スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも

文字の大きさ
26 / 52

第26話 不穏な話

しおりを挟む
 翌朝、ドアを激しくノックする音で起こされた。

 あくびを殺しながらドアを開けると、アドルフじゃない兵士が立っていた。
 まだ寝ていたのか、とあからさまに軽蔑するような目つきだ。ちょっと感じが悪い。

「失礼します。まだお休みでしたか。申し訳ございませんが、急いで支度をしていただけないでしょうか。この後、教会にご案内しますので」
「え? 教会? なんで今更?」

「賢者様がお呼びなのです。急いでいただけますか?」
「はあ……。じゃあ、ちょっと待っててください」


 なんだよ。俺になんか用ができた?
 呼びに来た兵士は教会寄りの派閥とか? 派閥とかがあるのかは知らないけど。

 なんか、あの目つきだと、俺のことを賢者様同様に期待外れの不良品みたいに思ってるよね。
 アドルフたちとは大違いだ。


 あー。朝ごはんは抜きかー。さすがにそこまで待たせる訳にはいかないよね。
 仕方がない。面倒臭い用事を片付けてから、またスーパー銭湯に行って、あっちで朝ごはんを食べよう。
 今日は何を食べようかなー。

「ふっふふーん」


 ピザトーストとホットドッグとシリアルが、頭の中で三つ巴の争いをしている中、ジャケットを手に取って何気なく窓の方を見ると、そこに老婆が張り付いていた。

「うわー!」
「キュウッ!」

 キュウまで一緒になって驚いている。俺の感情が伝染するのか?
 ――いや。
 単に、窓にしがみついている老婆を見て驚いたんだな。


「静かにせんか! このバカ者が!」

 老婆はぬるっと部屋に入ってきた。
 ええっ! どうやったの!

「おい。どうした?」

 兵士がドアを開けようとしたので、俺は急いでドアにもたれた。

「い、いえ。ちょっと椅子から転げ落ちそうになっただけです! ご心配なく!」
「椅子から……?」

 どうぞ。どうぞ。好きなだけ間抜けな奴だと思ってください。
 それより。今のは絶対にお婆さんの声の方が大きかったからね。


「お主、荷物を全部持ったらワシについて来い」
「へ?」

 バシン。

 ああ、この痛み。なんか新鮮。
 昨夜たっぷり寛いだせいか、この枝の感触も随分昔のことみたいに感じるんだよね。

「ああ、あの。俺、今から教会に行かないといけないんですけど」
「死にたいのか?」
「は?」
「行けば死ぬぞ」
「は?」

 バシン。

「痛っ」

 だーかーらー。
 その枝をぶん回すの、ほんといい加減やめてくれませんかねー。


「全部持ったな。スライムもポケットに入れるんじゃ」
「え?」

 キュウはなぜか老婆の言うことを聞いて、進んでポケットに入った。
 なんかジェラシー。

「ほれ。行くぞ」
「は?」




 気づけば国境門の近くだった。

 出たよ。枝でポン。
 なんなんだ、これ?
 老婆の魔法だろうけど、何気にすごいよね。

 今頃、兵士がドアを開けて、あたふたしているかもしれない。
 なんか夜逃げみたいな逃げ方だよね。
 嫌だなー。


「お婆さん。どこに行くつもりなんですか。ってか、なんで俺を連れてきたんです?」
「バカかお主は」

 老婆は呆れた顔をしているけど、俺には何のことだか、ぜんっぜん分かんない。

「教会が、一度捨てたお主に何の用があると思うんじゃ?」
「それは聞いてみなきゃ分かんないでしょ?」

 バシン。

 俺が言い終わる前に、被せ気味に老婆の枝がしなった。

「痛っ!」

 なんか、どんどん痛さが増している気がするんですけど! もうー。


「昨日の素材屋じゃ」
「は?」
「高級素材が軒並み消えておったじゃろ」

 いや、俺、素材のことなんて知らないし。

「どれもこれも、召喚術に必要な素材じゃ。それで、ちいとばかし教会をのぞいてきた」
「は?」

 え? どういうこと? 俺に何の関係が?

「古来より、賢者が使える召喚術は、生涯に一度だけと言われておる。まあ、あくまでも、そう伝えられておるだけじゃがな」
「……はあ」

 何の話?

「賢者一人につき召喚者一人。それは召喚術を二度やった者がおらんだけの話じゃ。禁忌とまで言われておるからな。だがあやつめ、その禁忌をおかそうとしているらしい」

 好きにすればいいんじゃない? やりたきゃやらせておけば?

「賢者一人につき召喚者一人という縛りが本当なら、召喚者は、同時に二名存在することはない」

 ん? ……え? ええっ!? じゃ、じゃあ――。

「ちょっ、ちょっと待ってください。それって――」
「邪魔なお主を亡き者にすれば、再度、召喚できるかもしれんと考えたんじゃろ。やってみるつもりらしいな」

「ひぇっ。そ、そ、そんな――」
「馬鹿正直に教会なんぞに行っておったら、お主、今頃は息をしておらなんだぞ。せいぜいワシに感謝するんじゃな」
「で、でも、でも」

 ああどうしよう。頭が回らない。

「ふーん。向こうは周到に準備しておったようじゃ」



 国境門の様子が先日と明らかに違う。
 大きな門は閉じられて通行が禁止されている。その門の前には、数十人の兵士が陣取っている。

 何事だろうと集まっている群衆に混じって、俺と老婆も周辺の物々しい様子を観察した。

 万が一にも俺が逃げるようなことがあれば、ここで捕まえようってこと?

 門の警備を固める兵士たちの中に、俺の顔をよく知っている二人がいた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...