要らないオメガは従者を望む

雪紫

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身体が熱い、苦しい。ベッドの上で胎児のように丸まるリオは、熱を逃すため張り詰めた下肢に手をかける。だが、アルファを知ってしまった身体は、もう1人ではどうにもならなかった。

(もう、早く欲しい……)

熱に侵された身体は、発情期の間だけの伽を待ち望んでいる。仕事で半強制的に身体を繋げさせるのは相手に申し訳ないという気持ちになるが、発情期に入るとそんな思いは消える。
早く部屋に来て欲しい、早くアルファの、彼の熱が欲しい、とリオは身体を慰めながら1人では得られない快感を求める。


窓から覗く夕日が沈む頃、ドアが開いた。入室時の声掛けは、今のリオには聞こえない。アルファの匂いが鼻腔を占め、リオは期待からか身体を震わせた。

「遅くなりました、申し訳ございません。リオ様が離れにいらしたのは知っていたんですが」
「あぁ、はっ、……どうでもいい、から、……はやく」
「……かしこまりました」

リオの従者、シルヴェスター・ダニング、もといスライは手に持っている薬をリオに飲ませる。避妊薬だ。
オメガの発情を沈める伽は、いつも薬を飲ませてから始まる。口内にある唾液だけで十分飲み込めそうだったが、ストローの入ったグラスから水で流し込んだ。
すぐに一糸まとわぬ姿に剥かれ、四つん這いにさせられる。力の入らないリオの身体、肩はぺたりとベッドに倒れている。膝立ちしているため尻だけを高く上げているような格好になった。
蕾は分泌される液で既に濡れ、ベッドシーツにポタリポタリと竿を伝ってシミを作るほどだった。白い手袋を取ったスライの指がゆっくりとリオの中に沈んでいく。

「あっ、ぁ、ぁ……、んんぅっ……」
「……痛くないですか?」
「たくない、もっ、指しなくても……は、はいる、から」
「傷を、付けたくありませんから。もう少し待ってくださいね」

子どもをあやす様に、中に埋めてない方の手で頭を撫でられる。もう片方は濡れそぼった秘部に指を三本入れ込み、丁度臍の裏側を擦るように刺激している。何度もリオの熱を沈めたスライは、リオの最も敏感な箇所をよく知っている。一際強くそこを押し込まれると、連動してリオの身体が跳ねた。爪先がピンと伸び、掴まれているシーツはより強い皺を作る。内側から波のように快感が押し寄せ、リオは下唇を噛んで気持ちよさから出るみっともない声を抑えた。

「リオ様、唇は噛んではいけませんよ。何度も言ったでしょう?」

スライの指が口元に当てられ、噛むことが出来ないように口内に入ってくる。

「ん……ぅあ」
「……リオ様、もう、いれますね」

一度達した後ろはスライの男根をゆっくりと呑み込んだ。待ち望んだアルファに全身が粟立つ。太いものが中に入ってきて苦しいはずだが、喜びや気持ちよさの方が遥かに大きかった。スライの指が口を閉じさせてくれないから、矯声がひっきりなしに部屋に響く。

「ぁ、ぁああっ……!」
「っいれた、だけでいきました?」
「やっ、ん~~っ、はっ、うぅ」
「いいんですよ、もっと、良くなって下さいね」

抽挿は速いわけでも、激しいわけでもない。だが、弱い部分を的確に通過し突くように動かれては、往復の度に身体が軽く絶頂を迎えてしまう。リオは与えられる快感に身を委ねた。






目が覚めると、発情期の熱は治まっていて、共に過ごしていた銀髪の男は部屋にいなかった。アルファの精を受けると、オメガの発情は治まる。先程のスライとの性交は夢などではないことがひしひしと伝わって、リオは複雑に表情を歪めた。

この世界には、アルファ、ベータ、オメガと男女の性の他に第二次性と呼ばれる性別がある。人口の1割2割ほどで、生まれつきカリスマ性や才能に恵まれているアルファ、人口の8割りを占めるほとんどが平均的、平凡と言われるベータ、そして、アルファより少なく珍しいオメガ。この3つの性に別れている。
オメガは全てにおいて平均以下だと言われており、2、3ヶ月に1度発情期が訪れる。男女関係なく妊娠ができるが、男の場合は番にならなければ子は産まれない。番、とはアルファとオメガの間だけに生まれるもので、発情中のオメガの項を噛むことで番関係が結ばれる。

伯爵家次男のリオ・アイリーンは、オメガだ。
半年前に発情期が始まってしまってからは、アルファの従者スライと褥を共にすることで発情を治めて貰っている。リオはそれが申し訳ないと感じており、今回もまたスライに性欲の処理をさせてしまったことに後悔していた。

苦しげな表情で何度も謝るスライが頭に蘇る。
初めて発情を迎え部屋に籠っていたリオの元にスライはやってきて『御館様の命です、申し訳ございません』と苦虫を噛み潰したような表情で言ったのだ。当時のことはあまり記憶にないものの、何度もスライが謝っていたことは鮮明に覚えている。
したくも無い事を仕事として強制されて、いやリオが強制してしまっている。
今はもう謝られてないにせよ、スライの気持ちを考えるとリオの心は傷んだ。

ベッドから半身起き上がり、水差しを取る。カーテンから覗く日差しが夕焼け色をしていおり、長い時間寝ていたことに気がつく。身体はあちこちが変な痛みを持っているが、肌も衣服も、シーツも綺麗になっている。スライに全てさせてしまったと、またもや申し訳なさが溢れた。
リオがオメガだということは、父と兄、それから従者の1人スライしか知らない。その他の使用人には、リオは妾の子でベータだと認識されている。そのため、リオは発情期が来る週になると屋敷の離れへ移動するのだ。離れは、仕事に集中する際や機密情報を扱う際に使用するという表向きの理由で、決まった使用人以外は立ち入り禁止になっている。
本来なら侍女がするであろうことも、この離れへ居るうちは全てがスライの仕事になるのだ。

スライに負担ばかりかけている。王族の側近になることも、王宮に上がるわけでもないリオに仕えていて、はたしてメリットはあるのだろうか。
オメガは家督になることも無いし、城に仕えることも出来ない。かつて王妃にオメガがいたが、国王を裏で操り政治を支配していたと文献が残っていて、頭の悪いオメガは政治に関与してはいけないという認識がある。そもそも、貴族社会にお披露目もされていないのだ。将来功績を立てるどころか捨てられる運命にあるリオは、深いため息を零した。

「失礼します」

スライが部屋に入ってくる。発情期が終わった直後は、どういう顔をしていればいいのか分からない。リオはいつもより素っ気なく「あぁ」と答えたつもりだったが、掠れた息しか出なかった。
飲み物を持ってきます、と部屋を出ていったスライだが五分も経たずに戻ってくる。

「ホットミルクです。ちゃんと甘いやつですよ」
「んん゛、……いつの話だ」

スライはからかうように、紺色の瞳を細める。
幼い頃、眠れぬ夜に蜂蜜入のホットミルクを初めて飲んだ時以来「甘いのがいい」「甘いのがいい」と朝食のミルクに文句を言っていたのをリオは思い出す。それからというもの、ミルクには決まって蜂蜜が入っている。
白い湯気を放つカップを手に取り、熱いうちに飲む。暖かい飲み物は喉をいたわっている様に感じるから不思議だ。

「声を枯れさせてしまって、すみません。御体はどうですか?」
「……っ!」

部屋に入ってから、昨日のことには触れてこなかったため、気を抜いていたリオはホットミルクで噎せそうになる。

「問題ない、お前のせいじゃないから謝るな。いつも言ってるだろう、謝るべきなのは僕の方だと」
「リオ様に謝られる道理はありません」

ただ、リオが拒めば済む話なのだ。「発情期でお前に抱かれるのが嫌だ」と、そう言えばスライは次男のオメガの従者じゃなくなる。仕え甲斐のないリオの側へいるより、時期領主の兄に仕えた方がいい。心ではそう考えているのに実行には移せない。発情期が来てから、リオは自分の意思がこれほど弱いものなのかと思い知った。

横目で彼を見ると、スライはリオを肯定するような優しい笑みを浮かべる。胸が痛くなった。

好きな男を、自由にしてやることもままならない。


「リオ様、……少し失礼します」

スライが顔を寄せ、すん、と匂いを嗅がれたのがわかる。少しの空気の揺れに期待か不安か、何かを感じてぞわりぞわりと背中を這う。まだ発情期は終わってないらしい。
発情期はアルファの精を受けると治まる、が必ずしも1回でという訳では無い。今回を含め発情期を3回経験しているが、1回の性行為で発情が治まったのは初めの1回のみだ。2回目に至っては、三日三晩2人は部屋へ篭っていた。

「もう一日、必要なようです。お食事は後でもよろしいですか?」

主人の返事を待たずに、スライは遠慮がちにリオをベッドへと押し倒す。言葉を言わなくても伝わっていた。







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