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何を作るのか、まずは聞かなくちゃ。
「カシエルさん、今日は何作りますか?」
「クリームシチューとパンにする」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がぱっと明るくなる。
早く作りたい。早く食べたい。――そんな気持ちが湧き上がった。
「パンも手作りですか?」
「いや、時間がかかる。パンは買ったものだ。今日はシチューを作る」
材料を揃えながら話すカシエルさんは、やっぱり手際がいい。
私はその動きを目で追いながら、頭の中に手順をメモしていく。
「えっと……まずは野菜を切ればいいですか?」
「そうだが、できるのか?」
少し不安そうな目を向けられる。
でも、現実では料理は私の担当だった。決まった料理なら得意だ。
「大丈夫ですよ」
そう言って、私は包丁を握る。
野菜を切り始めると、手が自然に動いた。
「……手際いいな。切るの得意そうだ」
褒められて、少し照れる。
「他も得意ですよー」
調子に乗った言い方をしてしまったけど、カシエルさんは笑わなかった。
ただ、ほんの少しだけ目元が柔らかくなった気がした。
肉も切り終え、鍋に火をかける。
材料を入れて煮込み、湯気がふわりと立ち上った。
そして――味付け。
「味付けもやるか?」
任された気がして、胸が弾む。
「やります!」
私は牛乳と調味料を順番に入れていく。
最後のひとつを入れようとした瞬間、手首を軽く止められた。
「……ストップ」
「え、なんで?」
「ココ。塩、入れすぎ」
……塩だったんだ。
私は完全に間違えていた。
顔が熱くなるのを必死で隠しながら、私は咳払いをひとつ。
「……ありがとうございます」
平常心。平常心。
私は何事もなかったふりをして、シチューを混ぜる。
味見をすると、ほっとする味がした。
ちゃんと、シチューになっている。
「完成……!」
カシエルさんが鍋を覗き込む。
「美味しくなったか?」
「秘密です」
そう言うと、カシエルさんは小さく息を吐いた。
――笑った、気がする。
*
「「いただきます」」
二人で声を揃えて、食べ始める。
私は不安で、ついカシエルさんの顔を見てしまう。
表情が変わったらどうしよう、と。
しばらくして、カシエルさんがぽつりと言った。
「……ココ。クリームシチュー、美味しい」
その一言が嬉しくて、胸がいっぱいになる。
私もスプーンを口に運ぶ。
「……今までの中で、一番美味しい」
甘くて、優しい味がした。
不思議だ。いつもと同じはずなのに、今日はやけに温かい。
――二人で食べるって、こんなに落ち着くんだ。
自由って、ひとりで耐えることじゃないのかもしれない。
「「ごちそうさまでした」」
二人で手を合わせて、同時に席を立つ。
食器を片付けながら、カシエルさんが言った。
「ココ。明日から飛ぶ練習と座学を始める」
いよいよだ。
緊張する。でも――少しだけ楽しみでもある。
「ちょっと楽しみなんだよね。でも、朝苦手なんだよね」
「大丈夫だ。起きられなかったら、起こしに行く」
その言葉に、少しだけ安心した。
私は変に顔色を伺う前に、さっさとベッドへ向かうことにした。
明日はきっと、私の世界がまた少し動く。
「カシエルさん、今日は何作りますか?」
「クリームシチューとパンにする」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がぱっと明るくなる。
早く作りたい。早く食べたい。――そんな気持ちが湧き上がった。
「パンも手作りですか?」
「いや、時間がかかる。パンは買ったものだ。今日はシチューを作る」
材料を揃えながら話すカシエルさんは、やっぱり手際がいい。
私はその動きを目で追いながら、頭の中に手順をメモしていく。
「えっと……まずは野菜を切ればいいですか?」
「そうだが、できるのか?」
少し不安そうな目を向けられる。
でも、現実では料理は私の担当だった。決まった料理なら得意だ。
「大丈夫ですよ」
そう言って、私は包丁を握る。
野菜を切り始めると、手が自然に動いた。
「……手際いいな。切るの得意そうだ」
褒められて、少し照れる。
「他も得意ですよー」
調子に乗った言い方をしてしまったけど、カシエルさんは笑わなかった。
ただ、ほんの少しだけ目元が柔らかくなった気がした。
肉も切り終え、鍋に火をかける。
材料を入れて煮込み、湯気がふわりと立ち上った。
そして――味付け。
「味付けもやるか?」
任された気がして、胸が弾む。
「やります!」
私は牛乳と調味料を順番に入れていく。
最後のひとつを入れようとした瞬間、手首を軽く止められた。
「……ストップ」
「え、なんで?」
「ココ。塩、入れすぎ」
……塩だったんだ。
私は完全に間違えていた。
顔が熱くなるのを必死で隠しながら、私は咳払いをひとつ。
「……ありがとうございます」
平常心。平常心。
私は何事もなかったふりをして、シチューを混ぜる。
味見をすると、ほっとする味がした。
ちゃんと、シチューになっている。
「完成……!」
カシエルさんが鍋を覗き込む。
「美味しくなったか?」
「秘密です」
そう言うと、カシエルさんは小さく息を吐いた。
――笑った、気がする。
*
「「いただきます」」
二人で声を揃えて、食べ始める。
私は不安で、ついカシエルさんの顔を見てしまう。
表情が変わったらどうしよう、と。
しばらくして、カシエルさんがぽつりと言った。
「……ココ。クリームシチュー、美味しい」
その一言が嬉しくて、胸がいっぱいになる。
私もスプーンを口に運ぶ。
「……今までの中で、一番美味しい」
甘くて、優しい味がした。
不思議だ。いつもと同じはずなのに、今日はやけに温かい。
――二人で食べるって、こんなに落ち着くんだ。
自由って、ひとりで耐えることじゃないのかもしれない。
「「ごちそうさまでした」」
二人で手を合わせて、同時に席を立つ。
食器を片付けながら、カシエルさんが言った。
「ココ。明日から飛ぶ練習と座学を始める」
いよいよだ。
緊張する。でも――少しだけ楽しみでもある。
「ちょっと楽しみなんだよね。でも、朝苦手なんだよね」
「大丈夫だ。起きられなかったら、起こしに行く」
その言葉に、少しだけ安心した。
私は変に顔色を伺う前に、さっさとベッドへ向かうことにした。
明日はきっと、私の世界がまた少し動く。
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