もう演じなくて結構です

梨丸

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15 事態の重大さを憂う

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 扉から勢いよく入ってきたのは見習い兵のユールだった。

 ユールに促されるままセリーヌと工房を出る。

 「端的に言いますね。何日か前、孤児院に行ったでしょう」
 「それがどうかしたのか」

 俺が尋ねると、ユールは神妙な面持ちでこう答えた。

 「実は、ルーカス団長とセリーヌ様が送った穀物が魔毒に侵されていまして……」
 「魔毒だと……?」

 魔毒とは魔獣が持つ特殊な毒のことで痺れや痙攣、時には死をもたらすことがある。
 
 セリーヌは青ざめている。

 「孤児院の子供たちは大丈夫なのか?」
 「幸いも穀物を口にした子供たちは少なく、口にした子供たちも魔毒の効果で病に伏せっていますが命に別状はないようです」

 胸を撫で下ろす。
 セリーヌも多少は安心したのかほう、と吐息を漏らした。
 しかし、途端に顔が険しくなる。

 「魔毒は入手が困難なもののはずですが、どうして市民街で買ったライ麦に魔毒が……?」
 「それはただいま調査中です」

 ユールが敬礼をし、去っていく。
 
 事態の重大さを憂う。
 貴族が贈った品が魔毒に侵されているとなると、醜聞として広まることになるだろう。
 そして何よりセリーヌが憂いているのは子供たちの病のことだろう。

 魔毒は非常に危険なものなので、基本的には騎士団と王宮薬師が管理している。
 まず、あの店が魔毒に侵されたライ麦を売っていたことは考えにくい。
 そもそもの話、一般市民が入手できるものではないからだ。

 ……?

 俺の中に恐ろしい考えが思い浮かんだ。 



 「あ、あの……」と突然控えめな女性の声がした。
 この屋敷で最近入ったメイドのアン、だったか。

 「どうなさったんですか?」とセリーヌが優しく尋ねる。

 メイドは目を左右にうろうろさせている。

 「どうしたんだ?」
 「ヒッ」

 どうやら怖がらせてしまったようだ。
 メイドは涙で目を潤ませながら、こう言った。

 「わ、わたし、怪しい人を倉庫で見たんです」

 俺たちはライ麦を倉庫で保管していた。
 
 「誰だ?」
 「ちょっと、ルーカス様落ち着いてください」

 俺がメイドに詰め寄ると、セリーヌが手で制した。
 メイドはセリーヌを見て安心したのか、恐る恐る告げた。

 「その人の名前は……」
 
 
 その名を聞いた時、ひどく耳鳴りが鳴った。


 




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