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おさとうじゅっさじ
3.
しおりを挟む「そうくん、来週はどこでランチする?」
「あー? もうやめとこうぜ。橘に睨まれんのは勘弁だ」
「ちゃんと送り出してくれるよ」
「お前に嫌われたくないからだろうな」
やわく微笑まれて、言葉に詰まってしまった。
壮亮の中では、遼雅さんと私のことについて、もう答えが出てしまっているらしい。恨めしく見つめたら「その顔だよ」と笑われてしまった。
「じゃあ、そうくんのこと、ちゃんと紹介する」
「はあ? やめろよ、こえーわ」
「怖くないよ、やさしいよ」
「お前だけにだよボケ」
もう一度否定しようとして、壮亮が立ち上がってしまった。
「ほら、帰んぞ。あんまあいつのこと煽んないほうがいい」
「煽ってない」
「はいはい」
「今日は私が払う!」
「あ?」
「そうくん、お誕生日だよ。プレゼントも買ってるよ」
「……あー、あっそ」
慌てて壮亮の手からレシートを引き抜いて、会計に走る。
二人合わせても大した額にはならないけれど、とりあえず全額を払って振り返ったら、頬を掻く壮亮が入り口で待ってくれていた。
「お待たせ」
「ん」
いつもしっかりとドアを開いてくれたり、前を歩いてくれたりしている。壮亮は私の自慢の幼馴染だ。ぶすっとしているように見えるけれど、ただの照れ屋さんであることを知っている。
「そうくん、またおっきくなったね」
「あー?」
「いつもありがとう、大好きだよ」
「っぶ! やめろそれ!」
「お誕生日おめでとう! はい、プレゼント!」
「人の話を聞け……」
隠し持ってきた紙袋を、呆れ顔の壮亮に手渡す。
毎年の恒例だから、今日は何が何でもランチに行くと決めていた。
ふいに遼雅さんの拗ねた顔を思い出して、かき消す。あとでたくさんお話しよう。壮亮のことを聞いたら、遼雅さんもたぶん笑ってくれると思う。
「いつ用意したんだよ……」
ちらりと紙袋の中を確認した壮亮が、箱を見ただけで中身に気づいてしまったらしい。さすが、コレクターなだけある。
「ふふ、マナくんに手伝ってもらっちゃった」
「学さん? うわ、お前な……」
「結婚式に来てくれたから、そのときにお願いしてたの」
「海外移籍したプロサッカー選手になにさせてんだよ……」
ヨーロッパ限定モデルのスニーカーは、前々から壮亮が欲しいと言っていたものだ。
ついこの間発売になる予定だと聞いていたから、海外で生活している兄のような存在の幼馴染に、こっそり購入してもらえないかとお願いしていた。
「マナくんもお祝いしたいって言ってたよ」
「連絡来た」
「いいなあ~。私もお話したい」
「かけてあげれば? 喜びそう」
「そうくんが、もう一緒にお昼してくれないって相談しようかな?」
茶化して言いながら顔を覗き込んだ。
目が合った幼馴染が、すこし目をまるくして、ため息を吐いてしまう。
「……お前が橘に騙されずに来れんなら、まあ……、続けてやらないこともない」
「え? 本当!? やった! じゃあじゃあ、遼雅さんも来て三人でご飯は?」
「却下」
「う~ん……」
「柚の説得次第だ」
一緒に赤信号で足を止めて、壮亮が笑う音を聞いている。
たしかに説得は難しそうだ。
最近は土日にお買い物に出る時でさえ、一人で行くと言うと、すこし心配そうな顔をされてしまうようになった。
結局遼雅さんの目に弱い私は、一日中一緒に映画を観たり、二人でお散歩に行ったりするくらいにとどめてしまう。
遼雅さんはずっと抱きしめていてくれるから、離れがたいのも大きな要因だ。
「遼雅さん、心配性なんだよね。あんなことがあったから、わかるんだけど」
「お前の近く居たら、誰でも心配性こじらせるっつうの」
「そうかなあ」
「そうかなあ、じゃねえわ。相変わらず本当かわいいな。心配にもなるわ」
ぐちゃぐちゃに髪を乱された。
壮亮が珍しくブスと言ってくれないから、すこしおどろいてしまった。ぼうぜんと見つめていたら、壮亮にまた笑われてしまう。
「なんだよ」
「ええ、だって」
「うるせえブス、早く帰んぞ」
「あ、うん、待って」
聞き間違いみたいな、やさしい声だった。
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