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28 犯人
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その夜――。
残業を終えたアリシアは、一人で帰路についていた。辺りはすでに薄暗く、夜の冷気が肌を刺す。人気の少ない裏道は避け、街灯の灯る道を選んでいたが、それでも心は落ち着かなかった。
カツン。コツン。
背後に、靴音。
(……気のせい?)
恐る恐る振り返る。
誰もいない。空っぽの道がそこに広がっているだけ。
(……大丈夫、大丈夫)
そう言い聞かせて再び歩き出す。しかし数歩進むと、また――。
コツ、コツ、と追いかけるように靴音が響いた。
(やだ……怖い)
鼓動が耳の奥で激しく鳴る。冷たい汗が背中を伝い、脚が震えるのを必死に堪えながら、アリシアは寮の灯りを目指して駆け出した。
光が見えた。もうすぐ。あと少しで――。
「っ……!」
突然、背後から腕を強く掴まれた。反射的に声が漏れる。
「や、やめてっ!! 誰なの――っ!!」
叫んだ瞬間、腕は離れた。
振り返るも、そこには誰もいない。影のように現れ、音もなく消えていった。
ただ、掴まれた腕の痛みだけが生々しく残っていた。
涙をこらえながら、寮の前まで戻ったアリシアだったが、どうしても中に入る気になれなかった。
(だめ……帰れない……ひとりじゃ、怖い)
身体が震える。今もどこかで誰かが見ている気がして――。
アリシアは踵を返し、まっすぐルーカスの部屋へと向かった。
~~~~~~~~~~~~
「アリシア!?」
夜更けに訪れた彼女の姿に、ルーカスは目を見張った。顔は青ざめ、全身が震えている。すぐに彼はアリシアを中へ迎え入れ、あたたかな毛布を彼女の肩にかけた。
「……どうした? 何があった?」
アリシアは言葉を絞り出すように、道中で起きた出来事を語った。
話を聞き終えるころ、ルーカスの表情から色が消えていた。目の奥が怒りに燃えている。
「アリシア、君が無事で……本当によかった」
「……うん」
「でも……もっと早く言ってくれてたら。ひとりで抱え込ませてしまったね」
アリシアは肩をすくめるように、小さく首を振る。
「迷惑かけたくなかったの。心配かけるのが、怖くて……」
ルーカスは何も言わず、そっと彼女を抱きしめた。
「心配して当然だろ。君が、傷ついてまで黙ってたことの方が……よほどつらい」
アリシアの瞳から、再び涙が零れた。
「ルーカス……実は、前にも寮の扉が傷つけられてたり、私物が壊されてたりしたの。会長にも、怪文書が届いてて……でも、犯人に心当たりがなくて」
アリシアが打ち明けた“異変”の数々。
ルーカスの頭は、瞬時に真っ白になった。
(……まさか、ミハエル……!)
アリシアが知らずとも、ルーカスは知っている。マーガレットの元婚約者、ミハエルという男の異常な執着と執念深さを。
(あの男が、アリシアにまで手を……!)
「町の警ら隊に相談したほうがいいかな……」
アリシアがぽつりとつぶやく。
だがルーカスはかぶりを振った。
「無駄かもしれない。警ら隊は……あいつに買収されてる可能性がある」
「え……? どういうこと……?」
「犯人は、公爵家の人間だ。僕の右手を傷つけたのも、そいつなんだ」
アリシアの顔色が、一気に蒼白になる。
「嘘……。公爵家が、なぜ私に……?」
「きっと、僕を狙ってる。君を巻き込めば、僕が動揺するのをわかってるんだ。――ミハエルだ」
その名に聞き覚えはない、とアリシアは震えながら首を振った。
ルーカスは静かに、しかし決意を込めて言った。
「もう一人にはさせない。君を守る。あいつから、絶対に」
残業を終えたアリシアは、一人で帰路についていた。辺りはすでに薄暗く、夜の冷気が肌を刺す。人気の少ない裏道は避け、街灯の灯る道を選んでいたが、それでも心は落ち着かなかった。
カツン。コツン。
背後に、靴音。
(……気のせい?)
恐る恐る振り返る。
誰もいない。空っぽの道がそこに広がっているだけ。
(……大丈夫、大丈夫)
そう言い聞かせて再び歩き出す。しかし数歩進むと、また――。
コツ、コツ、と追いかけるように靴音が響いた。
(やだ……怖い)
鼓動が耳の奥で激しく鳴る。冷たい汗が背中を伝い、脚が震えるのを必死に堪えながら、アリシアは寮の灯りを目指して駆け出した。
光が見えた。もうすぐ。あと少しで――。
「っ……!」
突然、背後から腕を強く掴まれた。反射的に声が漏れる。
「や、やめてっ!! 誰なの――っ!!」
叫んだ瞬間、腕は離れた。
振り返るも、そこには誰もいない。影のように現れ、音もなく消えていった。
ただ、掴まれた腕の痛みだけが生々しく残っていた。
涙をこらえながら、寮の前まで戻ったアリシアだったが、どうしても中に入る気になれなかった。
(だめ……帰れない……ひとりじゃ、怖い)
身体が震える。今もどこかで誰かが見ている気がして――。
アリシアは踵を返し、まっすぐルーカスの部屋へと向かった。
~~~~~~~~~~~~
「アリシア!?」
夜更けに訪れた彼女の姿に、ルーカスは目を見張った。顔は青ざめ、全身が震えている。すぐに彼はアリシアを中へ迎え入れ、あたたかな毛布を彼女の肩にかけた。
「……どうした? 何があった?」
アリシアは言葉を絞り出すように、道中で起きた出来事を語った。
話を聞き終えるころ、ルーカスの表情から色が消えていた。目の奥が怒りに燃えている。
「アリシア、君が無事で……本当によかった」
「……うん」
「でも……もっと早く言ってくれてたら。ひとりで抱え込ませてしまったね」
アリシアは肩をすくめるように、小さく首を振る。
「迷惑かけたくなかったの。心配かけるのが、怖くて……」
ルーカスは何も言わず、そっと彼女を抱きしめた。
「心配して当然だろ。君が、傷ついてまで黙ってたことの方が……よほどつらい」
アリシアの瞳から、再び涙が零れた。
「ルーカス……実は、前にも寮の扉が傷つけられてたり、私物が壊されてたりしたの。会長にも、怪文書が届いてて……でも、犯人に心当たりがなくて」
アリシアが打ち明けた“異変”の数々。
ルーカスの頭は、瞬時に真っ白になった。
(……まさか、ミハエル……!)
アリシアが知らずとも、ルーカスは知っている。マーガレットの元婚約者、ミハエルという男の異常な執着と執念深さを。
(あの男が、アリシアにまで手を……!)
「町の警ら隊に相談したほうがいいかな……」
アリシアがぽつりとつぶやく。
だがルーカスはかぶりを振った。
「無駄かもしれない。警ら隊は……あいつに買収されてる可能性がある」
「え……? どういうこと……?」
「犯人は、公爵家の人間だ。僕の右手を傷つけたのも、そいつなんだ」
アリシアの顔色が、一気に蒼白になる。
「嘘……。公爵家が、なぜ私に……?」
「きっと、僕を狙ってる。君を巻き込めば、僕が動揺するのをわかってるんだ。――ミハエルだ」
その名に聞き覚えはない、とアリシアは震えながら首を振った。
ルーカスは静かに、しかし決意を込めて言った。
「もう一人にはさせない。君を守る。あいつから、絶対に」
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