あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子

文字の大きさ
73 / 88
おさとうじゅっさじ

3.

しおりを挟む


「そうくん、来週はどこでランチする?」

「あー? もうやめとこうぜ。橘に睨まれんのは勘弁だ」

「ちゃんと送り出してくれるよ」

「お前に嫌われたくないからだろうな」


やわく微笑まれて、言葉に詰まってしまった。

壮亮の中では、遼雅さんと私のことについて、もう答えが出てしまっているらしい。恨めしく見つめたら「その顔だよ」と笑われてしまった。


「じゃあ、そうくんのこと、ちゃんと紹介する」

「はあ? やめろよ、こえーわ」

「怖くないよ、やさしいよ」

「お前だけにだよボケ」


もう一度否定しようとして、壮亮が立ち上がってしまった。


「ほら、帰んぞ。あんまあいつのこと煽んないほうがいい」

「煽ってない」

「はいはい」

「今日は私が払う!」

「あ?」

「そうくん、お誕生日だよ。プレゼントも買ってるよ」

「……あー、あっそ」


慌てて壮亮の手からレシートを引き抜いて、会計に走る。

二人合わせても大した額にはならないけれど、とりあえず全額を払って振り返ったら、頬を掻く壮亮が入り口で待ってくれていた。


「お待たせ」

「ん」


いつもしっかりとドアを開いてくれたり、前を歩いてくれたりしている。壮亮は私の自慢の幼馴染だ。ぶすっとしているように見えるけれど、ただの照れ屋さんであることを知っている。


「そうくん、またおっきくなったね」

「あー?」

「いつもありがとう、大好きだよ」

「っぶ! やめろそれ!」

「お誕生日おめでとう! はい、プレゼント!」

「人の話を聞け……」


隠し持ってきた紙袋を、呆れ顔の壮亮に手渡す。

毎年の恒例だから、今日は何が何でもランチに行くと決めていた。

ふいに遼雅さんの拗ねた顔を思い出して、かき消す。あとでたくさんお話しよう。壮亮のことを聞いたら、遼雅さんもたぶん笑ってくれると思う。


「いつ用意したんだよ……」


ちらりと紙袋の中を確認した壮亮が、箱を見ただけで中身に気づいてしまったらしい。さすが、コレクターなだけある。


「ふふ、マナくんに手伝ってもらっちゃった」

まなぶさん? うわ、お前な……」

「結婚式に来てくれたから、そのときにお願いしてたの」

「海外移籍したプロサッカー選手になにさせてんだよ……」


ヨーロッパ限定モデルのスニーカーは、前々から壮亮が欲しいと言っていたものだ。

ついこの間発売になる予定だと聞いていたから、海外で生活している兄のような存在の幼馴染に、こっそり購入してもらえないかとお願いしていた。


「マナくんもお祝いしたいって言ってたよ」

「連絡来た」

「いいなあ~。私もお話したい」

「かけてあげれば? 喜びそう」

「そうくんが、もう一緒にお昼してくれないって相談しようかな?」


茶化して言いながら顔を覗き込んだ。

目が合った幼馴染が、すこし目をまるくして、ため息を吐いてしまう。


「……お前が橘に騙されずに来れんなら、まあ……、続けてやらないこともない」

「え? 本当!? やった! じゃあじゃあ、遼雅さんも来て三人でご飯は?」

「却下」

「う~ん……」

「柚の説得次第だ」


一緒に赤信号で足を止めて、壮亮が笑う音を聞いている。


たしかに説得は難しそうだ。

最近は土日にお買い物に出る時でさえ、一人で行くと言うと、すこし心配そうな顔をされてしまうようになった。

結局遼雅さんの目に弱い私は、一日中一緒に映画を観たり、二人でお散歩に行ったりするくらいにとどめてしまう。

遼雅さんはずっと抱きしめていてくれるから、離れがたいのも大きな要因だ。


「遼雅さん、心配性なんだよね。あんなことがあったから、わかるんだけど」

「お前の近く居たら、誰でも心配性こじらせるっつうの」

「そうかなあ」

「そうかなあ、じゃねえわ。相変わらず本当かわいいな。心配にもなるわ」


ぐちゃぐちゃに髪を乱された。

壮亮が珍しくブスと言ってくれないから、すこしおどろいてしまった。ぼうぜんと見つめていたら、壮亮にまた笑われてしまう。


「なんだよ」

「ええ、だって」

「うるせえブス、早く帰んぞ」

「あ、うん、待って」


聞き間違いみたいな、やさしい声だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

ワンナイトLOVE男を退治せよ

鳴宮鶉子
恋愛
ワンナイトLOVE男を退治せよ

史上最強最低男からの求愛〜今更貴方とはやり直せません!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
中高一貫校時代に愛し合ってた仲だけど、大学時代に史上最強最低な別れ方をし、わたしを男嫌いにした相手と復縁できますか?

天才棋士からの渾身の溺愛一手

鳴宮鶉子
恋愛
天才棋士からの渾身の溺愛一手

幸せのありか

神室さち
恋愛
 兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。  決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。  哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。  担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。  とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。 視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。 キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。 ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。 本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。 別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。 直接的な表現はないので全年齢で公開します。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

Perverse second

伊吹美香
恋愛
人生、なんの不自由もなく、のらりくらりと生きてきた。 大学三年生の就活で彼女に出会うまでは。 彼女と出会って俺の人生は大きく変化していった。 彼女と結ばれた今、やっと冷静に俺の長かった六年間を振り返ることができる……。 柴垣義人×三崎結菜 ヤキモキした二人の、もう一つの物語……。

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

処理中です...