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えぴろーぐ
2.
しおりを挟む今日も定時で仕事を終えて、遼雅さんよりも一足先に自宅にたどり着いていた。
しっかりと家に着いたことをメッセージで伝えて、すぐに返ってくる返事に笑ってしまう。
心配性だから、もしかしたら、私から連絡がきたことがわかるように、肌身離さず持ってくれているのかもしれない。
遼雅さんが携帯を握りしめているところを想像して、もう一度笑えてしまった。
料理をしながら、遼雅さんの帰宅連絡に気づいてすぐに返事を打った。
あと20分もしないうちにたどり着いてしまうみたいだから、今日は先にお風呂に入ってもらうことになりそうだ。
一人で計算をして、黙々と作業に取り掛かる。
遼雅さんはやっぱり、私が思った通り野菜のスープがすきだと言っていた。
意外にあっさりしたものが好みなのだとおどろいたけれど「柚葉さんが一番おいしそうに食べるから」と言われて、声に詰まってしまったのが良い思い出だ。
結局まだまだ探しきれていないのだけれど、今日はこりずに野菜のスープにしてみた。
一人満足して次の作業に取り掛かろうとしたところで、玄関から音が聞こえてくる。
いつものようにスリッパで駆けだして、扉が開くのと同時に玄関の前にたどり着いた。
もう、私がここに立っていることを予想していたらしい人が、扉が閉まり切る前に両手で抱きしめてくれる。
「おかえりなさい」
「ただいま、柚葉」
すこし前にも会っていたはずなのに、おかしい。
やっぱり遼雅さんはきちんと公私を分けていて、お昼休み以外は完璧な上司にしか見えないから不思議だと思う。
ぎゅうぎゅうと抱き合って笑えば、身体なんてすぐに熱くなってしまった。
「……あたたかいです」
「それはよかった。今日もかわいいね」
「かわいくは、ないですけど」
「あはは、そう? 俺にはかわいく見えます。すきだよ、ゆずは」
以前までは好きなんて全然言ってもくれなかったのに、あの日以来、遼雅さんの口癖に「すきだよ」が加わってしまったような気がする。
いまだに新鮮に照れてしまうから、遼雅さんのちょっとしたからかいなのかもしれない。
「あ、そうだ」
「うん?」
「今日、会長にからかわれちゃって」
「会長?」
「遼雅さんとの結婚生活のことです」
「ああ、今日面談だったもんね。何だって?」
ぎゅっと抱きしめてくれていたところから、そのまま簡単に身体を持ち上げられてしまった。
「きゃ、」
「ゆずは、ちゃんとご飯食べてる?」
「た、べてます、いつも遼雅さんと、同じごはん」
「ん~、やっぱり羽根かな?」
「ふふ、もう」
やさしくソファに下ろされて、すぐ隣に座った遼雅さんに口づけられる。私の髪に触れて、梳くように耳にかけてくれた。
至近距離で視線が交わる。
「それで、なんだってからかわれたんですか?」
「あ、うーん、大したことじゃないけど」
「そろそろ子どもの顔が見たいって?」
くつくつと喉で笑って、けろりと囁かれた。
私の頭にそれが浮かんでいることに、遼雅さんは初めから気づいてしまっていたらしい。気恥ずかしくなって頬を両手で覆ったら、どこまでもあまい瞳に見つめられてしまった。
「かわいい顔、隠さないで」
「う、あ……、はずかしいです」
「なんで?」
「まさか、そんなことをからかわれるなんて……」
「あはは、からかってなんかいないだろうと思うよ。会長、柚葉のことは娘みたいに可愛いがってるからね」
会長を思い浮かべているのか、呆れのような、安堵のような顔をした遼雅さんが笑って、私が頬に触れている指先をやさしく剥がしてしまった。
当然に、隣り合った手が繋がれてしまう。
「期待には応えないと」
「ええ?」
「うん? だって俺たちの恩人だよ」
「それは、そう、ですけど……」
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