『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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3章

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■第22話『ピノクッキーと、視線の棘』

 *

 「こんにちはー! “ピノころクッキー”ありますかーっ!」

「あるよ、焼きたてだよ~。今日はプレーンと、ほんのりいちご味!」

 開店と同時に走ってきたのは、しろくま通りの子どもたち。
 みんな、ころんとしたピノの形のクッキーを見て目を輝かせる。

「ほんとにピノちゃんの形だー!」
「顔ついてる~! かわいすぎて食べられない~!」
「……でも食べる~!!(もぐ)」

「ぴっ(照)」

 ピノは、子どもたちの歓声に囲まれて、ちょっと照れくさそうに羽をぴこぴこ動かしていた。
 自分がモチーフだとは、しっかり理解しているらしい。

「よしよし、ピノ。人気者だね~」

「ぴぴ!」

 リィナも自然と笑顔になる。
 穏やかで、あったかくて、おやつが“嬉しい”に変わる空気。
 これこそが、ピノ屋さんの理想だった。

 *

 午後。ひと段落したころ、少し見慣れないスーツ姿の中年男性が店を訪れた。

「“ピノころクッキー”……王都でも噂になっていると聞きましてね。
 私は近隣のエルン商会から来たものです。味の確認に伺いました」

 リィナは丁寧に応対し、試食用のクッキーを差し出す。

「ありがとうございます。どうぞ、ごゆっくり」

 男は一口食べて、表情を変えずに言った。

「……なるほど。味は確かに悪くない。むしろ洗練されている。
 ただ――その魔物は、常に店内にいるのですか?」

「……はい。ピノは、私の大事な相棒ですから」

「……はぁ。どうにも、ね。魔物を“看板”にするとは、あまりにも不用心で幼稚だ。
 見た目でごまかしているが、本来は危険な存在でしょう?」

 その言葉に、空気がぴたりと止まる。

「……」

 ピノは黙っていた。
 だけど、そのつぶらな瞳が、じっとリィナを見ていた。

 リィナの手は、ほんの少し震えたけれど――
 でも、すぐに口を開いた。

「……ピノは、危険なんかじゃありません。
 ずっとそばにいてくれて、私の味も、心も、支えてくれてる。
 ――他の誰がなんと言っても、ピノは“私のお店”の大事な一部です!」

 震えていた声に、ふっと強さが混ざる。

 男はわずかに目を細めた。

「……あなたがそう言うなら、結構。
 ただし――“魔物と菓子は混ぜるな”、と言う人間もまだまだ多いことを、忘れないことですね」

 そう言って、男は去っていった。

 扉が閉まったあと、リィナは静かにしゃがみこんで、ピノの頭を撫でた。

「……ごめんね、ピノ。嫌なこと、言われたね」

 「ぴぴ……」

 ピノは、くちばしをそっとリィナの手のひらにあてて、静かに鳴いた。
 だいじょうぶ、って言っているように。

 *

 「……やっぱり見ていられませんね」

 店の奥から、レオがそっと現れた。

「レオさん……」

「……魔物を、恐れるのは簡単です。
 でも、“信じる”には、あなたみたいな人が必要なんだと思います」

「……え?」

「あなたのそばにいると、きっと魔物のほうが“人間らしくなる”んですよ」

 レオはそう言って、微笑んだ。

「正直、ちょっと……ピノさんが羨ましくなりますね」

「ぴぴっ!!(威嚇!)」

 「ちょ、ピノ!? 今のは照れるところでしょ~!!」

 「ぴぴぴっ!(むりー!)」←おこ顔

 そんなふたりのやり取りに、レオはひとつため息をついて、小さく笑った。

「……あぁ、もう焼けて仕方ないですね」

(でも、あなたが誰を守るって決めたのか、ちゃんと伝わりましたよ)
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