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おさとうななさじ
5.
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なつかしい。その日はじめてブスと言われたから、すごく驚いたことを覚えている。
壮亮も、自分で言っておきながら、ひどく驚いた顔をしていた。
「みんな、かわいいって言ってくれる人ばっかりで、気づくのが遅れるところでした」
壮亮のことを話し終えるのと一緒に、ようやくご飯を食べ終えた。両手を合わせて「ごちそうさまでした」と言えば、遼雅さんも同じように手を合わせて「今日もおいしかったです」と笑ってくれる。
どうしてこんなにも、すてきなのだろうか。
考えすぎると好きがいっぱいになりそうだから、気づかないふりをしてみた。
一緒にキッチンに戻って、遼雅さんがお皿を洗ってくれるのを見ながら、布巾を握って隣に立った。万全の準備をしている私を笑って、遼雅さんが名前を呼んでくれる。
「柚葉さん」
「はい?」
「すこし考えたけど、柚葉さんはやっぱりかわいいと思う」
「ええ?」
「たぶん、天真爛漫な柚葉さんは、そのままだと、どんな男でも惚れてしまっただろうから、柚葉さんのかわいい表情を隠したがる峯田さんの気持ちも少しわかる気がする」
「そんなことは」
何かおかしな勘違いをさせてしまった。
誤解を解こうとしているのに、洗い終えたお皿を渡されて、受け取っている間にもう一度遼雅さんが口を開いてしまった。
壮亮は、そういうつもりは全くなかったように思うのだけれども。
「最近、俺と二人の時は、たくさん笑ってくれるようになったよね」
「あ、え……、そう、ですか?」
無意識に笑ってしまっているのかもしれない。
冷静そうだとか、何を考えているのかわからないというのは、中学校以降に出会った人たちから言われるようになった。
だけど本質はすこしも変わっていないから、いまだに姉には泣きついてしまうし、お菓子を食べると頬が勝手に笑ってしまう。
少ない枚数のお皿を片付け終えて、冷えた両手でぺたぺたと頬を触ってみる。
まぬけな顔を、見られてしまっただろうか。心配しているのに、遼雅さんはあまい瞳をいっそう柔らかくして、やさしく私を見つめてくれる。
「かわいいなあ」
「でれでれしていますか? はずかしいです」
「あはは、かわいいから、もっとよく見せてください。……それに、お姉さんと一緒にいるときの柚葉さんは、もっとにこにこしていましたよ」
「えっ、やっぱりでれでれしているのがわかりますか? 萌お姉ちゃんの前では、どうしても妹になっちゃいます」
俯こうとしたら、タオルで水気を拭った遼雅さんが、いつもよりすこし冷えた指先を、私の頬に寄せてくれる。
頬に触れている私の手の上を沿うように、大きな掌がやさしく、ぴったりと寄り添った。
手の甲に触れる熱は、すぐにほどけて、ひとつの体温になる。遼雅さんは、私の瞳を上から覗き込んで、いつも以上にあまく、きらきらと笑っていた。
「俺にもあまえてください。お姉さんに負けないくらい、柚葉さんが落ち着ける場所になりたいです」
遼雅さんの声で、ふにゃふにゃになってしまいそうになる。もう、じゅうぶんすぎるくらいにあまえてしまっている。
抱きしめられて、熱をわけてもらって、キスして、身体中に触れられたら、もう、遼雅さんがいない生活なんて思いだすこともできない。
たぶん、これ以上落ちられないと思うくらいに落下しているのに、底なしのあまさでのめり込んでしまう。
「これ以上あまえたら、遼雅さんがいないと落ち着けなくなっちゃいます」
もう遼雅さんのいないベッドで眠ることすら想像できなくなってしまっているのに。
まっすぐに、見つめてくれる。
遼雅さんの瞳がやわく眇められた。その瞳のやさしさで、どこまでもあまやかされてしまっている。
「――そうなったら、柚葉さんのかわいい笑顔はもう、俺のものだね」
「りょうがさんの、もの?」
「うん。だから、俺と二人の時は、気にせず笑って」
「変なお顔、していないですか?」
「うん?」
「まぬけな顔、です」
「うーん? かわいい奥さんの顔しか見当たらないなあ」
じいっと覗き込んで、くすくすと笑われた。
「どこにまぬけな人がいるんだろう?」と囁かれて、今度こそ一緒に笑ってしまう。
壮亮も、自分で言っておきながら、ひどく驚いた顔をしていた。
「みんな、かわいいって言ってくれる人ばっかりで、気づくのが遅れるところでした」
壮亮のことを話し終えるのと一緒に、ようやくご飯を食べ終えた。両手を合わせて「ごちそうさまでした」と言えば、遼雅さんも同じように手を合わせて「今日もおいしかったです」と笑ってくれる。
どうしてこんなにも、すてきなのだろうか。
考えすぎると好きがいっぱいになりそうだから、気づかないふりをしてみた。
一緒にキッチンに戻って、遼雅さんがお皿を洗ってくれるのを見ながら、布巾を握って隣に立った。万全の準備をしている私を笑って、遼雅さんが名前を呼んでくれる。
「柚葉さん」
「はい?」
「すこし考えたけど、柚葉さんはやっぱりかわいいと思う」
「ええ?」
「たぶん、天真爛漫な柚葉さんは、そのままだと、どんな男でも惚れてしまっただろうから、柚葉さんのかわいい表情を隠したがる峯田さんの気持ちも少しわかる気がする」
「そんなことは」
何かおかしな勘違いをさせてしまった。
誤解を解こうとしているのに、洗い終えたお皿を渡されて、受け取っている間にもう一度遼雅さんが口を開いてしまった。
壮亮は、そういうつもりは全くなかったように思うのだけれども。
「最近、俺と二人の時は、たくさん笑ってくれるようになったよね」
「あ、え……、そう、ですか?」
無意識に笑ってしまっているのかもしれない。
冷静そうだとか、何を考えているのかわからないというのは、中学校以降に出会った人たちから言われるようになった。
だけど本質はすこしも変わっていないから、いまだに姉には泣きついてしまうし、お菓子を食べると頬が勝手に笑ってしまう。
少ない枚数のお皿を片付け終えて、冷えた両手でぺたぺたと頬を触ってみる。
まぬけな顔を、見られてしまっただろうか。心配しているのに、遼雅さんはあまい瞳をいっそう柔らかくして、やさしく私を見つめてくれる。
「かわいいなあ」
「でれでれしていますか? はずかしいです」
「あはは、かわいいから、もっとよく見せてください。……それに、お姉さんと一緒にいるときの柚葉さんは、もっとにこにこしていましたよ」
「えっ、やっぱりでれでれしているのがわかりますか? 萌お姉ちゃんの前では、どうしても妹になっちゃいます」
俯こうとしたら、タオルで水気を拭った遼雅さんが、いつもよりすこし冷えた指先を、私の頬に寄せてくれる。
頬に触れている私の手の上を沿うように、大きな掌がやさしく、ぴったりと寄り添った。
手の甲に触れる熱は、すぐにほどけて、ひとつの体温になる。遼雅さんは、私の瞳を上から覗き込んで、いつも以上にあまく、きらきらと笑っていた。
「俺にもあまえてください。お姉さんに負けないくらい、柚葉さんが落ち着ける場所になりたいです」
遼雅さんの声で、ふにゃふにゃになってしまいそうになる。もう、じゅうぶんすぎるくらいにあまえてしまっている。
抱きしめられて、熱をわけてもらって、キスして、身体中に触れられたら、もう、遼雅さんがいない生活なんて思いだすこともできない。
たぶん、これ以上落ちられないと思うくらいに落下しているのに、底なしのあまさでのめり込んでしまう。
「これ以上あまえたら、遼雅さんがいないと落ち着けなくなっちゃいます」
もう遼雅さんのいないベッドで眠ることすら想像できなくなってしまっているのに。
まっすぐに、見つめてくれる。
遼雅さんの瞳がやわく眇められた。その瞳のやさしさで、どこまでもあまやかされてしまっている。
「――そうなったら、柚葉さんのかわいい笑顔はもう、俺のものだね」
「りょうがさんの、もの?」
「うん。だから、俺と二人の時は、気にせず笑って」
「変なお顔、していないですか?」
「うん?」
「まぬけな顔、です」
「うーん? かわいい奥さんの顔しか見当たらないなあ」
じいっと覗き込んで、くすくすと笑われた。
「どこにまぬけな人がいるんだろう?」と囁かれて、今度こそ一緒に笑ってしまう。
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