『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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5章

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■第41話『もやもやの名前と、手紙のぬくもり』

 *

 王都滞在三日目。

 リィナは翌日の帰路を前に、街中の市場を少しだけ散策していた。
 (ピノたちにおみやげを買っていこう)
 そう思って、雑貨屋に立ち寄ったとき――

 「……あなたが“ピノ屋”のリィナさんね?」

 背後から声がかかる。

 振り向いた先に立っていたのは、
 洗練された振る舞いと凛とした気品を纏った女性。
 栗色の髪に薄青のドレス、瞳はどこか強さと優しさを併せ持っていた。

 「私は、クラウス家のエリシア。レオネルの婚約者よ」

 「っ……あ、えっと……こんにちは……」

 戸惑いながら頭を下げるリィナに、エリシアは微笑む。

 「噂は聞いているわ。まあるくて優しいお菓子と、魔物たちと共に生きる少女。
 ……レオネルが、こんなにも表情を崩したのは初めて」

 「……レオさんが?」

 「ええ。彼はずっと、王の剣として感情を隠していた。
 でもあなたの話をするときだけ、“人”の顔になるの。……少しだけ、悔しいくらいに」

 その言葉に、リィナの胸がきゅっと締めつけられた。

 「じゃあ、やっぱり……レオさんは……」

 「ふふ。でも、婚約は“家同士の取り決め”よ。
 彼の心がどこにあるか――それは、私にもわからないわ」

 そう言って、エリシアは静かに店を後にした。

 リィナはその場にぽつんと立ち尽くし、胸の奥がずっと重く、うずいていた。

 (なんでこんなに苦しいんだろう)

 (なんで……涙が出そうになるの?)

 *

 夜。宿のベッドの上。

 ピノがぽすんとリィナの胸の上に飛び乗った。

 「ぴ」

 「……ピノ。どうしてレオさんのこと、あんなににらんでたの?」

 「ぴっ(それはあんたが好きだから)」

 「…………へ?」

 「ぴぴぴ(っていうか、いま気づいたの!?)」

 「わ、わたしが……レオさんのこと……好き……?」

 ぐるぐると、これまでの記憶が頭の中を駆け巡る。

 レオに助けられた日。
 見守ってくれた笑顔。
 背中を押してくれた優しさ。

 (あれは――そういうこと、だったの……?)

 気づいてしまった“想い”が、胸に落ちてきた瞬間。

 コンコン、とドアがノックされた。

 「お届け物でーす。ピノ屋のリィナ様宛てに、封書が届いてます」

 受け取ったそれは――
 見慣れた、整った筆跡の手紙。

 差出人は、「レオネル・クラウス」



『リィナへ

無事に過ごせていますか。町は変わらず、ピノとモルはあなたのレシピ帳を読み漁っては“味見係”をしています。

あなたが王都で何を感じ、何を話したのか――私は、どんな結果であっても信じています。

……あなたがまた“戻ってくる”ことを、ずっと待っています。

――レオより』



 手紙を胸に抱えて、リィナはそっとつぶやいた。

 「レオさん……わたし、今、ちゃんと……気づいたよ」
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