『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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8章

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第66話『ありがとうのかたちと、居場所の贈り物』

 *

 「ぴぴぴーーーっ!! 作戦名、“ありがとうクッキー大作戦”発動ーっ!!」

 「モル、“とどける”係! たいせつなやつ!」

 リィナは、そんなふたりのはしゃぎように苦笑しながらも、
 そっと焼きあがったクッキーのトレイをのぞき込む。

 それは、まるい形のクッキー。
 ピノとモルの顔が小さくアイシングで描かれていて、文字が添えられていた。

 《ありがとう》

 「ユルに言葉じゃなく、“手に取れる”ありがとうを渡すの! と、ピノが……」

 「ぴ(文化交流だ)」

 *

 夕方。
 ユルは、店の奥で静かに座っていた。
 町の人の気配が少しずつやわらかくなった今も、どこか気を張っているように見える。

 そんな彼の前に、モルがそっと紙袋を差し出した。

 「ユル、たべて。“ありがとう”ってかいてある!」

 ユルは、しばらく黙っていた。

 けれど、袋を開けて、そこに描かれたクッキーの自分の顔を見つけた瞬間――
 ほんの少しだけ、唇の端が動いた。

 (これは――笑ってる?)

 「……もらう」

 その一言に、モルがわっと喜び、ピノが「ぴぴっ!」とガッツポーズ。

 リィナは、静かに奥の棚から“あるもの”を持ってきた。

 「それと、これも。……ユルの、部屋の入り口につけていい?」

 渡したのは、小さな木のプレート。
 それには、焼き印でこう記されていた。

 《ユルのおへや》

 ユルの目が揺れる。

 「……本当に、いていいのか?」

 リィナはまっすぐにうなずいた。

 「ユルがここに“いたい”って思えるまで、
  ずっと“いていい”場所を、わたしが守るから」

 ユルは、返事の代わりに――

 自分から、そっとプレートを受け取った。

 (それが、何よりの“ありがとう”)

 *

 その夜、ノートの片隅にこう書かれた。

 《居場所は、誰かに“与えられる”んじゃない。
 少しずつ“つくっていく”ものだって、ユルが教えてくれた》
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