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20 マルク編② 信頼しないで
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それから俺は何かと理由をつけてセリーヌちゃんに会いに行くようになった。
ルーカスのことを話す彼女は綺麗で、俺の言葉なんかで壊してはいけないものだと思った。
「……好きだなあ」
ある日、彼女と話しているときに突如として漏れた言葉。
セリーヌちゃんはふふっと笑い、「冗談はやめてください」と言った。
俺の言葉は冗談に聞こえるようだ。
じゃあ、何を言ってもいいか。
セリーヌちゃんに会うたびに「好きだよ」や「可愛いね」と言う。
彼女はそれを本気にしていないようでいつも笑ってくれる。
これなら俺の気持ちは冗談として扱われるし、ルーカスと彼女の関係は壊れない。
俺も消化不良の思いを本人に伝えられる。
これで、いいんだ。
胸がちくり、と痛んだ。
俺は一枚の手紙を書いていた。
お遊び程度のものだ。
《親愛なるルーカスへ。婚約者を演じるのは大変だな》という文字を書き殴る。
ルーカスがセリーヌちゃんを愛していなかったら良かったのに。
友人の幸せを壊すほどの度胸が、俺には無い。
これはただの願望だ。
手紙を屑籠へポイと投げ捨てた。
セリーヌちゃんの様子がおかしいと気づき初めた頃のことだった。
ルーカスが一言、こう言った。
「婚約破棄を迫られた」
は?
初めに浮かんだのが疑問だった。
仲よさそうだったじゃん。
何で、俺は諦めたのに。
何で、何で、なんで。
疑問が頭の中を支配する。
呆然としている俺をルーカスが心配そうに見てくる。
そんな目で、見ないでよ。
はは、と笑い声が漏れた。
その乾いた笑いが大きな笑い声へと変わっていく。
「ついにセリーヌちゃんに婚約破棄迫られたんだ!」
やっと、やっとだ。
もう、我慢しなくていいんだ。
ルーカスがセリーヌちゃんがどうとか言って去った後も笑いは止まらなかった。
俺は笑っていた。
馬鹿みたいに遠慮してた自分のことを。
ルーカスは今日も相談をしに来る。
ねえ、ルーカスは気づいてる?俺が何を考えているか。
君の最愛の人を盗ろうとしてるんだよ。
だからさ、そんな目で見てこないでくれよ。
信頼しないで、俺なんかを。
ルーカスが魔獣に襲われたと連絡があった。
俺が勧めた乗馬大会中に。
俺はただただ恐ろしかった。
ルーカスが襲われてラッキー、と思っている自分のことが。
セリーヌちゃんは案の定というか、ベッドの前で座り込んでいた。
セリーヌちゃんを出来る限り元気付ける。
そのまま流れるように言葉が口をついた。
「婚約しようよ。ルーカスの代わりに守ってあげる」
彼女の返事は分かりきっていた。
答えはノー、だ。
挙げ句の果てに冗談だろうと笑われてしまった。
「冗談じゃ、ないんだけどなあ」
そんな時、あいつに出会った。
あいつは恐ろしいほど綺麗な笑みを浮かべて一枚の紙を指し示した。
それはかつて俺が書いた手紙だった。
セリーヌちゃんの元に俺が書いた手紙が何かの手違いで送られ、それが二人の仲にヒビを入れたのだとあいつは言った。
そしてそれをバラされたくなければ、魔毒をライ麦に仕込め、と。
あいつにはある計画があった。
これはその第一歩らしい。
俺は臆病だ。
セリーヌちゃんに、ルーカスに嫌われたくないと一瞬でも思ってしまった。
次の瞬間俺は頷いていた。
あいつは致死量の魔毒を俺の手に握らせたが人の命を奪う度胸もまた俺にはなく、自分で採取していた魔毒を仕込むことにした。
ルーカスに魔毒について問い詰められた時にはもう手遅れだと分かっていた。
ルーカス、俺とお前の関係はもう終わっているんだ。
俺がセリーヌちゃんに恋をした時から。
にこっと笑ってみせるが、いろんな感情が混ざり合ったせいで変な顔になってしまった。
最後くらい、演じなくていいかな。
「ねえ、婚約しようよ」
セリーヌちゃんが俺の縋るような言葉に頷くことは無かった。
「私はルーカス様のことをお慕いしております。マルクさんと婚約するつもりは、ございません」
彼女のはっきりとした意思表示を聞いた時、彼女の回答に何故か納得していた。
君はずっとルーカスのことが好きだったんだね。
俺も君のことがずっと好きだったよ。
それに、ルーカスのことも好きなんだ。
俺は欲張りだ。
あの雪の日、君は綺麗だった。
儚くて、どこか消えそうだった。
そんな君がはっきりと断言したんだ。
ルーカスが好きだ、と。
きっと、あの日から変わってないのは俺だけだ。
ルーカスのことを話す彼女は綺麗で、俺の言葉なんかで壊してはいけないものだと思った。
「……好きだなあ」
ある日、彼女と話しているときに突如として漏れた言葉。
セリーヌちゃんはふふっと笑い、「冗談はやめてください」と言った。
俺の言葉は冗談に聞こえるようだ。
じゃあ、何を言ってもいいか。
セリーヌちゃんに会うたびに「好きだよ」や「可愛いね」と言う。
彼女はそれを本気にしていないようでいつも笑ってくれる。
これなら俺の気持ちは冗談として扱われるし、ルーカスと彼女の関係は壊れない。
俺も消化不良の思いを本人に伝えられる。
これで、いいんだ。
胸がちくり、と痛んだ。
俺は一枚の手紙を書いていた。
お遊び程度のものだ。
《親愛なるルーカスへ。婚約者を演じるのは大変だな》という文字を書き殴る。
ルーカスがセリーヌちゃんを愛していなかったら良かったのに。
友人の幸せを壊すほどの度胸が、俺には無い。
これはただの願望だ。
手紙を屑籠へポイと投げ捨てた。
セリーヌちゃんの様子がおかしいと気づき初めた頃のことだった。
ルーカスが一言、こう言った。
「婚約破棄を迫られた」
は?
初めに浮かんだのが疑問だった。
仲よさそうだったじゃん。
何で、俺は諦めたのに。
何で、何で、なんで。
疑問が頭の中を支配する。
呆然としている俺をルーカスが心配そうに見てくる。
そんな目で、見ないでよ。
はは、と笑い声が漏れた。
その乾いた笑いが大きな笑い声へと変わっていく。
「ついにセリーヌちゃんに婚約破棄迫られたんだ!」
やっと、やっとだ。
もう、我慢しなくていいんだ。
ルーカスがセリーヌちゃんがどうとか言って去った後も笑いは止まらなかった。
俺は笑っていた。
馬鹿みたいに遠慮してた自分のことを。
ルーカスは今日も相談をしに来る。
ねえ、ルーカスは気づいてる?俺が何を考えているか。
君の最愛の人を盗ろうとしてるんだよ。
だからさ、そんな目で見てこないでくれよ。
信頼しないで、俺なんかを。
ルーカスが魔獣に襲われたと連絡があった。
俺が勧めた乗馬大会中に。
俺はただただ恐ろしかった。
ルーカスが襲われてラッキー、と思っている自分のことが。
セリーヌちゃんは案の定というか、ベッドの前で座り込んでいた。
セリーヌちゃんを出来る限り元気付ける。
そのまま流れるように言葉が口をついた。
「婚約しようよ。ルーカスの代わりに守ってあげる」
彼女の返事は分かりきっていた。
答えはノー、だ。
挙げ句の果てに冗談だろうと笑われてしまった。
「冗談じゃ、ないんだけどなあ」
そんな時、あいつに出会った。
あいつは恐ろしいほど綺麗な笑みを浮かべて一枚の紙を指し示した。
それはかつて俺が書いた手紙だった。
セリーヌちゃんの元に俺が書いた手紙が何かの手違いで送られ、それが二人の仲にヒビを入れたのだとあいつは言った。
そしてそれをバラされたくなければ、魔毒をライ麦に仕込め、と。
あいつにはある計画があった。
これはその第一歩らしい。
俺は臆病だ。
セリーヌちゃんに、ルーカスに嫌われたくないと一瞬でも思ってしまった。
次の瞬間俺は頷いていた。
あいつは致死量の魔毒を俺の手に握らせたが人の命を奪う度胸もまた俺にはなく、自分で採取していた魔毒を仕込むことにした。
ルーカスに魔毒について問い詰められた時にはもう手遅れだと分かっていた。
ルーカス、俺とお前の関係はもう終わっているんだ。
俺がセリーヌちゃんに恋をした時から。
にこっと笑ってみせるが、いろんな感情が混ざり合ったせいで変な顔になってしまった。
最後くらい、演じなくていいかな。
「ねえ、婚約しようよ」
セリーヌちゃんが俺の縋るような言葉に頷くことは無かった。
「私はルーカス様のことをお慕いしております。マルクさんと婚約するつもりは、ございません」
彼女のはっきりとした意思表示を聞いた時、彼女の回答に何故か納得していた。
君はずっとルーカスのことが好きだったんだね。
俺も君のことがずっと好きだったよ。
それに、ルーカスのことも好きなんだ。
俺は欲張りだ。
あの雪の日、君は綺麗だった。
儚くて、どこか消えそうだった。
そんな君がはっきりと断言したんだ。
ルーカスが好きだ、と。
きっと、あの日から変わってないのは俺だけだ。
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