もう演じなくて結構です

梨丸

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9 君が愛おしい

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 「やっぱ、熱でもあるのかなあ」

 セリーヌが棒読みで俺の額に手を当てる。
 どうやら先ほどの俺の発言が虚言きょげんだとでも思われているようだ。

 「セリーヌ、俺は……」
 「うわあ、もういいです!もういいですよ!」

 セリーヌはこんなに賑やかな人間だっただろうか。
 表情がコロコロと変わる。
 まあ、そんな彼女も愛おしいのだが。

 「セリーヌ、好きだ」

 セリーヌはグッと胸に手を当てた。

 「大丈夫か?体調が悪いのか?」
 「いえ、心臓ハートに少し来て……」
 「心臓?本当に大丈夫なのか?」

 心配になってくる。
 セリーヌには時々危うい時がある。

 「なんでそんなに動揺しているんだ?俺は自分が思っていたことを口にしただけだが」
 「………からですよ」

 前半が聞き取れなかった。
 「何と言ったんだ?」と尋ねると、セリーヌは声を張り上げてこう言った。


 「ルーカス様は私のことを愛していないと思っていたからですよ!」


 やはり、そう思わせていたか。

 「誤解をさせて、本当にすまなかった。婚約破棄は受けさせてもらう。けれど、俺の気持ちだけはセリーヌに伝えておきたかったんだ」

 セリーヌは俯いた。
 念願の婚約破棄が叶うのだ。
 感無量かんむりょうだろう。
 
 最愛の君に俺の気持ちを伝えられてよかった。

 俺が黙っているとセリーヌはいきなり顔を上げた。
 

 「私は、ルーカス様のことを愛しています」


 セリーヌの瞳が俺を捉えた。

 「それは昔のこと、だろう?」

 俺は自嘲を浮かべた。
 もう少し、早く。
 少しでも早く俺の気持ちを伝えていれば、こんなこと婚約破棄にはならなかったのに。
 最愛の君と心が離れることは無かったのに。

 本当に愚かだな。


 「いえ、前も、今現在も、お慕いしております」


 セリーヌははっきりと、何かを決意したように言った。

 セリーヌの促すままに婚約破棄書を渡した俺は放心状態にあった。
 今から何が始まるのだろうか。

 セリーヌは婚約破棄書を二枚持ち上げ、ビリリと
 完膚かんぷなきまでに破る。


 「婚約破棄は、なしです」


 セリーヌは何かが吹っ切れたように笑った。
 そして続ける。


 「私たちは、ですからね」


 俺は思わず笑ってしまった。
 こんな彼女の破天荒はてんこうさも好きになった理由の一つだ。


 嗚呼ああ、俺の婚約者はとても愛おしい。


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