スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも

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第21話 食いしん坊のキュウ

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「ほお。スライムでしたか。なるほど。ふうむ」

 店主は何やら感慨深げにキュウを見ている。
 え、何? どういう反応?


 キュウは、ぷにょん、ぷにょんと、棚の上を器用に移動して、銀色の山に飛び乗ると、勝利の雄叫びのように、「キュッキュウウウーー!」と、一際大きな声を出した。

 え? まさか銀を買ってって、ねだってる?
 スライムに装飾品? 
 ええと。異世界あるある――じゃないよね?


「スライムは水属性じゃからな。金属と相性がいいんじゃ」

 老婆がしたり顔でつぶやいた。

「へ? 相性のいいアクセサリーをつけると何かいいことあるんですか? 魔力増強とか?」
「バカ者。まれにおるんじゃ。直接体内に取り込む個体がな」
「は? 取り込む?」

 鈍い俺に老婆がイラついたのを見て、店主が間に入ってくれた。

「まあまあ。それより、いかがなさいます? スライムは鉄を欲しがっているようですが」

 あ! 
 近づいてよく見ると、確かに銀じゃなくて鉄だった。光沢はあるけど、銀よりも黒ずんでいる。

「キュウ! キュウ!」

 俺がそばに行くと、キュウは俺の顔を見ながら激しく飛び跳ねた。

 これは、子どもがおもちゃ売り場で地団駄を踏みながら、「買ってくれるまで動かない」と、駄々をこねているようなもんかな。

 もうー。キュウったらー。


「おいくらですか?」

 バシッ。

 いや、ここで老婆に枝で叩かれる意味が分かんない。

「はい。当店では、この器の単位でお売りしております。小さいものから順に、十ギッフェ、三十ギッフェ、五十ギッフェになります」

 ふーん。枡みたいな容器で価格が決まっているのね。

「ちなみにその一山全部だと、いくらですか?」
「は?」

 まただ。俺が尋ねて店主が「は?」って言うくだり。

 ああ、大人買いしてしまう俺。
 そのうち、「棚の端から端まで全部ちょうだい」って、言ってしまいそうな気がする。

「え、ええと。そうですね。うーん。二十はあるから――千ギッフェくらいです」

 いや、いい加減、大人買いはだめだ。悪目立ちすると、絶対にろくなことがない。

「本当に一山全部お求めになられるのですか?」
「ああ、あの――」
「でしたら、特別に八百ギッフェでお売りいたします。いかがでしょう?」
「ええと――」

 いや、キュウ、そんな目で見るんじゃない。だめだよー。

「一山全部ください」
「ありがとうございます。それではすぐに袋にお詰めしますね」


「キュッキュッ」

 ん? どうしたキュウ?

「もうお前の物だから心配いらないぞ。このおじさんは、持って帰れるように――おぅ」

 キュウは店主の手から鉄を守るように立ちはだかった。
 いや、敵じゃないからね。
 もう。しょうがないなー。

「すみません。ちょっとだけ気の済むまでスライムに鉄で遊ばせてやってもいいですか?」
「え? ええ。構いませんけど」
「よし、キュウ。その鉄は好きにしていいぞ。なんなら、道具屋にでも持っていって、キュウの好きな形に――え?」


 キュウは、俺が「好きにしていいぞ」と言った途端に、鉄に食らいついていた。
 なんというか、鉄の山に頭突きするような格好で、貪り食っている。


「ええと。キュウ。ちょっと落ち着こうか。キュウ?」

 無視された。キュウに無視された!


「言ったであろう。直接取り込む奴がおると。ま、時々、鉄や鉛を食べさせてやるんじゃな」

 ひぇっ。金属を食べるってこと!?

 それって、栄養補給的な? 
 じゃあ、言ってみれば、「おやつ」ってこと?


 ああもう! キュウの食いしん坊め!
 仕方がない。好きなだけ食べるといいよ。


 なんたって――。
 甘やかす用意なら、キュウと出会った時にすでにできているからね。
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