74 / 88
おさとうじゅっさじ
4.
しおりを挟む
壮亮に褒められたら、いつも嬉しい。
勝手に褒められた気になって笑っていたら、やさしい力で頭を叩かれてしまった。
「アホ、顔キモイ」
「あ、やだやだ。にまにましちゃった。気を付けよう」
エントランスに足を踏み入れて、自分の頬をぺたぺたと触ってみる。
横で呆れた顔をしている幼馴染に首を傾げかけて、ぴたりと止めた。やるなと言われたのを思い出して顔を真顔に戻せば、ますます呆れられてしまう。
「柚、あいつと結婚してから顔の表情、緩みっぱなしだな」
「う、ええ……! やっぱり、そう思う?」
最近壮亮に注意される機会が増えた気がして、焦っていた。やっぱりうまくごまかせていないらしい。
遼雅さんの秘書にしてもらえたのもこの真顔のおかげだから、何とかして治したい。
どうしようか、と壮亮を見つめたら、可哀想なものを見るような瞳と視線が絡んだ。
「お前に真顔は無理だ。あきらめろ」
「ええ、前はうまくできてるって、言ってくれたのに!」
「もう無理だ。そのままで行け」
「ブスで嫌われないかな……」
「今の発言、聞いてたのが俺だけだったことに感謝しろよ、クソ」
「お化粧直してから戻る……」
「まあ、あれだ、顔のことは……。まあ、それなりにかわ……、か、か、か、かわいいから! 気にしなくて良いって……、おい……! おい!? 一人で喋らせるな! ボケ!」
後ろで何かを言っている壮亮から離れて、ふらふらと足を動かした。
エレベーターで最上階を選んだら、すぐに役員フロアにたどり着く。
自室へ行く前に化粧室に寄って、鞄からポーチを取り出した。
パウダーを塗り直して、ビューラーで睫毛をもう一度あげてみてから、最後にコーラルカラーのリップを塗り直した。
できるだけ綺麗にお化粧を直して、鏡の前で真顔を作ってみる。
お化粧一つで、とくに大きく変わることはないと知っているけれど、好きな人には、すこしでもかわいいと思ってもらいたい。
『ゆずは、かわいい』
「あー、うう、だめだ。にまにましてる……」
遼雅さんの声を思い出すだけで、ふにゃふにゃになってしまう。
どうしたものだろうか。
遼雅さんの瞳を思い返して、むっと顔に力を入れてみる。その表情がすこしおかしくて、一人で笑ってしまった。
なんだかんだと言いながら、壮亮は遼雅さんのことを気に入ってくれていたみたいだ。
うれしくなって、やっぱり鏡に映る自分は、小さなころの自分と同じように、にまにまと笑ってしまっていた。
はやく遼雅さんにも、たくさんお話したい。
結局また遼雅さんのことを考えてしまっている自分に気づいて、笑ってしまった。
「……だいすきすぎる、どうしよう」
13時までは、まだすこし時間がある。
ゆっくりと息を整えて、ポーチの中身を鞄にしまい込んでから、静かに化粧室を出た。
相変わらず閑散とした印象の廊下を抜けて、首から下げていたセキュリティカードを入り口にかざした。かちゃりと開錠した音が鳴って、ゆっくりとドアノブに力を入れる。
渡部長の事件があったからか、二日後には大々的に施工会社が入って、各部屋の扉が交換されることになった。
例にもれず専務付きの秘書室にも適応されて、普段部屋に入ることができるのは役員の皆さんと秘書課の社員だけになっている。
重要なものだから、つねに首にかけるようにしているけれど、失くしたら一大事だ。
室内は小一時間前にあったまま、静まり返っていた。遼雅さんはたぶん、役員室でまた仕事をしているのだろう。
静かに入室して、鞄を机の中にしまう。
紅茶でも淹れてこようかと思い立って、動き出しかけていた足をすぐに止めた。
たぶん、帰りが遅いことのほうが心配をかけてしまう気がする。何も持っていないけれど、とりあえず顔を出そうと決めて、役員室に足を向けた。
ノックは三回。
軽く鳴らせば、私が声をあげる前に「入って」と促されてしまった。
勝手に褒められた気になって笑っていたら、やさしい力で頭を叩かれてしまった。
「アホ、顔キモイ」
「あ、やだやだ。にまにましちゃった。気を付けよう」
エントランスに足を踏み入れて、自分の頬をぺたぺたと触ってみる。
横で呆れた顔をしている幼馴染に首を傾げかけて、ぴたりと止めた。やるなと言われたのを思い出して顔を真顔に戻せば、ますます呆れられてしまう。
「柚、あいつと結婚してから顔の表情、緩みっぱなしだな」
「う、ええ……! やっぱり、そう思う?」
最近壮亮に注意される機会が増えた気がして、焦っていた。やっぱりうまくごまかせていないらしい。
遼雅さんの秘書にしてもらえたのもこの真顔のおかげだから、何とかして治したい。
どうしようか、と壮亮を見つめたら、可哀想なものを見るような瞳と視線が絡んだ。
「お前に真顔は無理だ。あきらめろ」
「ええ、前はうまくできてるって、言ってくれたのに!」
「もう無理だ。そのままで行け」
「ブスで嫌われないかな……」
「今の発言、聞いてたのが俺だけだったことに感謝しろよ、クソ」
「お化粧直してから戻る……」
「まあ、あれだ、顔のことは……。まあ、それなりにかわ……、か、か、か、かわいいから! 気にしなくて良いって……、おい……! おい!? 一人で喋らせるな! ボケ!」
後ろで何かを言っている壮亮から離れて、ふらふらと足を動かした。
エレベーターで最上階を選んだら、すぐに役員フロアにたどり着く。
自室へ行く前に化粧室に寄って、鞄からポーチを取り出した。
パウダーを塗り直して、ビューラーで睫毛をもう一度あげてみてから、最後にコーラルカラーのリップを塗り直した。
できるだけ綺麗にお化粧を直して、鏡の前で真顔を作ってみる。
お化粧一つで、とくに大きく変わることはないと知っているけれど、好きな人には、すこしでもかわいいと思ってもらいたい。
『ゆずは、かわいい』
「あー、うう、だめだ。にまにましてる……」
遼雅さんの声を思い出すだけで、ふにゃふにゃになってしまう。
どうしたものだろうか。
遼雅さんの瞳を思い返して、むっと顔に力を入れてみる。その表情がすこしおかしくて、一人で笑ってしまった。
なんだかんだと言いながら、壮亮は遼雅さんのことを気に入ってくれていたみたいだ。
うれしくなって、やっぱり鏡に映る自分は、小さなころの自分と同じように、にまにまと笑ってしまっていた。
はやく遼雅さんにも、たくさんお話したい。
結局また遼雅さんのことを考えてしまっている自分に気づいて、笑ってしまった。
「……だいすきすぎる、どうしよう」
13時までは、まだすこし時間がある。
ゆっくりと息を整えて、ポーチの中身を鞄にしまい込んでから、静かに化粧室を出た。
相変わらず閑散とした印象の廊下を抜けて、首から下げていたセキュリティカードを入り口にかざした。かちゃりと開錠した音が鳴って、ゆっくりとドアノブに力を入れる。
渡部長の事件があったからか、二日後には大々的に施工会社が入って、各部屋の扉が交換されることになった。
例にもれず専務付きの秘書室にも適応されて、普段部屋に入ることができるのは役員の皆さんと秘書課の社員だけになっている。
重要なものだから、つねに首にかけるようにしているけれど、失くしたら一大事だ。
室内は小一時間前にあったまま、静まり返っていた。遼雅さんはたぶん、役員室でまた仕事をしているのだろう。
静かに入室して、鞄を机の中にしまう。
紅茶でも淹れてこようかと思い立って、動き出しかけていた足をすぐに止めた。
たぶん、帰りが遅いことのほうが心配をかけてしまう気がする。何も持っていないけれど、とりあえず顔を出そうと決めて、役員室に足を向けた。
ノックは三回。
軽く鳴らせば、私が声をあげる前に「入って」と促されてしまった。
3
あなたにおすすめの小説
ホストと女医は診察室で
星野しずく
恋愛
町田慶子は開業したばかりのクリニックで忙しい毎日を送っていた。ある日クリニックに招かれざる客、歌舞伎町のホスト、聖夜が後輩の真也に連れられてやってきた。聖夜の強引な誘いを断れず、慶子は初めてホストクラブを訪れる。しかし、その日の夜、慶子が目覚めたのは…、なぜか聖夜と二人きりのホテルの一室だった…。
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる