スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも

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第15話 ここ掘れわんわん(キュウキュウ)

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 ぷにょんぷにょんに癒されて、永遠に抱きしめていられると思っていたのに、キュウが不意に体を離した。

「ん? どうした?」

 俺の手から離れようとするキュウを慌てて抱きしめたのに、ぷるんと逃げられてしまった。

「キュウ! なんで!? 俺、なんか嫌なことした?!」

 俺が叫んでいるのにキュウは振り返りもせずに、ぴょんぴょんと跳ねていく。
 もう泣きそう。
 俺に飽きたのか? それともベタベタし過ぎたのか?

 そんな俺の思いが通じたのか、キュウがやっと止まって、その場でぷにょんぷにょんと飛び跳ね始めた。
 俺の方を見て、俺を呼ぶように、力一杯、「キュウ! キュウ!」と鳴いている。

「キュウ。……お前」

 急いでキュウの元に駆けつけると、目を輝かせて一層激しく飛び跳ねた。

「どうした? そこに何かあるの?」

 キュウは褒めて褒めてと言いたげに、木の根元の上で跳ねていた。
 まるで、「ここ掘れわんわん」って言っているみたいだ。
 正確には、「ここ掘れキュウキュウ」か。


「そこに何かあるって言っている?」

 何もなくったっていいじゃないか。
 キュウが掘って欲しいと言うなら、掘ってやるまでだ。

 あ、しまった! こう言う時にシャベルとかを買えるアプリを入れとくんだった。

「ほれ。これでよかろう」

 いつの間にか来ていた老婆が、太い矢印を立体化したみたいな道具を貸してくれた。
 あれ? そんなもの、どこから出したんです? あれですか? 
 アイテムボックスとか、そういう類のアイテムをお持ちですか?


「ほら! ぼうっとしとらんと掘らんか!」

 いつもの枝突き。それやめてよね。

 でも何だろう。キュウは何を知らせたかったんだろう。
 ま、掘るしかない。掘れば分かるさ。

「こら! そんな乱暴に掘る奴があるか! そっとじゃ。そうっと掘るのじゃ」
「はいはい」

 言うこと聞かないとバシバシ小突かれそうだったので、仕方なく、少しずつ土をどかしていく。

「あれ? 今なんか当たった気が」

 なんちゃってシャベルの先端が、固いものに触れた感触があった。

「キュッキュウ!」
「なんだキュウ。ここに埋まっているのが欲しかったのか?」

 そういえば、キュウのスキルに「感知」ってあったな。好物を見つけるのが得意なのか?

 うっかり壊してキュウを泣かせる訳にはいかない。
 俺は手で慎重に土を払いながら、埋まっているものを取り出してやることにした。

 なんと!

 埋まっていたのは卵だった。それもまあまあ大きな卵。見たことないけどダチョウの卵ぐらい?

「うおおっ!」

 老婆が卵を取ろうとしたので、俺は卵に覆い被さって阻止した。
 なるほど。人間にとっても美味しい卵だったんだ。でも、あげないからね。これはキュウに食べさせてやるんだ。

「だめです! これはキュウが見つけたんです! キュウに食べる権利があります!」
「バカ者! 食べる奴があるか! スライムをなんだと思っておる!」
「は?」
「それは魔獣の卵じゃ。卵からかえった時に最初に見た者がそやつの主人になるのじゃ。スライムはお主のために見つけたんじゃぞ」
「え? そうなの? キュウ……お前ってやつは……」

 ヤバい。マジで泣きそう。キュウが可愛すぎる。愛犬だってこうはいかない。

「どうやったら卵が孵化《ふか》するんですか?」
「そればっかりは分からん。卵の段階だと、なんの魔獣かも、どれくらいの個体レベルかも分からんのじゃ。とにかく肌身離さず持っておるしかない」
「え? こんな大きいのを? いやあ、こんなものを持ち歩いていたら、絶対うっかり割っちゃいますよ」
「ああ。街に戻って専用の入れ物を買う必要があるな」

 へえ。そんな専門道具とかがあるんだ。さすが異世界。

「キュウ。キュウ」

 キュウが拗ねたように鳴いている。そうだった。まだ褒めてなかった。

「おいでキュウ!」

 両手を差し出すと、キュウが飛び込んできた。

「よしよし。本当にいい子だなあ。俺は幸せ者だなあ。大好きだよキュウ!」
「キュッキュウー!」

 俺たちの熱い抱擁を、老婆は気持ち悪そうに白けた眼差しで見ながら、「お主。街でそんなことをしておったら変人扱いされるぞ」と、忠告してきた。

「だいたい、契約魔獣をそのままの大きさで連れて歩くのは御法度じゃ。小さくして鞄に入れるか、服のポケットに収めておくもんじゃ」
「え? 小さくできるんですか?」
「お主がそう命じればな」

 ええ? キュウが小さくなる? 手乗りスライムとか? うっほ! 想像しただけで可愛さが爆発してしまいそう!

「キュウ。小さくなってごらん。ほら、この上に乗るくらいに」

 俺はそう言って、左手の手のひらを少し窪ませた。

「キュウ!」

 キュウはぷにょんと飛んできて、そのまま手のひらにすぽっと収まった。

「うううう。可愛い。可愛すぎる」
「キュウ。キュウ」

 涙を滲ませた俺を、老婆が蔑むような目で見ていた。
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