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第八話
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後から追いついた輜重隊に幕舎を張らせ、并州騎馬隊は野営に入った。馬の手入れをし、武具の手入れをした後に自分達の食事である。高順は自分の幕舎ではなく、黒騎兵と共に食事をとる。連携と連帯感を強めるために行なっていることだが、高順本人も部下の兵士達のことが知ることができるので好きであった。
「隊長、お客さんですよ」
部下の兵士達の話を聞きながら食事をとっていた高順のところに副長の曹性がやってくる。
曹性の背後には一人の青年が立っている。武人特有の雰囲気は感じない。どちらかと言えば文官の空気を持つ者だ。だが、どこか武人の空気を持とうとしている雰囲気がある。
高順は無言で曹性に先を促す。曹性も手慣れたもので高順に簡単に紹介する。
「諸国を流浪して様々な軍勢を見て軍略を学んでいる若造のようです」
「郭嘉。字を奉孝と申します」
「若いな」
「十四になります」
「この年で諸国を流浪しているらしいのでね。隊長に面会希望で面白そうな輩だったので連れて来ました」
曹性がいつも通りの不敵な笑みを浮かべながら付け足してくる。
「郭嘉。我ら并州騎馬隊に何の用だ」
「天下に名高き并州騎馬隊の戦を拝見させていただきたく」
郭嘉の即答に高順は黙る。今までも幾人か丁原の下には軍師を希望してやってくる者はいたが、直接并州騎馬隊のところにやってくる者は初めてだった。
高順は郭嘉を見る。そこには并州の武人としての威圧感を込めてだった。凡人ならば腰が引ける威圧感だ。
だが、郭嘉は飲み込まれまいと逆に威圧感を出してくる。高順の威圧感に比べれば児戯のようなものだ。
だが、飲み込まれまいと言うその気概を高順は気に入った。
「ついてこい郭嘉」
「は。どちらへ?」
「私は并州遠征軍副将にすぎん。総大将は呂布殿だ。従軍するには呂布殿の許可がいる。曹性、張遼を呂布殿の幕舎へ呼べ」
「承知」
張遼の幕舎へ歩き去る曹性と同時に高順も郭嘉を連れながら呂布への幕舎へと歩く。
呂布の幕舎へ向かう途中の陣営の中を歩いている時も郭嘉は興味深そうに并州騎馬隊の陣内を見ている。黄巾の者と怪しんでいた高順もすぐに考えを改めた。黄巾に利する動きを見せた時は即座に斬り捨てるつもりだった高順だが、その考えを捨てた。郭嘉の動きは新しい武器を手に入れて馴染ませようとしている并州兵にそっくりだったからだ。
「お、珍しいですな。高順の旦那がこっちに来るなんて」
「魏越か。呂布殿は幕舎か?」
「酒が足りないと不満を言っていますよ。高順の旦那が早いところ行って宥めて来てください」
「自分達の隊長だろう」
「よしてくださいよ。大将の酒の不満を宥められるのは高順の旦那だけですって」
魏越がいつも通りの軽口を飛ばしていると、そこで初めて郭嘉の存在に気づいたようで、興味深そうに郭嘉を見ながら口を開いた。
「誰です。それは」
「従軍希望者だ」
高順の言葉に魏越が不思議そうに郭嘉の全身を見る。そして高順を胡散臭そうに見た。
「使い物になるんですかい」
「戦士として旅をしている者ではない。軍師のようだな」
「郭嘉。字を奉孝と申します」
「魏越だ。赤騎兵の中では二番目の猛者だ」
「一番ではないのですか」
「一番はうちの大将に決まっているだろうさ」
「二番目も自称だろう。成廉も二番目を自称しているようだが」
「高順の旦那は細かいですな。まぁ、いいさ。大将だったら幕舎にいますよ。あぁ、そうだ郭嘉。大将に飲み込まれないようにな」
それだけ告げて魏越は郭嘉の肩を叩いて他の赤騎兵のところに向かう。
高順が呂布の幕舎に入ると同時に酒瓶が飛んでくる。高順が片手でその酒瓶を受け止める。中には楽しそうに笑っている呂布がいる。
「もう呑み終わったのですかな、呂布殿」
「輜重隊は持ってくる酒の量が少なすぎると思わないか、兄弟。もっと持ってくるべきだろうに」
「丁原殿は戦時に禁酒令を出しておられる。呂布殿が呑んでいるのも快くは思っていないようですぞ」
「知っているよ。親父殿にいつも叱られる」
そう言いながら呂布は疲れたように空になった酒瓶を放り投げる。
「ったく親父殿も兄弟も硬い漢よな。それで。兄弟と一緒に来た青二才は誰だ」
呂布の言葉に郭嘉が高順の前に出て拱手する。
「郭嘉。字を奉孝です。従軍を許可していただきたく参上させていただきました」
郭嘉の従軍の言葉に呂布の気配が変わる。
獰猛な殺意。
戦場で呂布が見せる一面だ。慣れている高順も一瞬腰の剣に手をやりそうになる。そして呂布の幕舎に慌てた様子で張遼が駆け込んでくる。呂布の戦場の気配を感じ取ったのだろう。
普通なら身を竦む殺意。戦場で生まれ育つと言われる并州兵も恐れる呂布の殺意である。
しかし、郭嘉はそれを受け、震えながらも呂布を睨み返す。
一瞬の静寂。
郭嘉が引かないとみると、呂布は楽しそうに笑いながら最後の酒瓶を突き出してくる。
「郭嘉はいける口か」
「若輩の身ですゆえ、まだ呑んだことがありません」
「それは勿体無いな。どれ、呑んでみろ」
「呂布殿」
止める高順の言葉を無視して呂布は郭嘉に酒を呑ませる。呂布が呑んでいる酒は普通より強い。それを知っているから高順は止めようとしたのだが、呂布は楽しそうに笑っているだけだ。その態度に高順は呆れながら首を振る。高順の心配も虚しく、郭嘉は酒を呑んでしまう。
そして大きく咽せた。
その反応が気に入ったのか呂布は大きく笑った。
「いい呑みっぷりだ。兄弟より呑めるじゃないか」
「私より呑めない者を見たことがありませんな」
「高順殿。それは自慢にならないのでは」
張遼の言葉に呂布が再び大きく笑う。
「いいだろう。郭嘉は張遼の青騎兵に預ける」
「従軍を許可させていただけるのですか」
「今回の戦だけ特別だ。張遼、邪魔になったら戦場でも捨てて構わんぞ」
「は、はぁ」
話がわからない張遼の様子に呂布は再び大きく笑うのであった。
「隊長、お客さんですよ」
部下の兵士達の話を聞きながら食事をとっていた高順のところに副長の曹性がやってくる。
曹性の背後には一人の青年が立っている。武人特有の雰囲気は感じない。どちらかと言えば文官の空気を持つ者だ。だが、どこか武人の空気を持とうとしている雰囲気がある。
高順は無言で曹性に先を促す。曹性も手慣れたもので高順に簡単に紹介する。
「諸国を流浪して様々な軍勢を見て軍略を学んでいる若造のようです」
「郭嘉。字を奉孝と申します」
「若いな」
「十四になります」
「この年で諸国を流浪しているらしいのでね。隊長に面会希望で面白そうな輩だったので連れて来ました」
曹性がいつも通りの不敵な笑みを浮かべながら付け足してくる。
「郭嘉。我ら并州騎馬隊に何の用だ」
「天下に名高き并州騎馬隊の戦を拝見させていただきたく」
郭嘉の即答に高順は黙る。今までも幾人か丁原の下には軍師を希望してやってくる者はいたが、直接并州騎馬隊のところにやってくる者は初めてだった。
高順は郭嘉を見る。そこには并州の武人としての威圧感を込めてだった。凡人ならば腰が引ける威圧感だ。
だが、郭嘉は飲み込まれまいと逆に威圧感を出してくる。高順の威圧感に比べれば児戯のようなものだ。
だが、飲み込まれまいと言うその気概を高順は気に入った。
「ついてこい郭嘉」
「は。どちらへ?」
「私は并州遠征軍副将にすぎん。総大将は呂布殿だ。従軍するには呂布殿の許可がいる。曹性、張遼を呂布殿の幕舎へ呼べ」
「承知」
張遼の幕舎へ歩き去る曹性と同時に高順も郭嘉を連れながら呂布への幕舎へと歩く。
呂布の幕舎へ向かう途中の陣営の中を歩いている時も郭嘉は興味深そうに并州騎馬隊の陣内を見ている。黄巾の者と怪しんでいた高順もすぐに考えを改めた。黄巾に利する動きを見せた時は即座に斬り捨てるつもりだった高順だが、その考えを捨てた。郭嘉の動きは新しい武器を手に入れて馴染ませようとしている并州兵にそっくりだったからだ。
「お、珍しいですな。高順の旦那がこっちに来るなんて」
「魏越か。呂布殿は幕舎か?」
「酒が足りないと不満を言っていますよ。高順の旦那が早いところ行って宥めて来てください」
「自分達の隊長だろう」
「よしてくださいよ。大将の酒の不満を宥められるのは高順の旦那だけですって」
魏越がいつも通りの軽口を飛ばしていると、そこで初めて郭嘉の存在に気づいたようで、興味深そうに郭嘉を見ながら口を開いた。
「誰です。それは」
「従軍希望者だ」
高順の言葉に魏越が不思議そうに郭嘉の全身を見る。そして高順を胡散臭そうに見た。
「使い物になるんですかい」
「戦士として旅をしている者ではない。軍師のようだな」
「郭嘉。字を奉孝と申します」
「魏越だ。赤騎兵の中では二番目の猛者だ」
「一番ではないのですか」
「一番はうちの大将に決まっているだろうさ」
「二番目も自称だろう。成廉も二番目を自称しているようだが」
「高順の旦那は細かいですな。まぁ、いいさ。大将だったら幕舎にいますよ。あぁ、そうだ郭嘉。大将に飲み込まれないようにな」
それだけ告げて魏越は郭嘉の肩を叩いて他の赤騎兵のところに向かう。
高順が呂布の幕舎に入ると同時に酒瓶が飛んでくる。高順が片手でその酒瓶を受け止める。中には楽しそうに笑っている呂布がいる。
「もう呑み終わったのですかな、呂布殿」
「輜重隊は持ってくる酒の量が少なすぎると思わないか、兄弟。もっと持ってくるべきだろうに」
「丁原殿は戦時に禁酒令を出しておられる。呂布殿が呑んでいるのも快くは思っていないようですぞ」
「知っているよ。親父殿にいつも叱られる」
そう言いながら呂布は疲れたように空になった酒瓶を放り投げる。
「ったく親父殿も兄弟も硬い漢よな。それで。兄弟と一緒に来た青二才は誰だ」
呂布の言葉に郭嘉が高順の前に出て拱手する。
「郭嘉。字を奉孝です。従軍を許可していただきたく参上させていただきました」
郭嘉の従軍の言葉に呂布の気配が変わる。
獰猛な殺意。
戦場で呂布が見せる一面だ。慣れている高順も一瞬腰の剣に手をやりそうになる。そして呂布の幕舎に慌てた様子で張遼が駆け込んでくる。呂布の戦場の気配を感じ取ったのだろう。
普通なら身を竦む殺意。戦場で生まれ育つと言われる并州兵も恐れる呂布の殺意である。
しかし、郭嘉はそれを受け、震えながらも呂布を睨み返す。
一瞬の静寂。
郭嘉が引かないとみると、呂布は楽しそうに笑いながら最後の酒瓶を突き出してくる。
「郭嘉はいける口か」
「若輩の身ですゆえ、まだ呑んだことがありません」
「それは勿体無いな。どれ、呑んでみろ」
「呂布殿」
止める高順の言葉を無視して呂布は郭嘉に酒を呑ませる。呂布が呑んでいる酒は普通より強い。それを知っているから高順は止めようとしたのだが、呂布は楽しそうに笑っているだけだ。その態度に高順は呆れながら首を振る。高順の心配も虚しく、郭嘉は酒を呑んでしまう。
そして大きく咽せた。
その反応が気に入ったのか呂布は大きく笑った。
「いい呑みっぷりだ。兄弟より呑めるじゃないか」
「私より呑めない者を見たことがありませんな」
「高順殿。それは自慢にならないのでは」
張遼の言葉に呂布が再び大きく笑う。
「いいだろう。郭嘉は張遼の青騎兵に預ける」
「従軍を許可させていただけるのですか」
「今回の戦だけ特別だ。張遼、邪魔になったら戦場でも捨てて構わんぞ」
「は、はぁ」
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