要らないオメガは従者を望む

雪紫

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6【終】

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いつもの比じゃないくらい、身体が痛む。
だが、その痛みも気にならないくらい、沢山スライからの愛情を貰ったと思う。
リオは無意識に頬を緩め、リオに触れている温もりに触れる。いつもは起きたらベッドに1人だが、今日は違っていた。

「おはようございます」
「おはよう……起きてたのか」

後ろを振り返ると、リオを抱きしめながら横寝するスライがいる。昨夜のことが脳裏に過ぎり、リオは熟れた果実のように顔を染めた。

「お身体は、大丈夫……ではなさそうですね。申し訳ございません」
「謝るな、毎回言ってるだろ?」
「ええ、そうでした。謝ることも、我慢することも、もういいとおっしゃいましたね」

我慢、という言葉を強調してスライは言い、リオはそれにピクリと反応する。

「我慢は……慣れるまで、待ってくれ」

スライは、リオの全身を愛するように至る所に触れた。胸の突起はもちろん、身体の中心も、濡れた秘部にも、触れるだけでは飽き足らず、舌をも這わせるのだ。
発情期の真っ只中ならリオもそれほど問題視しなかったのかもしれないが、生憎まだ理性が残り意識がある中では、恥ずかしくて耐えられなかった。

「ええ、早く慣れてくれるよう私も頑張ります」
「あんなの、……慣れる日が来るのか?」
「ああいった愛撫は、よくあるものですから大丈夫ですよ」

よくある、と聞き世の中の恋人夫婦がとても強いものに感じられる。すごいなと呆然と考えていると、スライがリオから離れた。咄嗟に腕を掴んでしまう。

「水と新しいシーツを持ってきます。リオ様はお召し物を着ておいて下さい」

過剰に反応してしまったリオは気まずく顔を俯かせたが、スライが嬉しそうな笑顔をしていることは見なくても分かった。

「リオ様……」
「わっ、んっ……んぁ……ぅ」

俯いた顔を捉えられると、やや強引な口付けが待っていた。昨夜何度も何度も唇を合わせたが、慣れるという感覚は全くない。

「リオ様はキスがお好きと言っていましたので、つい。ではすぐ戻ります」

サッと服を纏って、部屋を足早に出ていった。
人をからかっている顔であるのに、随分楽しそうな顔をしていて、リオは何も言葉が出なかった。キスが好きだと言うのは自分の中で最近発覚した事実だし、何も否定できないが、やられっぱなしで少し悔しいと思うリオであった。





ベビーベッドで、すやすやと眠る双子が向き合っている。小さな命の誕生を純粋に喜ばしいと感じられるのは、スライのお陰だ。

「小さくて可愛いなぁ……」

ゆっくりと指を赤子の手に近づけると、ちいさな力でぎゅっと握ってくれる。体温が心地の良い暖かさで、リオは癒されていた。

父の情けか、気まぐれか、リオは兄マシューと生まれてきた双子と対面する機会を最後に設けられていた。
はっきりと兄を目にしたのはいつだろうか、リオの記憶にはない。
今目の前にいるマシューは病気がちだと思えないくらい、元気そうでリオは嬉しく思う。

「面と向かって話せるって言うのに、暫く会えないとなると悲しい」

表情を曇らせたマシューが、リオを抱き寄せる。

「大丈夫です、またすぐに会えますよ。兄さん」
「僕が父を黙らせるくらい立派になって、君を屋敷に招待するよ。なんなら、もう一度ここで暮らそう」

抱擁は、まるで昔から仲のいい兄弟だったかのように自然で、もしオメガでなかったらこうしてよく面倒を見られていたかもしれない、と考えてみる。
ごほん、とわざとらしい咳払いが聞こえ、リオはそっと後ろへと引かれた。

「リオ様は私が幸せにしますので屋敷には戻りません。それとくっつきすぎです、マシュー様」
「素直になったもんだね。前は敬愛ですと一点張りだったのに」
「一方的な思いは、相手を困らせるだけですから」

なにやら、リオの知らない話をしている2人は気が合わなさそうで合っている気がする。

「何はともあれ、君たちが両思いでよかったよ」
「はっ?」

いつの間にそんな話になった、とリオは2人を見上げる。
と、その時ベビーベッドで寝ていた2人がぐすぐすと声を上げ始めた。さっきまで心地よさそうに眠っていたのに。

今部屋には乳母が居ないため、マシューが2人を抱えあげ一定のリズムで揺らす。「よしよし」と優しげな声をかけていると、双子はまたも眠りについた。

「僕達が兄さんを独り占めしたから、寂しくなったのかな?」
「どうでしょうね、赤子の気持ちは難しいです」

マシューの元へ寄ると、彼は父親の顔で子どもたちを見つめていた。慣れてない手つきでベッドに双子を戻すと、2人は手を取り合うように小さな手を触れ合わせている。

「すぐに泣き止んでくれてよかった、冷や冷やしたよ」

「乳母には尊敬する」と言いながら、マシューは2つの頭を撫でる。

「リオも次に会う時は家族が増えてるのかな、楽しみだ」
「かっ、家族……」

とんでもない事を言うマシューに目を真ん丸くするリオ。当の本人マシューは微笑んでいる。

「3人かな~、4人かな~、何人家族になるだろうね」
「や、やめてください……」

そんな考えてもなかった先のことを言われ、リオはじわじわと顔を赤くする。

「そんな反応されたらもっと言いたくなるねえ。まあ、君の従者が怖い顔をしてるから言わないけど」

ポーン、と時計が正午を告げる鐘を鳴らした。
屋敷に、馬車が着く時間だ。

「もう、お別れか。リオ、街は安全とは言い難い場所が多いから気をつけて。シルヴェスターから離れるんじゃないよ」
「わかりました」

からかう時とは打って変わって真剣な表情になった兄に、リオはこくこくと頷く。小さな子どものように注意を言われてしまったが、心配してくれているという喜びの方が大きかった。

「シルヴェスター、リオを宜しく。是非幸せにしてやってくれ」
「勿論です」

最後にもう一度マシューに抱きとめられて、「不甲斐ない兄でごめん、また会おう」と伝えてくれた。






アデルへと行く馬車は既に屋敷に着いており、荷物と一緒に乗り込んだ。
誰からの見送りもないが、辛さや悲しみなんてものは何一つなかった。

リオがオメガではなかったら兄からも父からも無視されず、このままアイリーン家次男として生きていただろう。だが、それはリオにとってはいいこととは言えない。
隣に座る、スライを見上げながらそう思う。

(オメガでよかった、なんて……僕がそんなこと考えるとは)

自分がオメガだから、父に嫌われるのか、兄に空気のように扱われるのか、幼い頃はリオ自身に問題があるんだと思い悩んだ時期もあった。発情期が来てからも、スライに伽を強要させてしまうオメガ性が嫌だとしばし思った。けれど、今は違う。
オメガだからこそ、存在する喜びもあるのだ。

(家族……とかも、オメガだからできる事だしな……)

窓から入る光が、スライの銀髪を真っ白に照らす。もし、子どもができたら、どんな子どもに、どんな性格になるんだろう。
マシューの言葉を真に受け、リオは今日会った双子くらいの可愛らしい銀色の髪の赤子を想像する。

視線に気づいたのか、スライがこちらを振り向いた。

「いい風ですね、リオ様」
「あ、ああ……」
「顔が赤い、暑いですか?そちら側のカーテンを閉めましょうか」
「いや、大丈夫だ」

不思議そうな顔を浮かべたスライだったが、すぐに何かを見通しているような笑みに変わった。椅子に座る距離を縮められ、「何を考えていたか当てましょうか」と意地悪く言われる。

「マシュー様の言っていた家族のことでしょう?当たってますか?」
「……う、合ってる」

穴があったら入りたい。なんでこう、嫌な部分で鋭いんだろうか。

「では先ずは……番から、ですね」
「つっ、つがいっ!?」





アイリーン領内からアデルへ向かう馬車は、透き通った空の下軽快に進む。新しい世界に踏み込むリオに、なんの不安もなかった。

スライがいれば、どこだってそこが居場所になる。


スライはリオに優しく口付けを落とし、「アデルへ着いたら、やることがいっぱいですね」と微笑んだ。













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