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しおりを挟む「ル、イス……っ、あ」
「どうした」
低音がなだらかに囁く。ソフィアはしゅるりとワンピースの腰紐が解かれる音と、ルイスが耳を舐める音を聞きながら、その腕にしがみつく。
「ねえ、聞きたいことが、あります、の」
「……今か?」
番の体調に気遣って手を出さずにいたはずの男は、その女に嫋やかに誘われ、欲望を抑えられるわけもなく、熱心に華奢な身体を弄っている。
「今、よ」
「……なんだ?」
ソフィアはすでに欲望に支配されつつあるルイスの姿を見やって、うっとりと微笑んだ。呪いの効果が薄れている今、ソフィアがこの男とまぐわう理由などどこにもない。ただ、戯れているだけだ。
「どうしてわたくしの呪いが、獣人から受けたものだとわかったの? それに、対処法も」
ソフィアは、こてりと首をかしげながらゆったりとルイスの襟元に手を伸ばす。繊細な手つきで彼の襟元の釦を解いたソフィアは、ルイスが瞳をぎらつかせながら顔を寄せてくるのを見た。
「っん、……ぁ」
「貴女がライを生かすためにその手で触れた日、ライは貴女が獣人に触れてはならない呪いに犯されているにもかかわらず、己の身を守ったのだと俺に記憶を見せてきた」
「記憶、を?」
「ああ。……まだ話していなかったか。あいつは、見た記憶を俺に見せることができる。機嫌が良いときだけだがな。それから、フィア。ライは俺の命が尽きるまで、どのような攻撃を受けようと死にはしない。いいか? 決して無茶をして守ろうとするな。ライは必ず目を覚まし、身体を修復させることができる」
まさか、記憶を見せる能力を持っているのだとは思わなかった。それも、ライは果敢に敵に立ち向かっていくが、それが不死身ゆえの行動であったとは知らない。
ルイスは今、おそらく口外すべきではない事実をソフィアに話して聞かせている。ソフィアはそのことに内心でひどく焦りつつ、ルイスの顔を見上げた。
至近距離で琥珀の瞳が輝く。やはり、この輝きはルイスの瞳にしか現れない。
「これまで、ライが貴女の記憶を見せてきたのは、貴女がライを救った二回のものだけだ。ライはよほど、貴女との記憶を独占していたいらしい。相当フィアに惚れ込んでいるようだ」
「ふふ、可愛い」
ソフィアがライを愛でるような言葉を発した瞬間、ルイスの瞳がいたずらに光った。彼はソフィアが呆気に取られている間に、乱した胸元に顔を寄せて甘やかな皮膚を口吸う。
「ぁっ、ルイス、痕が」
「ああ、貴女は雪のように白いから、よく色づく」
番の気を引くことに成功したルイスはくつくつと上機嫌に笑いながら、可愛らしく睨みつけてくるソフィアの頬に口づけた。
「獣人の呪いなど、聞いたこともない話だ。貴女の知るとおり、獣人は魔力を持たない。呪いというのはまじないの一種だろう? 魔力を持たない俺たちには縁のないものだ。そのはずが、ライは、貴女に掛けられた呪いが、獣人から受けたものだと鑑定した。あいつは鼻と勘が良い。滅多なことでは間違えない優秀な使い魔だ」
「信頼していらっしゃるのね」
「好く者まで、俺と同じようだからな」
たっぷりと蜜を絡めた砂糖のような声で囁くルイスに、ソフィアはわずかに身体を震わせてしまった。
今宵の騎士は、どこまでもソフィアを慈しもうとしている。
彼女はそのことを再び理解させられ、耐えられずに形のいい男の唇に自身のものを重ね合わせる。
「私とも好く人が同じみたい」
「フィア?」
「ライは、貴方がオリバー・マクレーンに暴言を吐かれたとき、とっても怒っていたわ。貴方のことが、大好きなのね。ルイス?」
意趣返しをして、ソフィアははだけさせたルイスの首元に吸い付く。ちゅう、と音を鳴らして顔をあげれば、瞳を欲望に燃やした男が、彼女を射抜かんばかりの視線で強く見下ろしていた。
ソフィアの腰を掴む男の手に力が入る。
「ルイ、」
「もう良いか?」
「まだ、ん、ぜんぶ、聞いてない、わ」
「……貴女は悪女だな、フィア」
ソフィアの前釦を器用に片手で解いて行くルイスが、静かに口を開き直す。
「獣人の過去に詳しい者が一人いる」
「過去に詳しい?」
「シェリーだ。貴女はまだ知らないか? シェリーは学者を多く輩出する家の生まれだ。特に歴史に詳しい獣人一家の令嬢で、今は彼女が志願したために獣軍に籍を置いている」
ソフィアはまさか、寝台の上でその女性の名を聞くことになるとは思わず、僅かに眉を顰めてしまった。その表情は、取り繕われたものではない、ソフィアの本心を表している。
そのことに気付いたソフィアは、不規則に鼓動を刻み続ける心臓を鎮めようと呼吸を繰り返していた。
それも、ルイスが開け広げたワンピースの中へと手を侵入させ、下着の下に指先を潜り込ませたときにすべての考えが飛び散った。
「ん、っ、るい、す」
「獣人に触れることのできない呪いがあるのか、とシェリーにそれとなく声をかけた。そこで聞いたのが、今貴女を苛んでいる呪いだ。獣人が最も強い念を注いで完成する呪いだと聞いた。解術は困難を極める。だが、対症療法はあるらしい。それが、獣人の体液を摂取することだ。獣人の祖先が、このグラン帝国に移住するよりも以前に会得し、しかし禁忌としていたまじないだと聞いている。貴女の祖先が、そのまじないを受けたのだろうな」
淡々と語りながら、ルイスはソフィアの胸のふくらみに手を差し入れ、硬く立ち上がる蕾を爪先で引っ掻く。ソフィアはその微弱な刺激にも身体を震わせて、ルイスの身体にしがみついた。まるで、欲しがる雌のような行動だ。
ルイスは怯えるソフィアが縋り付いてきているだけだと知りつつ、胸に甘い感触を覚えていた。
「シェリーさんの言葉が、っ、まちがって、たら……っ、ん」
「俺がただいたずらに、貴女を強姦しただけになっていただろうな」
「きけん、すぎる」
「ああ。だが、シェリーはああ見えて、歴史の読み解きを違えない」
それ以前にルイスは、ソフィアが身体を桃色に染めながら夜道を歩いている姿を見てしまえば、欲望に囚われずに居られるはずがない。
ルイスは馬鹿馬鹿しい事情を押し隠して、もう一度胸の先を指の腹で愛でた。散々ルイスの手に慣らされたソフィアが、猫のように高い鳴き声を上げて身体を痙攣させる。
「信頼して、いらっしゃる、のね」
息を弾ませたソフィアが、ぽろりと言葉をこぼしてくる。ルイスはその言葉が、まるで拗ねる子どものような響きであることに気付いた時、己の背筋にぞくりと陶酔が痺れるのを感じた。
「……嫉妬しているのか?」
耳元に囁けば、ソフィアの頬が赤く染まる。間違いなく肯定を示す表情を浮かべたソフィアを見下ろしたルイスは、たまらずソフィアの唇に食らいつき、その身体を寝台に押し倒した。
「ん、……ん、っふ、ぅ、あ」
これほどまでに愛おしい存在があって良いのだろうか。
ルイスは胸に広がる充足感と、何度肌を合わせても消えない飢餓感の狭間で唸るように喉を鳴らし、ソフィアの口内を犯す。
ちゅく、と音を立てて舐めあげれば、ソフィアの手が、おずおずとルイスの手に近づいて、指を絡み合わせた。
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