スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも

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第41話 生まれたのは――

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「ぎゃーっ!!」

 いきなり鋭い鉤爪が卵の殻を破ったので、驚いて卵を放り出してしまった。
 放物線を描いて地面に落下した卵は、俺の予想と違って、グシャっとつぶれたりはしなかった。


 鉤爪が、卵の内側からメリメリッと殻を破っていく。そうして本体がぬっと顔を出した。卵の殻をグシャリと踏み潰しながら。
 

 ……うわあ。
 ……こいつ。これまで自分の命を育んでいたものを、いとも簡単に引き裂いちゃった。どんだけ凶暴なのよ。

 卵から生まれたのは、一見すると鳥のような、でも絶対に鳥とは違う生き物だった。羽毛も生えていないし。
 翼の形は、鳥よりもコウモリの方が近いかもしれない。全体的に赤みがかかった色をしていて、皮膚は爬虫類っぽい質感だ。

 ……か、可愛くない。ちっとも可愛くないんですけど!

 ちょっと! シモーネさん! おっと。これはキュウが見つけたんだった。
 なんで? どうして? なぜにコレを?


「よしつねー。生まれたでしゅね」
「ん? うん。うーん?」



 ヨタヨタっと歩いたソレが俺を見た。金色の瞳なんて魔獣そのものだよね。

「あ、あのー」

 喋ったー! 生まれたばっかりなのに、生まれたてでしゃべったー!


 その赤い生き物は、上着の前を重ね合わせるように両方の翼を体に巻きつけて、なんというか――首をすくめておっかなびっくり俺を見上げている。

 ギョロッとした目。ゴツゴツした固そうな皮膚に鋭い鉤爪。見た目は怖いのに、なんだかこの仕草は、平身低頭って感じ。

 ……あれ? あれ? あれ? あれ? あれれ? もしかして俺に似たとか? 


「あ、あのさ。お前」
「は、はいっ」

 そんなに驚かなくてもいいのに。
 まあ、まだ三十センチくらいだから、俺みたいな人間でも大きく見えるのかもしれないけれど。
 戦ったら絶対に俺が負けるよ。


「――お主。ついとるのう。こりゃ、レッドドラゴンじゃ」
「は?」


 なんですかレッドドラゴンって? よく分かんないけど、あの火を噴くドラゴンっていう解釈でオッケー?
 シモーネさんに繁々と見つめられて、ドラゴンは縮こまっている。


 レッドというのはなんとなく分かる。体全体が赤っぽいからね。そっか。これがドラゴンの赤ちゃんか。
 ジロジロと見ていると、ドラゴンは、あわあわと慌てて、翼で顔を隠した。どう見たってドラゴンらしい仕草じゃないよね。

「俺のことが怖い?」
「そ、そんな……」

 いや、そんな風に怯えた顔でうつむかないでよー。俺がいじめてるみたいじゃない?


「それにしても、伝説の魔獣がこんなやつだとはのう」

 シモーネさんの、期待外れと言わんばかりの冷たい視線に、ドラゴンはビクッと体を硬直させた。

「え? 伝説の魔獣なんですか? いかにも希少種って感じですけど。どうしてそんな貴重な卵が、あんなところにあったんです? あの森で生息しているんですか?」

 バシン!

「バカかお主は。あんなところにおる訳がなかろう!」

 興奮すると、どうしても叩いちゃうんですね。もう。

「じゃが不思議じゃのう。自分の卵が攻撃されないように強力な魔物の卵を盗んで自分の巣に入れるやつもおるが、さすがにレッドドラゴンの卵は盗めんじゃろう。卵を抱えて移動しておった時に落としたのか? いや、卵を抱えて移動なんぞせんか。分からんのう」

 へえ。ま、どうしてあそこにあったのかなんて、別にどうでもいいけど。

「シモーネさん。ええっと。それで、これってどういうことになるんでしょう? 俺が拾った卵からかえったってことは――」
「お主の従魔じゃ。契約を交わすまでもない。見てみろ」

 そうなの!?

「ステータスオープン!」

 うわあ。感激。

 「契約魔獣」のところに、本当に「レッドドラゴン」が追加されてる!
 ドラゴンじゃなく、レッドドラゴンということは、固有の種族ってことなのかな。

 よしよし。じゃ、レベルはどうかな。

 ドラゴンに向かって「ステータスオープン」と呼びかけると、ドラゴンは小さく「きゃっ」と言って、また翼で顔を隠した。
 もうー。


 へ?
 レベルは1。だけどデフォルトの数値は俺より上。俺、ご主人様なのに。召喚者だからすごいって言われていたのに。
 こいつ、さっき生まれたばっかりなくせして、魔力が500、体力も300ある!


 くぅー。なんか悔しい。
 そしてちょっとキツめの視線を投げかけると、「ひゃ」と怯えるドラゴン。
 

「キュウ!」

 おわっ。何してんの?

 キュウがものすごい勢いでドラゴンに体当たりしている。いや、多分、面白がってちょっかいを出しているだけなんだろうけど。

「うぅ」

 ドラゴンの方はそう思っていないみたいよ?
 キュウさんや。いじめっ子だと思われてるよ。

「キュッキュウ! よしつねー。名前は?」

 お! 名前か。うーん。名前ねー。
 見た目でつけちゃうとグロテスクな感じになりそう。だからって、あからさまに可愛すぎるのは逆に勘ぐっていじけるかもしれないし。

 うーん。
 ドラゴンって龍だっけ。龍? 竜? ま、どっちでもいっか。要は、「たつ」ってことだな。

「じゃあ、タツで」
「たつで?」

 キュウが、変なのと言いたげにちょこんと傾いた。

「あ、違うよ。タツが名前だから、たっちゃんって呼んであげるといいよ」
「たっちゃん! キュウ!」

 あ。だから、体当たりはやめようね、キュウ。

「ぼくの名前? たっちゃん……」

 感動で体を震わせているタツが、ウルウルとした目で、多分、頬を赤くしているんだと思う。元々赤いからそこは想像だけど。

「たっちゃんはキュウの弟になるんだぞ。これからはキュウがちゃんと面倒見てやんなきゃだめだぞ」
「弟! キュウの弟! はいでしゅ。もちろんでしゅ。キュウが面倒見るでしゅ!」

 キュウは興奮して、右から左から、もうあちこちから、タツに体当たりをしている。
 体でぶつかっていくのがキュウの愛情表現なの?


「たっちゃんを強くするでしゅ!」

 ん? ああ、レベル上げね。いいね。

「じゃあ。その辺で頑張っておいで。無理だけはしないようにね」
「はいでしゅ。たっちゃん、キュウについて来るでしゅ」
「は。はい」


 ぷにょん、ぷにょん、と飛び跳ねるスライムの後を、ドス、ドス、とドラゴンがついて行く。

 翼を広げたら一メートルくらいはありそうなドラゴンを従えている白いキュートなスライム。
 ……頼もしい。


<俺のステータス>
Lv:25
魔力:75,960/75,960
体力:21,980/22,600
属性:
スキル:虫眼鏡アイコン
アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、ユニーク、武将の湯、一休み、魔力ポーション(10)、体力ポーション(4)、72,102ギッフェ
装備品:短剣
契約魔獣:スライム、レッドドラゴン

<キュウのステータス>
Lv:28
魔力:47,560/47,560
体力:1,090/1,090
属性:水
スキル:感知、水球、氷刃、水結界、???

<タツのステータス>
Lv:1
魔力:500/500
体力:300/300
属性:火
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