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二章:人生の再出発
人生の再出発点
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「奥様、本当に行ってしまうんですか?」
トムが雨で濡れた子犬のような眼差しで私を見つめる。
「私はもう“奥様”じゃないよ」
私は今日、クロツェル侯爵家を出る。先日の一件からラインハルト様を見かけることはなかった。別に会いたくもないので、構わない。恐らく書斎に篭って最近増加している違法宗教について調べでもしているのだろう。 離縁直後も仕事熱心なんて、逆に感心してしまう。私は見習いたくはないけれど。
門の前でクロツェル家の中で私を慕ってくれていた使用人たちが横並びになり、別れを告げる。
「お幸せになってくださいね」
皆、それぞれに別れの言葉を告げてくれるのだがその中でも酷く落ち込んでいる人間が二人、いる。
「ローザリンデさまああ、行かないでください……」
「こらトム。わがまま、言わないの、……」
トムがこらえていた涙をポロポロと溢す。そしてその姉、ノイが鼻を赤くさせて俯いた。トムが涙を拭いながら、鈴蘭の押し花が密閉された小さな栞を差し出した。
「みんなと作ったんです。ヘタかもしれないですけど受けとってください……」
みんなで、作った。この小さな栞を。その光景を思い浮かべてつい笑ってしまう。
けれど、それと同時にじわりと胸が温かくなった。本が好きだと言っていたこと、覚えていてくれたのね。
特に、ノイは私と同じく読書家で、よく話し相手になってくれていた。
「トム、ノイ、それからみんな、今までありがとう」
私の言葉に皆がすすり泣き始める。そんな皆を律するように、侍女長のイエナが一歩前に出た。
「今まで本当にお疲れさまでした、ローザリンデ様。みなさん、お送りしますよ」
泣いていた皆は彼女の言葉を皮切りに涙を拭い、前を向いた。
「行ってらっしゃいませ!」
涙交じりの声、腹の底から張り上げたような声。
私も皆に合わせて手を振る。
「行ってきます!」
私の人生はこれからだ。春の暖かな日差しを浴びて、そう実感できた。
馬車の中で待機していたお兄様がくすくすと笑う。
「ロザリー、挨拶は済んだかい?随分と賑やかだったね」
「──そうですね」
彼らの行動には正直、驚いた。
私があんなに慕われているとは思いもしなかったからだ。皆、それぞれに私の幸せを願ってくれたし、なぜか大きな花束も貰ってしまった。
手にしていた栞に目を向ける。鈴蘭の花言葉は、【幸せが訪れる】。
みんな、ありがとう。
私はそれをそっと両手で包み込んだ。
トムが雨で濡れた子犬のような眼差しで私を見つめる。
「私はもう“奥様”じゃないよ」
私は今日、クロツェル侯爵家を出る。先日の一件からラインハルト様を見かけることはなかった。別に会いたくもないので、構わない。恐らく書斎に篭って最近増加している違法宗教について調べでもしているのだろう。 離縁直後も仕事熱心なんて、逆に感心してしまう。私は見習いたくはないけれど。
門の前でクロツェル家の中で私を慕ってくれていた使用人たちが横並びになり、別れを告げる。
「お幸せになってくださいね」
皆、それぞれに別れの言葉を告げてくれるのだがその中でも酷く落ち込んでいる人間が二人、いる。
「ローザリンデさまああ、行かないでください……」
「こらトム。わがまま、言わないの、……」
トムがこらえていた涙をポロポロと溢す。そしてその姉、ノイが鼻を赤くさせて俯いた。トムが涙を拭いながら、鈴蘭の押し花が密閉された小さな栞を差し出した。
「みんなと作ったんです。ヘタかもしれないですけど受けとってください……」
みんなで、作った。この小さな栞を。その光景を思い浮かべてつい笑ってしまう。
けれど、それと同時にじわりと胸が温かくなった。本が好きだと言っていたこと、覚えていてくれたのね。
特に、ノイは私と同じく読書家で、よく話し相手になってくれていた。
「トム、ノイ、それからみんな、今までありがとう」
私の言葉に皆がすすり泣き始める。そんな皆を律するように、侍女長のイエナが一歩前に出た。
「今まで本当にお疲れさまでした、ローザリンデ様。みなさん、お送りしますよ」
泣いていた皆は彼女の言葉を皮切りに涙を拭い、前を向いた。
「行ってらっしゃいませ!」
涙交じりの声、腹の底から張り上げたような声。
私も皆に合わせて手を振る。
「行ってきます!」
私の人生はこれからだ。春の暖かな日差しを浴びて、そう実感できた。
馬車の中で待機していたお兄様がくすくすと笑う。
「ロザリー、挨拶は済んだかい?随分と賑やかだったね」
「──そうですね」
彼らの行動には正直、驚いた。
私があんなに慕われているとは思いもしなかったからだ。皆、それぞれに私の幸せを願ってくれたし、なぜか大きな花束も貰ってしまった。
手にしていた栞に目を向ける。鈴蘭の花言葉は、【幸せが訪れる】。
みんな、ありがとう。
私はそれをそっと両手で包み込んだ。
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