『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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11章

23

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第122話『名前のない部屋に、光が差しはじめる』

 *

 町の本屋・雑貨屋・パン屋・設計室に、
 手のひらサイズの小冊子が並んでいた。



【しろくま通りのしおり】

– 表紙:ユルの描いた声の地図と小さなヒナギクの絵
– 内容:町の“言葉”が集まる場所マップ+花言葉+住民の声
– 監修:ユル&リト/協力:設計室/編集:セイル



 中にはこんな声が寄せられていた。

 「“ただいま”って言った場所に、また行きたくなるんだよね」
 「この角、わたしの“ありがとうポイント”です」
 「ひよりって名前、すき。やさしい気持ちになる!」



 一方、リィナはふとしたことで納戸の扉を開けた。
そこは、今はまだ物が少ない、でもどこか**「空気のやわらかい部屋」**。

 「……この部屋、何にも決まってないから、
 未来の何かのために、そっと整えておくのもいいかもしれない」



 その日、リィナは白いカーテンをつけ、
小さなチェストをひとつ置いた。
天井には、やわらかな音の出るモビール。

 「名前のない部屋に、光が差してきた感じがするな……」



 夕方。しろくま書房の中庭で、セイルが子どもたちに向けて朗読を始めた。



『旅する物語』第1章 より(朗読)

その声は、風のなかに落ちていた。
「おかえり」と言える場所を、
まだ持たない小さな旅人は、
その言葉をたよりに、世界を歩きはじめた。

そして、ある町に出会った。
そこには、名前のない扉があり、
そこを開けると――“ぬくもり”が迎えてくれた。



 その朗読を聞きながら、モルがぽそっとつぶやいた。

 「“ひより”って、ことばじゃなくて、“まもってくれる音”だねぇ……」

 「ぴ(……詩人か?)」



 夜。
 リィナは、整えた未来の部屋をそっと覗いた。

 「……まだ何にも起きてないのに、
 この部屋だけ、未来の気配があるの、ふしぎですね」

 レオがそっとカーテンを整えながら答える。

 「この場所に、まだ誰のものでもない夢が眠ってる気がします。
 ……それが“ひより”という名前の輪郭なのかもしれませんね」
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