『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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5章

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第48話 『告白前の決意と王への宣言』

 *

 夜も更け、店内は静かな緊張感に包まれていた。
 リィナはまだ、昨日の手つなぎの感触が心に残っている一方で、遠くから聞こえる重い足音に、思わず背筋が凍る思いだった。

 ――その夜、レオは密かに自分の部屋へと向かった。
 そこには、長い付き合いの家族が、いつものように整然と並んで待っている。

「皆さん……今日は、伝えねばならぬことがあります」
 レオの声はいつもの穏やかさをまといつつ、その奥底に冷徹な覚悟を秘めていた。

 家族は静まり返り、ただレオの一言一言に耳を傾ける。
 彼は、すでに許嫁との正式な取り決めがあることを、率直に、しかし淡々と言葉にした。
「私には、既に許嫁がいります。これは家同士の約束として、私の身分に伴う義務なのです」

 部屋に流れる空気が、どこか重苦しくなる。
 レオの顔は、いつもの柔らかな笑みを浮かべながらも、目は鋭く光っている。
「しかし、今日、私はあなたがたにも伝えます。もし、あの……
  『ピノ屋』のリィナとの関係が、今後も私の護衛としての側面として扱われ続けるならば――
  それは、王国の秩序を揺るがす危険性がある。あの心優しい彼女は、ただの傍観者ではなく、
  我が国の未来を左右するほどの力を秘めているのです」

 レオの声には、普段のやわらかさとは裏腹に、冷徹な断固たる響きがあった。
 家族は一瞬顔を見合わせ、沈黙の中にその意味を噛み締めた。

「もし、王国側がこの件を認めなければ……
  私、レオネル・クラウスは、あえて皆さんに忠告します。
  その時、国家そのものの存続が危うくなるかもしれません」

 言葉の最後には、まるで氷を割るような冷たさがあった。
 だが、同時に、レオは静かに微笑んだ。
「しかし、私の心は、あの日あなたたちと交わした約束と、
  守りたいという純粋な想いに囚われ、今も変わらず熱く燃えています。
  それが、私の甘い側面です」

 その複雑な表情と、言葉の対比は、家族のみならず、近くにいた使者にも確かに伝わった。

 *

 翌朝、レオは更に重い任務として、王都へ報告するため宮廷へ向かった。
 宮殿内の厳粛な会議室で、レオは王と上層部に次のように語った。

「王よ、そして諸君。
 私はこの国を守るため、また未来を切り開くために、
 一つの重大な事実を報告せねばなりません。
 我が護衛として従事していた少女、リィナ・アーデンは、
 単なる傍観者ではなく、その才能と情熱によって、
 王国の未来に計り知れない影響を及ぼす可能性があります
 (略)
 もし、この関係をただ見過ごすのであれば、
 その結果、国家は混乱に陥り、滅亡さえも招く恐れがございます」

 レオの言葉は、冷徹な決意とともに、王宮内に重く響いた。
 王はしばらくの沈黙の後、静かに口を開いた。
「分かった。お前の意見、そしてこれからの行動を、重く受け止めよう」

 その返答に、レオは僅かに微笑んで答えた。
「ありがとうございます。私の意志は変わりません。
 この国と、そして私が愛する者たちを守るために、
 あらゆる手段を尽くす覚悟です」

 *

 一方、しろくま通りに戻ったリィナは、家に届いた使者の書簡を読みながら、
 胸の中に複雑な感情が渦巻いているのを感じた。
 レオの報告、許嫁の存在――それは、
 彼女がこれまで築いてきた“静かな日常”とは大きく異なる現実を、
 突きつけるものだった。

 リィナは、窓辺に座り、ゆっくりと深呼吸する。
 「……私、何を感じるの? これって、どうしてこんなにも胸が苦しくなるの……?」

 そのとき、ふと目に留まったのは、小さなピノの姿。
 ピノは、リィナの手元をそっと温かく見守っていた。
 その無邪気な目に、リィナは、少しだけ心が和むのを感じた。

 「私、守ってもらっている……だけじゃなく、
  私も守れるはず。私自身の言葉で、未来を変えるために」

 その決意と、複雑な感情は、まだしっかりと形を持たなかったが、
 リィナの心は確かに、大きな波を迎え始めていた。
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