もう演じなくて結構です

梨丸

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10 変なスイッチが入りました

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 セリーヌは婚約破棄書をビリビリに破いたところでハッとした。

 あの手紙は何だったんだろうか。
 《親愛なるルーカスへ。婚約者を演じるのは大変だな》という文。
 でも、ルーカス様の愛の言葉に偽りはないだろう。
 今なら信じられる。

 「ルーカス様、手紙のことなんですけれど」とセリーヌはさりげなく切り出した。
 「手紙?」

 セリーヌがルーカスに手紙を手渡した。

 「ルーカス様宛てのものが私の部屋に来まして……」

 ルーカスは手紙の内容を見て、青くなった。

 「なんだ、この内容は」
 「身に覚えがないのですか?」
 「いや、そもそも俺は文通をした覚えは無いんだ。言葉選びがとても下手だとマルクに言われてから。それに俺はセリーヌに対してと思ったことはない」


 沈黙が場を満たす。

 この手紙が出まかせだとしたら、全て私の勘違いになる。
 ルーカス様に酷いことをしてしまった。
 
 「ルーカス様、ごめ……」
 「すまなかった!」

 ルーカスが勢いよく頭を下げた。

 「この手紙が関与したのもあるのだろうが、根源はセリーヌを不安にさせてしまった俺だ」

 そしてルーカスが優しくセリーヌの手を握った。

 「至らぬ点もあるかもしれないが、これからも俺の婚約者としてよろしく頼む」
 「(なんか……。変なスイッチが入ったような……?)」




 それからのルーカスは甘々モードに切り替わった。

 「セリーヌ、好きだ」と顔を合わせるたびに言ってくる。
 なるべく一緒にいたいようで、騎士団の業務をしながらもセリーヌに会いにくる。

 そんな日々が毎日続く。

 「ルーカス様。明日、孤児院への寄贈品の買い出しへ行くのですけれど一緒に行きませんか?」

 セリーヌのその誘いにルーカスが頷かないわけもなく、食い気味に承諾した。

 騎士団の仕事は猛スピードで終わらせると言っていたけれど大丈夫なのかしら。

 セリーヌは大型犬を飼っているような気分である。







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