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第44話
しおりを挟む「いくらエルフが長命とはいえ、五百年も経っていることです。伝え聞いたことが多いので、間違っていることや想像、人の手を渡ったことで途中で少し解釈が変わってしまったこともあるかもしれませんが、了承して下さい」
もちろんリツはそれを含めて受け止めるつもりであるため、レイスの慎重な言葉に無言で頷く。
「……それでは始めます。五百年前、世界を恐怖に陥れていた魔王がいました。それを異世界の勇者、そしてしばらくして、各国から選ばれた勇者たち合計七人の力によって討ち果たされたという知らせが世界に広まりました。大きく広まる少し前にソルレイク様はエルフの里に戻って来たのです」
先ほどのレイスの話にもあったが、パレードに参加することなく急いで戻って来たことは、この話からもわかる。
「そして、戻るとすぐにソルレイク様はエルフの森の状況に手を加え始めました……外か誰も入れないように魔法で森の植物の成長を早めて壁とし、世界樹自体の成長も促進させて巨大化させたのです」
レイスの話によると、この森の変化は五百年という時の流れによるものではなく、ソルレイクが狙って起こした状況であった。
「――あいつはなんでそんなことを……いや、そういうことなのか」
考え込むように腕を組んだリツは最初に疑問を、しかしすぐに自己解決する。
「どういうことなのでしょうか?」
なぜ急にそんなことを、しかも急いで行うことになったのか、セシリアは首を傾げていた。
「俺の予想も含まれるが、きっとあいつは何かを恐れたんだ。あいつ自身が狙われたのであれば撃退することもできるが、里が狙われたたらそうもいかないだろうからな」
「その何か、とは……?」
リツが答えを持っているかはわからないが、心当たりがあるかもしれないと思い、セシリアは重ねて質問をする。
「……俺を闇の世界に封印したやつ、だろうな」
その正体はリツにはわからない。
しかし、あれだけ賢かったソルレイクは恐らくそれが誰なのかわかったのだろうとリツは考えた。
もしくは危険な相手だろうという予測まではたてることができた。
だからこそ、自分や家族や一族を守るために本気で防衛体制を敷いていたと思われる。
「……続けます。ソルレイク様は、そうやって外部の者がここにやってこれないように物理的な壁を作り出しました。もちろんそれだけでなく、元々エルフの里の周辺は幻惑の魔法が森自体にかかっているため、おいそれとここまでたどりつけるものはいないようになっていますがそれをさらに強化したのです」
レイスが説明してくれているが、そんな効果を実感していないセシリアは首を傾げている。
「世界樹の加護だ」
その疑問に答えるかのようにリツがポツリと呟く。
「だと思います。リツさん……つまり、五百年前の勇者は過去にこの世界樹の加護を受けていると聞いています。だからこそ、幻惑の魔法の効果を受けつけずにここまで来られたのだと思われます」
「俺たち勇者パーティの中でも俺とソルだけがその加護を受けることができた。今でもその効果が残っていたようでよかったよ。気配を感じ取れたし、それをたどってこれた。……それにしても、あいつは俺が生きていると思っていたんだな」
完全な結界を用意したわけではなく、強力な幻惑の魔法をかけておく程度にとどめたことから、ソルレイクはいずれリツがここに来るかもしれない可能性を信じていたことがわかる。
「それからソルレイク様は、はるか地上を離れた生活を送る我々のためにここでの植物の育て方、外から戻る方法、魔物との戦い方などを指導してから……」
そこまで言ったところで、少し悲し気な雰囲気を纏ったレイスは家の窓から見える世界樹の木に視線を向けた。
「――この、世界樹に封印されました」
「「!?」」
まさかの言葉に、リツとセシリアは驚愕の表情で世界樹に視線を向ける。
「封印、となるとそれを解くことができればソルは蘇るということなのか……?」
そうすれば、心強い昔の仲間と再会できる――その希望にリツの目が輝く。
だが期待に胸を膨らませているリツとは反対に、レイスの表情はさえない。
「……そうであれば良いのでしょうが、そうではないようです。里や森を守るためにかなりの力を使ったソルレイク様は持てる力の大半を失いました。それこそ、いつこの世から消えてもおかしくないほどでした……。そのため封印されたといっても、その力の一端のみが封じられた状態とのことです」
エルフ族の勇者だったソルレイクの復活は、レイスからしても嬉しいことである。
しかし、それは決しておこらないことであると彼も知っているため、肩を落としていた。
「なるほどな……だったら、その力だけでも封印を解くとするか」
レイスの言葉を聞いてもリツの目から希望は消えていなかった。
真剣な表情で世界樹を見るリツはそう言って立ち上がる。
「……お待ちください! 我々も封印を解く方法がないかと色々調べてはみたのですが、この数百年間、誰一人としてその方法にたどり着くことができていないのです……!」
無駄なことをしてこれ以上期待を裏切りたくないレイスはそう言って引き留めようと腰を上げる。
魔法の得意なエルフが長年頭を悩ませた結果、そこにたどり着かないということは世界中の誰も解くことができないのと同義である。
「――それは、今まで俺がここに来たことがなかったからだろうな……」
ぼそりと呟くように小さくこぼしたリツはぎゅっとこぶしを握って振り切るように背を向ける。
そのままレイスの言葉に止まることなく、家を出ると世界樹の幹へと真っすぐ進んでいった。
その隣にはもちろんセシリアの姿があり、レイスもそのあとを追いかけている。
「……このへんでいいか」
世界樹の太い幹の部分に向かい合うと、一息ついたリツはゆっくりと手を伸ばしていく。
なにが起こるのかと、野次馬のように村人たちが次々に集まっていた。
「ソル……我が友よ、俺の力に応えてくれ……」
祈るように目を閉じたリツは触れた手のひらから魔力を流し込んでいく。
その脳裏にはソルレイクの姿を思い浮かべる。
悪友といってもいいほど気が合ったソルレイクとの思い出は数えきれないほどあった。
そんな彼が自分への何かを残しておいてくれたのなら、その想いに応えたかった。
切実なまでのリツの思いが魔力に乗って世界樹に流れていった。
最初はなにも起こらない。
しかし、数十秒したところでリツが触れたところから徐々に光を放っていき、みるみるうちに光は溢れるように行きわたり、世界樹の枝葉全てが光を放っていく。
それは、誰も見たことがないような神々しい光景であり、エルフたちは自然と膝をついてまるで神にいのるかのように両手を合わせて世界樹を仰ぎ見ていた。
人によってはあまりの美しい光景に呆然と涙を流していた。
数秒だったか、数分だったか、時間の経過を忘れるほどに全員が目の前の光景に目を奪われている。
そして、眩いほど光っていた光が再びリツの手のひらに収束していくと、幹から一つの光の玉が現れ、ぼんやりと人の姿になっていった……。
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