もう演じなくて結構です

梨丸

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2 ちょっと待ってくれ

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 ちょっと待ってくれ。

 思わず額に手を当てる。
 目の前には婚約破棄書を持った俺の友人、マルクが大爆笑している。

 「はは、ついにセリーヌちゃんに婚約破棄迫られたんだ!」
 「ちゃん付けするな」

 マルクは今もなお笑っている。
 何がおかしいんだ。

 「だってさあ、ルーカスの無自覚な無愛想さが駄目だったってことでしょ」
 「無愛想……?」
 「そこだよ!そこ!無自覚って困るねえ」

 どうやらマルクによると、俺のがセリーヌを追い詰めたようだ。
 俺としてはセリーヌのことは誰よりも大事にしていたつもりだったのだが。




 セリーヌと出会ったのは13歳の頃だった。

 両親からの紹介で出会ったセリーヌは、可愛らしかった。
 まん丸い目に草原を映したかのような髪の色。
 
 そんな彼女にじっと見つめられ、つい緊張してしまった俺は咄嗟にこう言っていた。

 「あまりジロジロ見ないでください。不快です」

 彼女は少し驚いたような顔を見せたが、すぐににこっと笑った。
 怖がらせてしまった。
 緊張するとどうしても鋭い言い方になってしまう。


 
 貴族学院に入ってから、セリーヌが毎日話しかけてくるようになった。
 やはり、緊張のあまり上手い受け答えができない。

 何日か経ったのち、俺が返せたのは「わかった」の一言だけだった。

 昼食を一緒に食べることになった俺は若干心が浮ついていることに気づいた。
 その浮つきが何なのか、その時の自分には理解ができなかった。

 ほぼ放心状態で昼食を食べる。

 「ルーカス様も一口如何ですか?」

 セリーヌがフォークを差し出した。
 思わず仰け反った。

 バッと立ち上がる。
 意外にも大きな音が食堂に響いた。

 走り歩きで食堂を出る。
 セリーヌにこの顔だけは見られたくなかった。
 真っ赤にしたこの顔を。
 

 俺はセリーヌに恋をしている。
 その時初めてこの感情に気づいた。



 それから直ぐに騎士団に入った。

 この国では魔獣が多数発見される。
 強くなってセリーヌを守れるようになりたかった。

 がむしゃらに鍛錬に励んでいると、いつの間にか俺は騎士団長の座に登りつめていた。



 セリーヌと話したいのに、忙しくて話せない日々。
 せっかく一緒の屋敷に住めるようになったのに……。

 セリーヌはこんな俺のことをどう思っているんだろう。

 そんなことを考えている矢先だった。
 セリーヌに婚約破棄を申し込まれた。

 セリーヌは呆れたような笑いを浮かべながら言ったのだ。
 「ルーカス様、私と婚約破棄してください」と。

 その時悟った。
 俺がセリーヌを放っておいたから。
 仕事の忙しさにかまけて会話をろくにしなかったから。

 セリーヌは俺に愛想をつかしたのだ。

 婚約破棄書を一旦受け取り、考えさせてくれと言ってセリーヌを自室に帰したが……。
 婚約破棄書を受け取って数日が経つ。
 もうセリーヌから話しかけてくることは無くなった。




 「ちょ、何処行くのさ」
 「どうせ婚約破棄するのなら、セリーヌに言いたいことがある」

 俺は婚約破棄書を握り締め、自室を出た。
 
 

 
 


 
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