『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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5章

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■第39話『勇者と聖女、そしてひとつのことば』

 *

 王都、文化交歓会当日。

 煌びやかなホールには、貴族や騎士、各地からの代表者たちが集い、
 壇上には王国旗とともに、招待者たちの展示や出し物が並んでいた。

 リィナは、用意された小さなブースで“ピノころクッキー”と“まあるい三重奏クッキー”を並べていた。

 (緊張してきた……でも、ピノたちが待ってるんだから)

 「お会いできてうれしいです、リィナ・アーデンさん」

 やわらかな声が、背後から届いた。

 振り向くと、そこには――淡い金髪、純白のドレス、そして透き通るような青い瞳を持つ女性。

 「私は聖女・セリフィーヌ・ルヴァリエ。リュシオンとともに、王国の“正しさ”を祈る者です」

 聖女――その名は、リィナもかつて書物で読んだことがあった。
 選ばれし奇跡の担い手であり、民衆にとって“理想の象徴”。

 「聖女様が、どうして……わたしに?」

 「あなたに、興味があるのです。
  “魔物と共にある者”が、どんな想いでこの場所に来たのか――知りたいのです」

 その瞳は穏やかだったが、同時に“選別する者の強さ”も秘めていた。

 そして、聖女の隣に立っていたのは――勇者リュシオン。

 「リィナさん。今日は、あなたの言葉がこの場の中心になります」

 「……うん。わたし、“話す”って決めてきたから」

 リィナは深く息を吸い、壇上の中央へと向かう。

 *

 ホール全体が静まり返る。

 小さな少女が、ひとりで登壇したその姿に、誰もが目を向けていた。

 リィナは、ノートを握りしめながら、言葉を紡ぎ始めた。

 「こんにちは。わたしは、しろくま通りの小さなお菓子屋、“ピノ屋”の店主です」

 「わたしには、ピノという魔物の相棒と、モルというゴブリンの仲間がいます。
  彼らは、とても優しくて、努力家で、そして――家族みたいな存在です」

 「でも、時々こう言われます。“魔物と一緒にいるなんて危険だ”って。
  そのたびに、わたしは“でも違うよ”って言いたくて――ここに来ました」

 「わたしが作るのは、お菓子です。
  けど、誰かと一緒に笑って食べられるなら、それは“橋”になると思うんです」

 「人と人、人と魔物――そういう境目を、ちょっとだけでも“まあるく”できたら、
  世界はきっと、少しだけ優しくなれるって……信じてます」

 言葉を終えた瞬間――

 しんと静まり返った空間に、一番最初に拍手を送ったのは、勇者リュシオンだった。

 続いて、聖女セリフィーヌが微笑みながら手を叩く。

 やがて、ホール全体がゆっくりと、しかし確実に“拍手の輪”に包まれていく。

 *

 「……あなたの言葉には、“奇跡”がありました」

 セリフィーヌがそう言ったとき、リィナの目にうっすら涙が浮かんだ。

 「わたし、聖女様にそう言ってもらえるなんて……思ってなかった……」

 「リュシオン、あなたの選択は“正しかった”ようね」

 「……彼女が正しさを示した。私は、それを見ていただけです」

 ホールの空気が、確かにひとつ、変わっていた。
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