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第10話 エルフに気に入られたっぽい
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気が付くと、だいぶ身体が冷えている。
久しぶりに歌ったので、時間を忘れて夢中になってしまっていた。
パチパチパチ――――
そろそろ部屋に戻ろうかと思ったところに、拍手をしながら、誰かが近寄ってきた。
「誰――!?」
追っ手かもしれないと、身構える。
「驚かせてしまってすみません。とても綺麗な歌だったものですから、つい、聴き入ってしまいました。突然のお声かけ、お許しください」
暗闇から現れたのは、月に照らされて輝く綺麗な長い金髪と、アメジストのように深い紫色の瞳をした人だった。
わ~~!!きれいな人だなぁ!
思わず見惚れてしまう。
この世界の人は、前世基準で見ると、みんなかなりの美形なのだが、この人はひと際美しい。
透き通った白い肌に、まさに天使の輪のようなキューティクル煌めく長い髪。筋が通った高い鼻と、薄めだけど形の整ったピンクの唇。切れ長のミステリアスな紫の瞳に見つめられた日には、どんな人も、舞い上がってしまうだろう。
「申し遅れました。私は、ハインツ・ランガオーアと言います。エルフ族です」
そう言って挨拶してくれたハインツさんを改めて見ると、確かに、エルフ族特有の長い耳をしている。
歴史の授業で、この世界にエルフという種族が存在していることは知っていたが、実際に見たのは初めてだ。教科書で見た挿絵より何千倍も美しい姿をしている。
「どうも……」
あまりの美しさに、うまく言葉が出てこない。
ハインツさんは、中性的な顔立ちと声をしていた。髪が腰まで長く、細身なので、女性のように見えるが、とても背が高く、スタイル抜群だ。もしかすると、ルドと同じくらい背が高いかもしれない。
性別を超えた美しさというのは、ハインツさんみたいな人のことを言うのだろう。
「とても素晴らしい歌でした。盗み聞きするような真似をして、失礼かとは思ったのですが、初めて聴く歌ばかりだったので、思わず声をかけてしまいました」
「あ、ありがとうございます」
「こちらこそ、素敵な歌をありがとうございます。ところで、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「あ、僕は、ウィルフォ――ごほんっ。ウィルといいます」
「ウィルさんですか。どうぞよろしく。先ほどの歌は、どちらの国の歌なのですか?」
「あ、えーと……」
日本語や英語の歌を歌っていたので、ハインツさんは、異国の歌と思ったのだろう。前世の歌ですとも言えず、嘘をついてしまった。
「どの国の曲なのかは僕も知らないんです。昔、母が歌って聞かせてくれた歌なので……」
「そうですか。ウィルさんのお母さまの歌なんですね。お母さまの故郷はどちらなんですか?」
僕の歌にそんなに感動してくれたのか、ハインツさんがぐいぐい質問してくる。
「えーっとですね……」
何と答えたらいいものかと、考えあぐねていると、ハインツさんが、僕の髪に触れた。
「それに、とても珍しい色の髪ですね。お母さまの故郷の人は、皆このような色なのでしょうか」
「え……」
しまった! ルドにかけてもらった光魔法が切れているんだ! 黒い髪をハインツさんに見られてしまった。
何とか言い訳をしようと、頭をフル回転させていると、ちょうどいいところに、ルドがやってきた。助かった~。いいところに来てくれた~~!
「何者だ!? その手を今すぐ放せっ!」
「ルド!?」
ルドが来てくれてホッとしたのも束の間、もの凄い形相でハインツさんを睨みつけていいる。
隣に駆け寄ってきたルドは、ハインツさんを警戒するように、さっと腕を引いて、僕を身体の後ろに隠した。
「目を覚ましたら隣にいないから、慌てた。頼むから、何も言わずにいなくならないでくれ」
「あ、ごめんなさい……」
おぉ……怒っている。
「無事だったならいい。それより、その人は誰だ?」
「はじめまして、私はエルフ族のハインツ・ランガオーアです。偶然、ウィルさんが歌っているところを通りかかり、綺麗な歌声を楽しませてもらいました」
「歌、だと……?」
「ひいっ――!」
ルドの僕を見る目が怖い。
ルドもリヒトリーベの人間なので、歌がずっと禁止されていることを知っている。その国の王子である僕が、歌を歌ったことに怒っているのだろう。
「どういうことだ、ウィル?」
「えーと……その~……」
「おや? 何か問題がありましたか?」
事情を知らないハインツさんが戸惑っている。
「いや、こちらの話だ。それよりも、ウィルが迷惑をかけた」
「迷惑なんてとんでもない! とても素敵な歌でした」
「そんな、大袈裟ですよ~」
歌を褒められたことが嬉しくて、つい調子に乗ってしまうが、ルドに睨まれ、慌てて口を噤む。
「そうだ! もし、よろしければ、何かお礼をさせていただけませんか?」
「礼だと……?」
わ~ルドがめちゃくちゃ警戒している。
「はい! こんなに美しい歌声を聴いたのは初めてです。ウィルさんさえよければ、ぜひ、歌のお礼したいです」
「余計な気遣いは無用だ」
「ちょっ――! なんでルドが断るのさ! 歌ったのは僕なんだけど!」
ルドの無慈悲な即答に抗議する。
「つかぬことを伺いますが、ルドさん、でしたか――は、ウィルさんの恋人か何かですか?」
「「は――!?」」
唐突な質問に、思わずルドとハモってしまった。
「あまりにも過干渉なので、もしかして、恋人であるウィルさんが、他の男と二人きりでいたのが、気に食わなかったのかと思ったのですが、違いましたか?」
あ、ハインツさんて男性だったんだ。こんなにキレイな男性もいるんだなぁ。
ハインツさんの美貌に改めて感動し、直前の質問をスルーしてしまったが、ルドは違ったらしい。
「ななななななな――」
意味不明な言葉を発しているルドを見ると、顔を真っ赤にして、わなわなと震えていた。
「おや? 違いましたか。それでは、お兄様……いえ、お父様でしょうか?」
「な、なんだと!?私はそんな歳ではないっ!!」
「おや、それも違いましたか。では、ウィルさんの行動をあなたが制限する理由はないのではありませんか?」
「き、貴様に何がわかる!!」
あちゃー。ルドが爆発した。これはまずい。何とかこの場を収めなければならない。
「ルドに黙って外に出たのは謝る。ごめんなさい。でも、ハインツさんは、悪い人ではないよ! だから、ちょっと落ち着いて! ね?」
「なんだか、ワケありのようですね。ウィルさん、今夜はもう遅いですし、明日また、お礼に伺います。宿はこちらですか?」
「あ、はい。しばらくはこの宿にいると思います」
「わかりました。それでは私は失礼します。おやすみなさい、よい夢を」
「はい、ハインツさんも!」
ルドと僕の様子を見て、気をきかせてくれたのか、ハインツさんは去っていった。
「ルド、とりあえず今日はもう遅いし、明日ゆっくり話そう?」
「は、はい――。かしこまりました」
ダメだ。ルドが敬語に戻っている。普段冷静沈着なルドが、あんなに取り乱すなんて。
ルドの言動は、僕を心配してるからだということは分かっているけれど、それにしても、やっぱり、ちょっと過保護すぎる。
今はもう、王子と護衛という立場ではないのだから、いつまでもルドに護られて生きていくことはできない。
早くルド離れして、自分のことは自分でできるようになりたいし、決められるようになりたいと思う。
そのためには、僕がもっと、ルドに信用されるくらい、一人前にならないといけない。
ベッドに入り、明日どうやってルドと話そうかと考えているうちに、僕は眠りに落ちた。
久しぶりに歌ったので、時間を忘れて夢中になってしまっていた。
パチパチパチ――――
そろそろ部屋に戻ろうかと思ったところに、拍手をしながら、誰かが近寄ってきた。
「誰――!?」
追っ手かもしれないと、身構える。
「驚かせてしまってすみません。とても綺麗な歌だったものですから、つい、聴き入ってしまいました。突然のお声かけ、お許しください」
暗闇から現れたのは、月に照らされて輝く綺麗な長い金髪と、アメジストのように深い紫色の瞳をした人だった。
わ~~!!きれいな人だなぁ!
思わず見惚れてしまう。
この世界の人は、前世基準で見ると、みんなかなりの美形なのだが、この人はひと際美しい。
透き通った白い肌に、まさに天使の輪のようなキューティクル煌めく長い髪。筋が通った高い鼻と、薄めだけど形の整ったピンクの唇。切れ長のミステリアスな紫の瞳に見つめられた日には、どんな人も、舞い上がってしまうだろう。
「申し遅れました。私は、ハインツ・ランガオーアと言います。エルフ族です」
そう言って挨拶してくれたハインツさんを改めて見ると、確かに、エルフ族特有の長い耳をしている。
歴史の授業で、この世界にエルフという種族が存在していることは知っていたが、実際に見たのは初めてだ。教科書で見た挿絵より何千倍も美しい姿をしている。
「どうも……」
あまりの美しさに、うまく言葉が出てこない。
ハインツさんは、中性的な顔立ちと声をしていた。髪が腰まで長く、細身なので、女性のように見えるが、とても背が高く、スタイル抜群だ。もしかすると、ルドと同じくらい背が高いかもしれない。
性別を超えた美しさというのは、ハインツさんみたいな人のことを言うのだろう。
「とても素晴らしい歌でした。盗み聞きするような真似をして、失礼かとは思ったのですが、初めて聴く歌ばかりだったので、思わず声をかけてしまいました」
「あ、ありがとうございます」
「こちらこそ、素敵な歌をありがとうございます。ところで、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「あ、僕は、ウィルフォ――ごほんっ。ウィルといいます」
「ウィルさんですか。どうぞよろしく。先ほどの歌は、どちらの国の歌なのですか?」
「あ、えーと……」
日本語や英語の歌を歌っていたので、ハインツさんは、異国の歌と思ったのだろう。前世の歌ですとも言えず、嘘をついてしまった。
「どの国の曲なのかは僕も知らないんです。昔、母が歌って聞かせてくれた歌なので……」
「そうですか。ウィルさんのお母さまの歌なんですね。お母さまの故郷はどちらなんですか?」
僕の歌にそんなに感動してくれたのか、ハインツさんがぐいぐい質問してくる。
「えーっとですね……」
何と答えたらいいものかと、考えあぐねていると、ハインツさんが、僕の髪に触れた。
「それに、とても珍しい色の髪ですね。お母さまの故郷の人は、皆このような色なのでしょうか」
「え……」
しまった! ルドにかけてもらった光魔法が切れているんだ! 黒い髪をハインツさんに見られてしまった。
何とか言い訳をしようと、頭をフル回転させていると、ちょうどいいところに、ルドがやってきた。助かった~。いいところに来てくれた~~!
「何者だ!? その手を今すぐ放せっ!」
「ルド!?」
ルドが来てくれてホッとしたのも束の間、もの凄い形相でハインツさんを睨みつけていいる。
隣に駆け寄ってきたルドは、ハインツさんを警戒するように、さっと腕を引いて、僕を身体の後ろに隠した。
「目を覚ましたら隣にいないから、慌てた。頼むから、何も言わずにいなくならないでくれ」
「あ、ごめんなさい……」
おぉ……怒っている。
「無事だったならいい。それより、その人は誰だ?」
「はじめまして、私はエルフ族のハインツ・ランガオーアです。偶然、ウィルさんが歌っているところを通りかかり、綺麗な歌声を楽しませてもらいました」
「歌、だと……?」
「ひいっ――!」
ルドの僕を見る目が怖い。
ルドもリヒトリーベの人間なので、歌がずっと禁止されていることを知っている。その国の王子である僕が、歌を歌ったことに怒っているのだろう。
「どういうことだ、ウィル?」
「えーと……その~……」
「おや? 何か問題がありましたか?」
事情を知らないハインツさんが戸惑っている。
「いや、こちらの話だ。それよりも、ウィルが迷惑をかけた」
「迷惑なんてとんでもない! とても素敵な歌でした」
「そんな、大袈裟ですよ~」
歌を褒められたことが嬉しくて、つい調子に乗ってしまうが、ルドに睨まれ、慌てて口を噤む。
「そうだ! もし、よろしければ、何かお礼をさせていただけませんか?」
「礼だと……?」
わ~ルドがめちゃくちゃ警戒している。
「はい! こんなに美しい歌声を聴いたのは初めてです。ウィルさんさえよければ、ぜひ、歌のお礼したいです」
「余計な気遣いは無用だ」
「ちょっ――! なんでルドが断るのさ! 歌ったのは僕なんだけど!」
ルドの無慈悲な即答に抗議する。
「つかぬことを伺いますが、ルドさん、でしたか――は、ウィルさんの恋人か何かですか?」
「「は――!?」」
唐突な質問に、思わずルドとハモってしまった。
「あまりにも過干渉なので、もしかして、恋人であるウィルさんが、他の男と二人きりでいたのが、気に食わなかったのかと思ったのですが、違いましたか?」
あ、ハインツさんて男性だったんだ。こんなにキレイな男性もいるんだなぁ。
ハインツさんの美貌に改めて感動し、直前の質問をスルーしてしまったが、ルドは違ったらしい。
「ななななななな――」
意味不明な言葉を発しているルドを見ると、顔を真っ赤にして、わなわなと震えていた。
「おや? 違いましたか。それでは、お兄様……いえ、お父様でしょうか?」
「な、なんだと!?私はそんな歳ではないっ!!」
「おや、それも違いましたか。では、ウィルさんの行動をあなたが制限する理由はないのではありませんか?」
「き、貴様に何がわかる!!」
あちゃー。ルドが爆発した。これはまずい。何とかこの場を収めなければならない。
「ルドに黙って外に出たのは謝る。ごめんなさい。でも、ハインツさんは、悪い人ではないよ! だから、ちょっと落ち着いて! ね?」
「なんだか、ワケありのようですね。ウィルさん、今夜はもう遅いですし、明日また、お礼に伺います。宿はこちらですか?」
「あ、はい。しばらくはこの宿にいると思います」
「わかりました。それでは私は失礼します。おやすみなさい、よい夢を」
「はい、ハインツさんも!」
ルドと僕の様子を見て、気をきかせてくれたのか、ハインツさんは去っていった。
「ルド、とりあえず今日はもう遅いし、明日ゆっくり話そう?」
「は、はい――。かしこまりました」
ダメだ。ルドが敬語に戻っている。普段冷静沈着なルドが、あんなに取り乱すなんて。
ルドの言動は、僕を心配してるからだということは分かっているけれど、それにしても、やっぱり、ちょっと過保護すぎる。
今はもう、王子と護衛という立場ではないのだから、いつまでもルドに護られて生きていくことはできない。
早くルド離れして、自分のことは自分でできるようになりたいし、決められるようになりたいと思う。
そのためには、僕がもっと、ルドに信用されるくらい、一人前にならないといけない。
ベッドに入り、明日どうやってルドと話そうかと考えているうちに、僕は眠りに落ちた。
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