってくれない柚葉さんが悪い」
「ひぅ……っ」
「スーパーの野菜はきみのものにしてもらえるのに、俺は食べてもらえないんですか?」
からかわれている気がする。
何が何だかわからないまま、身体がくるりと回されてしまった。振り向かされて、斜め上に見える遼雅さんのひまわりが、夏の日差しみたいにぎらぎら輝いている。
なぞるようにあごの下に長い指先で触れて、誑かすように囁いた。
「柚葉さんが俺を食べるか、それとも俺の質問に答えるか。ひとつ、選んでください」
ほとんど選択権を与えていないような声だ。やわらかに笑って、声を失っている私の唇に、音を立てて吸い付く。
かわいい音が鳴るのに、遼雅さんの瞳の熱は、ずっと狂暴なままだ。
「ゆず」
「し、しつもん、こたえます」
あやしい瞳の揺らめきで、叫ぶようにつぶやいていた。掠れてうまく声にならなかったのに、遼雅さんの顔がふわりとほころぶ。
「柚葉さんも、同棲経験はありますよね?」
断定的な言い方に、おどろいている。けれど、想像していたよりも断然答えやすい質問で、肩の力が抜けてしまった。
「え……、そ、んなことですか?」
「うん? どんな質問がよかったの?」
指先が頬をなぞる。あくまでも笑っている人に、焦って、隠すことなく口を開いた。
「あ、りますよ。すこしだけ」
「なるほど。じゃあ、どれくらい続きました?」
「あ、れ。まだ質問、つづきますか?」
「うん。何でも知りたいって、言ったでしょう」
「うーん、そんなに長くは。……半年くらい、ですかね」
「半年か。すぐ抜きそうですね」
「抜く?」
「俺と柚葉さんが、です」
「あ、え……、そ、うですね?」
すこし、満足したのだろうか。たのしそうな人が、隙を見て、唇に口づけてくる。
もうずっと、とろけてしまいそうな瞳に、射抜かれている。
見つめあって、ぎらぎらしたまま、もう一度唇に触れられた。今にも噛みついてしまいそうな距離で、やわく囁かれる。
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