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「急だったのにお昼までもらっちゃってごめんね」
「ううん、兄貴の友だちの分もあったし一人増えたところでどうってことないよ」
昼はキヨの代わりの家政婦からサンドイッチを作ってもらい離れの部屋で一緒に食べ、夕方近くまで二人で過ごしていた。
「そろそろ帰んなきゃ」
部屋の時計に目をやり帰り支度を始めようとすると後ろから貴斗に抱き締められ首元に髪があたり擽ったく身を攀じった。
「もっと一緒にいれたらいいのに...来週は予定があって会えないし」
貴斗の甘えた声に胸が高鳴り心臓が締め付けられ碧は自分の胸元に回っている貴斗の腕をぎゅっと握った。
「私だって一緒だよ...来週は会えないんだ」
寂しさから少し声のトーンが落ちたのを貴斗は気づき碧を自分の方へと向かせ軽くキスをした。
「...あのね、今日は残念なことになっちゃったけど今度は絶対あんなことにはならないから!」
「う、うん......?」
唇が離れると碧の両肩を掴み力を籠め力説されたが碧は意味が分からずポカンとなり目をパシパシと瞬きし曖昧な返事をした。
☆☆☆
「ほんとにここでいいの?家まで送るよ」
「うん大丈夫だよ、わざわざありがと」
貴斗の家を出る際、『近くまで送る』と言われそのまま喋りながら歩いているとあっという間に碧が利用する駅へと着いてしまった。
「心配だから家着いたら電話して...はぁー、今思ったけど今日の服スカート短くない?一人になる時はこんな格好しないで、只でさえいつも可愛いんだから...やっぱ家まで送るよ」
貴斗は名残惜しそうに繋いだ手を放さず悲壮感を漂わせた表情で碧を見つめていた。
「もーう大丈夫だって、しかもこんなメイク取れかけの顏、誰もそんなふうに思わないよ。貴斗だって私のスッピン見たらモブすぎて絶対気付かないと思うし」
笑いながら話す碧に対し真剣な眼差しで繋いだ手を引き寄せそのまま貴斗は自身の唇へ碧の指先を宛がった。
「僕はどんな紅音でも気づく自信あるよ」
「うん、ありがと...家に着いたら連絡するね」
繋いだ手の指先を一本、一本解くように放し二人は別れた。
(んー、なんか違和感あって歩き方変になっちゃうな...)
先程の行為によって股関節辺りと局部に痛みと異物感を感じながら改札口へと向かっていると
「あの」
後ろから女性の声が聞こえ振り向くと図書館で見た貴斗の同級生の二人組の女の子が立っていた。
ショートの女の子は心なしか此方を睨むようにもう一人の美少女は同じ年とは思えない程の荘厳な雰囲気でじっと碧を注視していた。
「えっと...何か?」
二人の刺々しい空気に碧は怪訝そうな表情をしているとショートの女の子は一歩前に出て碧を睨み付けた。
「あなた、阿部貴斗くんとさっきまで一緒にいた子よね?」
「それが何か...」怯みそうになるのを耐え碧は話す彼女に視線を向け、女の子もまた険しい表情を変えることなく見つめてきた。
「遠回しに言うの嫌だからハッキリ言うけどアンタ、阿部くんの何か弱みでも握って無理矢理付き合ってもらってるんじゃないの?もしそうならいい加減にしてくれない?アンタのせいで琴花がどんな気持ちでいるか...」
碧は捲し立てられ相手の勢いに硬直していると琴花が宥めるように制止し碧を真っ直ぐ見据えしっかりとした口調で話しだした。
「私、阿部貴斗の同じ学校で幼馴染の能海琴花と言います。多分あなたと会ってからだと思うけど常に学年トップだった彼がこの前のテストで初めて順位を落としたんです。彼、幼少期から優秀で何事にも先頭を走っていくような人なのにこんなことで躓くなんて...申し訳ないけどはっきり言ってあなたの存在は彼の人生のマイナスにしかならないと思います」
碧は混乱からか何から整理して反論すればいいかわからず只々立ち尽くし口元は何か喋ろうとするも声が出せなかった。
彼女たちの話によれば、貴斗と琴花は親同士が知り合いで幼稚舎からの付き合いだった。琴花は幼少の頃から貴斗を慕い両親からも高校に上がり落ち着く頃合いを見て阿部家へ正式に婚約の話しをすることになっていた...それは貴斗自身も納得していることだと伝えられた。
「正直さ、中身も外見もどう足掻いても阿部くんと釣り合うわけないじゃん、大体アンタみたいなのが関われるような人じゃないから!うちの学校にはアンタみたいな人いないし正直物珍しかっただけでその内飽きられるんだから今のうちに身の丈にあった相手見つけた方がいいんじゃない?ってか琴花より好かれてるって今も思ってないよね?いくらなんでもそこまで脳内お花畑じゃないか、付き合いの年月考えたら...わかるよね?」
嘲笑うようにショートの女子は碧に心無い言葉を浴びせた。
「...お願い、外見だけで付き合ってるなら彼をこれ以上惑わせないでください。このままいったらあなたのせいでだめになってしまう...貴斗のこと大切に思うなら...お願いします」
(可愛い人は喜怒哀楽の表情すら綺麗なんだな...)
涙を溜め頭を下げ訴える琴花を見ながら碧は他人事のような気分で彼女の表情を眺めていた。
☆☆☆
気が付くと碧は部屋のベッドに腰掛けていた。あのあと彼女たちとどう別れ、家へと向かったのかさっぱり思い出せずただ気が付くと自分の部屋にいたということだけだった。碧にとって初めての嬉しく淡い出来事も今はそれさえも霞むほどのダメージを与えられ何も考えられずただ虚しさだけが心を満たしていった。
ガチャッ
部屋のドアが開きゆっくりそちらに視線を向けると無愛想な表情で虹志が立っていた。
「さっきから音鳴りっぱなしっ!!いい加減出るか音消すかしろよっ!」
虹志の言葉に鞄から流れる機械音に気付き中から取り出すとディスプレイには貴斗の名前が記されていた。
(そういえば、電話し忘れてたや)
碧は着信ボタンをタップしようとした瞬間、音は切れ不在着信の文字が映し出されていた。碧が着信履歴を見ると十件以上の回数が記されていたため掛け直そうとするもなかなか指が動かず押せずにいた。そうこうしていると再度着信が鳴り躊躇う碧に業を煮やしたのか虹志が碧のスマホを取り上げ勝手に電話に出てしまった。
『もしもしっ!良かった、帰ってるはずなのに連絡ないから心配で』
「あーすいません、俺弟です。姉ちゃん買い物頼まれて今出てて、スマホ忘れてったから連絡出来なくて。帰ってきたら本人に伝えときますんで、じゃあ」
虹志は貴斗の返事を聞くことなく一方的に喋り電話を切ると碧の座るベッドにスマホを放り投げた。
「ったく、今度なんか奢ってもらうからな」
虹志は捨て台詞を吐きそのまま部屋から出て行った。「虹、ごめん...ありがと」碧は閉められたドアに向かって小さな声で呟き座っていた身体を倒れるようにベッドへ沈めた。
その日は貴斗への連絡はせず次の日もかかってきたが出ることはなくそれからしばらく会うこともしなかった。
――――――――――
「虹、何度もごめん、ありがと」
「気持ちわりいな、この前のこともあるからプリぺ五千円分で手打ってやるよ。お前、電話出るの嫌な相手なら着拒なりすりゃーいいじゃん、大体男に現抜かしてる場合じゃねーだろ、とにかく早くケリつけろ!毎晩ウルせーんだよ」
虹志の部屋で正座しながら碧は言いたい放題言われいつもなら碧もここでバトルを繰り広げるところだが助けてもらったため文句も言えず黙って耐えていた。
―――――事の発端は数分前に遡る...
「おいっ碧スマホ貸せ」
あれから夜になると何度も着信音が鳴るスマホに碧は貴斗と話す勇気が持てずどうすればいいか悩み今もなお出れずにいるとノックもせず虹志がズカズカと部屋に入って来た。今まさに鳴っているスマホを碧の手から奪い取り勝手に通話ボタンをタップした。
「もしもし、弟です。何度も掛けてもらってるみたいですが姉ちゃん今インフルにかかっちゃって喋れないんで電話取れないんです。元気になったら掛け直させますんで」
前回と全く変わらず抑揚のない一方的な喋りで貴斗の声を聞かぬまま電話を切った。碧は呆然としていると虹志はドアを乱暴に開け振り向きながら「有料のアプリ入れたいしガチャの課金分合わせて五千円分な」そう言い残し部屋から出て行った。碧はぶっきら棒な弟の優しさに少し触れお礼を言いに急いで弟の部屋に行くとすぐさま正座させられ説教をくらってしまった。
――――――――――
虹志の言う通りこのままではいけないと考えた碧は重い腰を上げ貴斗に会う決心をした。あの二人の話が本当か嘘か当事者に聞かなければ前に進めない、ましてや二人と話したことを貴斗はきっと知らない。それに自分自身も偽名を使っている後ろめたさもありどう転ぶかはわからないが何もかもお互い隠さずちゃんと話し合おうと心に決めた。
碧は時間割変更で早く下校できる今日、直接貴斗に会うため意を決して制服のまま何も飾らない素の姿で会うため学校から直接貴斗の学校へと急いで向かった。
『僕はどんな紅音でも気づく自信あるよ』
その言葉を信じて...。
☆☆☆
(やっぱ凄いな...みんな見るからに頭の良さが染み出てるな)
さすがセレブな家の子たちが通う学校だけあってやはり自分との違いを突きつけられ胸がチクッと痛んだ。
丁度貴斗の学校も下校時間になったのか生徒たちが次々と出てくると同時に気付くと送迎の車が何十台と停まっており自分との環境の違いを思い知らされた。
(よくよく考えたらこういう学校だから送り迎えとかあるよね...しかも貴斗ん家もお金持ちだし。スマホ持ってれば連絡も取れたけど今ないしな...せっかく来たけど話せないかもな)
人目に付かない場所で待っていたが勢いで来てしまったのを後悔し出直そうと来た方向へと戻ろうとした時、校門付近にいる下校生徒たちの響きが気になり振り向くと数週間ぶりに見た制服姿の貴斗が校舎から出てきたの見つけた。
普段会う貴斗とはまた違い大人びた表情に見え碧は思わず見惚れてしまった。その隣には引けをとらない程の見目麗しい美少女、先日から碧を不安定な状況に陥れた張本人、琴花がおしとやかな表情を振りまきながら貴斗に笑顔を向け仲睦まじく並んで下校していた。
“阿部先輩と能海先輩だわ、本当ウットリするくらいの美男美女よね”
“ほんとよね、阿部先輩モテて大変でしょうけど能海先輩の美しさに敵う方なんて校内外探してもいらっしゃらないから心配なんてしてないでしょうね”
“最近、阿部くん元気なさそうだったけど琴花さんと喧嘩でもしてたのかしら”
“でも今一緒にいるから仲直りしたんじゃないの?まぁもしそうだったとしてもあの二人に限って別れるとかはないでしょう...なんせ結婚の約束してるんですもの、今日なんて琴花さんの車で一緒に帰るみたいだし羨ましいわ”
あちこちで下校中の生徒たちが二人を遠巻きに見ながら囁く声に碧はカタカタと悪寒が走り、込み上げそうになる吐き気に口を押さえその場にしゃがみ込んでしまった。
「キミ顔色悪いけど大丈夫?校内の養護教諭呼んでこようか?」
近くにいた下校中の男子生徒に声を掛けられ心配ないことを伝え慌てるように立ち上がりその場を離れようと視線を上げると数メートル先を歩く貴斗と目が合った気がした。
碧は名前を呼ぼうと唇が動いた瞬間、貴斗は琴花の問いかけに碧から琴花へと視線を戻し笑顔で迎えの車に二人は乗り発進した車は碧からどんどん離れて行ってしまった。
(何が“どんな私でも気づく”よ、やっぱりわかんなかったじゃん...嘘つき)
碧は心配して声を掛けてくれた生徒にお礼を言い気味の悪い笑みを浮かべながら向かってきた道を戻るように歩いた。
☆☆☆
「おかえり、丁度いいとこに帰って来たわ、またいっぱい果物送って来たから悪いけどコレなっちゃん家に持ってって」
家に帰ると母から有無を言わせず袋に入った柿を押し付けられるよう手渡されてしまった。碧は只でさえ平然といられる状態ではないのに夏樹となんて会ったら......想像すると恐ろしく母親に虹志に頼むよう言うが聞き入ってもらえず一先ず着替え泣く泣く足取り重く飯野家へと向かった。
「あらー、碧ちゃんこんにちは。お礼遅くなっちゃったけどこの前はお世話になったみたいでほんとありがとねー助かったわー」
インターホンを押すと玄関のドアが開き夏樹の母親が顔を出した。
「いえいえ、あの時一回しかできなかったししかも失敗しちゃって、あっコレ母からです」
手に持っていた袋を夏樹の母親に渡し帰ろうとした時、慌てるように碧の手を掴んできた。
「碧ちゃん、忙しいとこ申し訳ないけどお願いがあるのー」
☆☆☆
「はぁー...なんでこんなことに」
魘されている夏樹の額に触れぬよう冷やしたタオルを乗せ深く大きな溜息を何度もついていた。
『夏樹、今熱出して寝込んでるんだけど経口飲料水切らしちゃったからドラッグストアで買ってくる間だけ看ててほしいの。無理言ってごめんね、すぐ戻るから』
そう言いながら碧の返事を聞くこともなくそのまま夏樹の母は車で行ってしまった。
(おばさん早く帰って来てよー)
魘され眠る夏樹の顏を見ながらあの時の記憶が呼び起され居心地悪く落ち着かない様子で夏樹の汗を拭いていると夏樹の目が薄ら開き、碧の顏を寝惚けまなこで見つめてきた。
「あ、あのね今おばさん買い物行ってて...か、帰ってくる間だけ頼まれて...えっと...」
まさか目を覚ますとは思わずしどろもどろになり熱がまだ高いため先程からぼんやりとした表情の夏樹が碧を見つめると汗を拭いていた右手を掴まれベッドに引っ張り込まれ押し倒された。碧は何が起きたのか全く理解できず身体は硬直し声すらも発せずにいた。夏樹は碧の上に覆い被さり首筋に唇を押し付け吸い付き舌で舐め上げた。
「ひっ、や、やめてっ!」
首筋から鎖骨にかけて夏樹から強い痛みを植え付けられていく。碧は痛みと怖さで身体が思うように動けずその間夏樹は強く抱き締め荒い息遣いが碧の耳元にかかった。
「なっちゃん、ほん...とやめ」
「どこにも行かないで...俺の傍から離れないで」
「好きだ...俺を見て......紅姉...」
どこか譫言のように姉への想いを呟く夏樹に碧は怒りとも悲しみとも取れるようで取れない不確かな感情に心が粉々に砕かれていくのがわかった。
「私はお姉ちゃんじゃないっ!!!」
ドタンッ!!!
夏樹は意識朦朧としていたのが大きな怒声と突き飛ばされたことで目が覚め何事かと落ちたベッドへ目をやると首回りが縒れた衣服の胸元を掴み涙を流している碧の姿を目にした。
「あ...おい、な、何でここに...」
未だ現状を把握できずにいる夏樹は碧の様子から自分が何か仕出かしたことだけはわかったがどうしていいかわからず混乱状態に陥っていた。
「...なっちゃん、私は紅姉じゃないよ、酷いよ」
夏樹は何か声をかけようと思うが言葉が見つからず碧を見つめ更に言葉を失った。
「碧...俺...」
震えながら言葉を発する夏樹の視線が首元を凝視していたことで近くにあった全身鏡で自身を見ると首元に数か所紅い痕が見え咄嗟に手で押さえた。
高熱で不安定なこともあり今にも泣き出しそうな夏樹を押しのけ碧は逃げるように部屋を出た。
「碧っ!待って!!」
夏樹の悲痛な声に耳を傾けることなく碧は夏樹の家を飛び出し無我夢中で逃げ気付けば近所の公園へ辿り着いていた。
「今日は踏んだり蹴ったりってやつだな、はは...私って男運ないなー、結局誰も私の事なんて見てないんじゃん、やだなーウケるわー......なんで私ばっかこんな想い」
自嘲しひとしきり泣き、碧はある行動に移すべく覚悟を決めた。
☆☆☆
『紅音?!やっと話せた...身体は大丈夫?体調悪いのに何度もかけてごめん、でも心配で』
「こっちこそごめんね、喋れる気分じゃなくて...でももう大丈夫だから」
碧は一度家へと戻りスマホを持って再び公園へとやって来た。
『あのさ、実は紅音に言うことあって...』
「私も貴斗に話さなきゃいけないことあるんだけど先いいかな?」
そう述べる碧の話に了承し「どうしたの?」貴斗のどことなく機嫌のいい声色に碧は落ち着いた優しげな声で貴斗の耳元に告げた。
「私ね、貴斗と別れたいの」
「ううん、兄貴の友だちの分もあったし一人増えたところでどうってことないよ」
昼はキヨの代わりの家政婦からサンドイッチを作ってもらい離れの部屋で一緒に食べ、夕方近くまで二人で過ごしていた。
「そろそろ帰んなきゃ」
部屋の時計に目をやり帰り支度を始めようとすると後ろから貴斗に抱き締められ首元に髪があたり擽ったく身を攀じった。
「もっと一緒にいれたらいいのに...来週は予定があって会えないし」
貴斗の甘えた声に胸が高鳴り心臓が締め付けられ碧は自分の胸元に回っている貴斗の腕をぎゅっと握った。
「私だって一緒だよ...来週は会えないんだ」
寂しさから少し声のトーンが落ちたのを貴斗は気づき碧を自分の方へと向かせ軽くキスをした。
「...あのね、今日は残念なことになっちゃったけど今度は絶対あんなことにはならないから!」
「う、うん......?」
唇が離れると碧の両肩を掴み力を籠め力説されたが碧は意味が分からずポカンとなり目をパシパシと瞬きし曖昧な返事をした。
☆☆☆
「ほんとにここでいいの?家まで送るよ」
「うん大丈夫だよ、わざわざありがと」
貴斗の家を出る際、『近くまで送る』と言われそのまま喋りながら歩いているとあっという間に碧が利用する駅へと着いてしまった。
「心配だから家着いたら電話して...はぁー、今思ったけど今日の服スカート短くない?一人になる時はこんな格好しないで、只でさえいつも可愛いんだから...やっぱ家まで送るよ」
貴斗は名残惜しそうに繋いだ手を放さず悲壮感を漂わせた表情で碧を見つめていた。
「もーう大丈夫だって、しかもこんなメイク取れかけの顏、誰もそんなふうに思わないよ。貴斗だって私のスッピン見たらモブすぎて絶対気付かないと思うし」
笑いながら話す碧に対し真剣な眼差しで繋いだ手を引き寄せそのまま貴斗は自身の唇へ碧の指先を宛がった。
「僕はどんな紅音でも気づく自信あるよ」
「うん、ありがと...家に着いたら連絡するね」
繋いだ手の指先を一本、一本解くように放し二人は別れた。
(んー、なんか違和感あって歩き方変になっちゃうな...)
先程の行為によって股関節辺りと局部に痛みと異物感を感じながら改札口へと向かっていると
「あの」
後ろから女性の声が聞こえ振り向くと図書館で見た貴斗の同級生の二人組の女の子が立っていた。
ショートの女の子は心なしか此方を睨むようにもう一人の美少女は同じ年とは思えない程の荘厳な雰囲気でじっと碧を注視していた。
「えっと...何か?」
二人の刺々しい空気に碧は怪訝そうな表情をしているとショートの女の子は一歩前に出て碧を睨み付けた。
「あなた、阿部貴斗くんとさっきまで一緒にいた子よね?」
「それが何か...」怯みそうになるのを耐え碧は話す彼女に視線を向け、女の子もまた険しい表情を変えることなく見つめてきた。
「遠回しに言うの嫌だからハッキリ言うけどアンタ、阿部くんの何か弱みでも握って無理矢理付き合ってもらってるんじゃないの?もしそうならいい加減にしてくれない?アンタのせいで琴花がどんな気持ちでいるか...」
碧は捲し立てられ相手の勢いに硬直していると琴花が宥めるように制止し碧を真っ直ぐ見据えしっかりとした口調で話しだした。
「私、阿部貴斗の同じ学校で幼馴染の能海琴花と言います。多分あなたと会ってからだと思うけど常に学年トップだった彼がこの前のテストで初めて順位を落としたんです。彼、幼少期から優秀で何事にも先頭を走っていくような人なのにこんなことで躓くなんて...申し訳ないけどはっきり言ってあなたの存在は彼の人生のマイナスにしかならないと思います」
碧は混乱からか何から整理して反論すればいいかわからず只々立ち尽くし口元は何か喋ろうとするも声が出せなかった。
彼女たちの話によれば、貴斗と琴花は親同士が知り合いで幼稚舎からの付き合いだった。琴花は幼少の頃から貴斗を慕い両親からも高校に上がり落ち着く頃合いを見て阿部家へ正式に婚約の話しをすることになっていた...それは貴斗自身も納得していることだと伝えられた。
「正直さ、中身も外見もどう足掻いても阿部くんと釣り合うわけないじゃん、大体アンタみたいなのが関われるような人じゃないから!うちの学校にはアンタみたいな人いないし正直物珍しかっただけでその内飽きられるんだから今のうちに身の丈にあった相手見つけた方がいいんじゃない?ってか琴花より好かれてるって今も思ってないよね?いくらなんでもそこまで脳内お花畑じゃないか、付き合いの年月考えたら...わかるよね?」
嘲笑うようにショートの女子は碧に心無い言葉を浴びせた。
「...お願い、外見だけで付き合ってるなら彼をこれ以上惑わせないでください。このままいったらあなたのせいでだめになってしまう...貴斗のこと大切に思うなら...お願いします」
(可愛い人は喜怒哀楽の表情すら綺麗なんだな...)
涙を溜め頭を下げ訴える琴花を見ながら碧は他人事のような気分で彼女の表情を眺めていた。
☆☆☆
気が付くと碧は部屋のベッドに腰掛けていた。あのあと彼女たちとどう別れ、家へと向かったのかさっぱり思い出せずただ気が付くと自分の部屋にいたということだけだった。碧にとって初めての嬉しく淡い出来事も今はそれさえも霞むほどのダメージを与えられ何も考えられずただ虚しさだけが心を満たしていった。
ガチャッ
部屋のドアが開きゆっくりそちらに視線を向けると無愛想な表情で虹志が立っていた。
「さっきから音鳴りっぱなしっ!!いい加減出るか音消すかしろよっ!」
虹志の言葉に鞄から流れる機械音に気付き中から取り出すとディスプレイには貴斗の名前が記されていた。
(そういえば、電話し忘れてたや)
碧は着信ボタンをタップしようとした瞬間、音は切れ不在着信の文字が映し出されていた。碧が着信履歴を見ると十件以上の回数が記されていたため掛け直そうとするもなかなか指が動かず押せずにいた。そうこうしていると再度着信が鳴り躊躇う碧に業を煮やしたのか虹志が碧のスマホを取り上げ勝手に電話に出てしまった。
『もしもしっ!良かった、帰ってるはずなのに連絡ないから心配で』
「あーすいません、俺弟です。姉ちゃん買い物頼まれて今出てて、スマホ忘れてったから連絡出来なくて。帰ってきたら本人に伝えときますんで、じゃあ」
虹志は貴斗の返事を聞くことなく一方的に喋り電話を切ると碧の座るベッドにスマホを放り投げた。
「ったく、今度なんか奢ってもらうからな」
虹志は捨て台詞を吐きそのまま部屋から出て行った。「虹、ごめん...ありがと」碧は閉められたドアに向かって小さな声で呟き座っていた身体を倒れるようにベッドへ沈めた。
その日は貴斗への連絡はせず次の日もかかってきたが出ることはなくそれからしばらく会うこともしなかった。
――――――――――
「虹、何度もごめん、ありがと」
「気持ちわりいな、この前のこともあるからプリぺ五千円分で手打ってやるよ。お前、電話出るの嫌な相手なら着拒なりすりゃーいいじゃん、大体男に現抜かしてる場合じゃねーだろ、とにかく早くケリつけろ!毎晩ウルせーんだよ」
虹志の部屋で正座しながら碧は言いたい放題言われいつもなら碧もここでバトルを繰り広げるところだが助けてもらったため文句も言えず黙って耐えていた。
―――――事の発端は数分前に遡る...
「おいっ碧スマホ貸せ」
あれから夜になると何度も着信音が鳴るスマホに碧は貴斗と話す勇気が持てずどうすればいいか悩み今もなお出れずにいるとノックもせず虹志がズカズカと部屋に入って来た。今まさに鳴っているスマホを碧の手から奪い取り勝手に通話ボタンをタップした。
「もしもし、弟です。何度も掛けてもらってるみたいですが姉ちゃん今インフルにかかっちゃって喋れないんで電話取れないんです。元気になったら掛け直させますんで」
前回と全く変わらず抑揚のない一方的な喋りで貴斗の声を聞かぬまま電話を切った。碧は呆然としていると虹志はドアを乱暴に開け振り向きながら「有料のアプリ入れたいしガチャの課金分合わせて五千円分な」そう言い残し部屋から出て行った。碧はぶっきら棒な弟の優しさに少し触れお礼を言いに急いで弟の部屋に行くとすぐさま正座させられ説教をくらってしまった。
――――――――――
虹志の言う通りこのままではいけないと考えた碧は重い腰を上げ貴斗に会う決心をした。あの二人の話が本当か嘘か当事者に聞かなければ前に進めない、ましてや二人と話したことを貴斗はきっと知らない。それに自分自身も偽名を使っている後ろめたさもありどう転ぶかはわからないが何もかもお互い隠さずちゃんと話し合おうと心に決めた。
碧は時間割変更で早く下校できる今日、直接貴斗に会うため意を決して制服のまま何も飾らない素の姿で会うため学校から直接貴斗の学校へと急いで向かった。
『僕はどんな紅音でも気づく自信あるよ』
その言葉を信じて...。
☆☆☆
(やっぱ凄いな...みんな見るからに頭の良さが染み出てるな)
さすがセレブな家の子たちが通う学校だけあってやはり自分との違いを突きつけられ胸がチクッと痛んだ。
丁度貴斗の学校も下校時間になったのか生徒たちが次々と出てくると同時に気付くと送迎の車が何十台と停まっており自分との環境の違いを思い知らされた。
(よくよく考えたらこういう学校だから送り迎えとかあるよね...しかも貴斗ん家もお金持ちだし。スマホ持ってれば連絡も取れたけど今ないしな...せっかく来たけど話せないかもな)
人目に付かない場所で待っていたが勢いで来てしまったのを後悔し出直そうと来た方向へと戻ろうとした時、校門付近にいる下校生徒たちの響きが気になり振り向くと数週間ぶりに見た制服姿の貴斗が校舎から出てきたの見つけた。
普段会う貴斗とはまた違い大人びた表情に見え碧は思わず見惚れてしまった。その隣には引けをとらない程の見目麗しい美少女、先日から碧を不安定な状況に陥れた張本人、琴花がおしとやかな表情を振りまきながら貴斗に笑顔を向け仲睦まじく並んで下校していた。
“阿部先輩と能海先輩だわ、本当ウットリするくらいの美男美女よね”
“ほんとよね、阿部先輩モテて大変でしょうけど能海先輩の美しさに敵う方なんて校内外探してもいらっしゃらないから心配なんてしてないでしょうね”
“最近、阿部くん元気なさそうだったけど琴花さんと喧嘩でもしてたのかしら”
“でも今一緒にいるから仲直りしたんじゃないの?まぁもしそうだったとしてもあの二人に限って別れるとかはないでしょう...なんせ結婚の約束してるんですもの、今日なんて琴花さんの車で一緒に帰るみたいだし羨ましいわ”
あちこちで下校中の生徒たちが二人を遠巻きに見ながら囁く声に碧はカタカタと悪寒が走り、込み上げそうになる吐き気に口を押さえその場にしゃがみ込んでしまった。
「キミ顔色悪いけど大丈夫?校内の養護教諭呼んでこようか?」
近くにいた下校中の男子生徒に声を掛けられ心配ないことを伝え慌てるように立ち上がりその場を離れようと視線を上げると数メートル先を歩く貴斗と目が合った気がした。
碧は名前を呼ぼうと唇が動いた瞬間、貴斗は琴花の問いかけに碧から琴花へと視線を戻し笑顔で迎えの車に二人は乗り発進した車は碧からどんどん離れて行ってしまった。
(何が“どんな私でも気づく”よ、やっぱりわかんなかったじゃん...嘘つき)
碧は心配して声を掛けてくれた生徒にお礼を言い気味の悪い笑みを浮かべながら向かってきた道を戻るように歩いた。
☆☆☆
「おかえり、丁度いいとこに帰って来たわ、またいっぱい果物送って来たから悪いけどコレなっちゃん家に持ってって」
家に帰ると母から有無を言わせず袋に入った柿を押し付けられるよう手渡されてしまった。碧は只でさえ平然といられる状態ではないのに夏樹となんて会ったら......想像すると恐ろしく母親に虹志に頼むよう言うが聞き入ってもらえず一先ず着替え泣く泣く足取り重く飯野家へと向かった。
「あらー、碧ちゃんこんにちは。お礼遅くなっちゃったけどこの前はお世話になったみたいでほんとありがとねー助かったわー」
インターホンを押すと玄関のドアが開き夏樹の母親が顔を出した。
「いえいえ、あの時一回しかできなかったししかも失敗しちゃって、あっコレ母からです」
手に持っていた袋を夏樹の母親に渡し帰ろうとした時、慌てるように碧の手を掴んできた。
「碧ちゃん、忙しいとこ申し訳ないけどお願いがあるのー」
☆☆☆
「はぁー...なんでこんなことに」
魘されている夏樹の額に触れぬよう冷やしたタオルを乗せ深く大きな溜息を何度もついていた。
『夏樹、今熱出して寝込んでるんだけど経口飲料水切らしちゃったからドラッグストアで買ってくる間だけ看ててほしいの。無理言ってごめんね、すぐ戻るから』
そう言いながら碧の返事を聞くこともなくそのまま夏樹の母は車で行ってしまった。
(おばさん早く帰って来てよー)
魘され眠る夏樹の顏を見ながらあの時の記憶が呼び起され居心地悪く落ち着かない様子で夏樹の汗を拭いていると夏樹の目が薄ら開き、碧の顏を寝惚けまなこで見つめてきた。
「あ、あのね今おばさん買い物行ってて...か、帰ってくる間だけ頼まれて...えっと...」
まさか目を覚ますとは思わずしどろもどろになり熱がまだ高いため先程からぼんやりとした表情の夏樹が碧を見つめると汗を拭いていた右手を掴まれベッドに引っ張り込まれ押し倒された。碧は何が起きたのか全く理解できず身体は硬直し声すらも発せずにいた。夏樹は碧の上に覆い被さり首筋に唇を押し付け吸い付き舌で舐め上げた。
「ひっ、や、やめてっ!」
首筋から鎖骨にかけて夏樹から強い痛みを植え付けられていく。碧は痛みと怖さで身体が思うように動けずその間夏樹は強く抱き締め荒い息遣いが碧の耳元にかかった。
「なっちゃん、ほん...とやめ」
「どこにも行かないで...俺の傍から離れないで」
「好きだ...俺を見て......紅姉...」
どこか譫言のように姉への想いを呟く夏樹に碧は怒りとも悲しみとも取れるようで取れない不確かな感情に心が粉々に砕かれていくのがわかった。
「私はお姉ちゃんじゃないっ!!!」
ドタンッ!!!
夏樹は意識朦朧としていたのが大きな怒声と突き飛ばされたことで目が覚め何事かと落ちたベッドへ目をやると首回りが縒れた衣服の胸元を掴み涙を流している碧の姿を目にした。
「あ...おい、な、何でここに...」
未だ現状を把握できずにいる夏樹は碧の様子から自分が何か仕出かしたことだけはわかったがどうしていいかわからず混乱状態に陥っていた。
「...なっちゃん、私は紅姉じゃないよ、酷いよ」
夏樹は何か声をかけようと思うが言葉が見つからず碧を見つめ更に言葉を失った。
「碧...俺...」
震えながら言葉を発する夏樹の視線が首元を凝視していたことで近くにあった全身鏡で自身を見ると首元に数か所紅い痕が見え咄嗟に手で押さえた。
高熱で不安定なこともあり今にも泣き出しそうな夏樹を押しのけ碧は逃げるように部屋を出た。
「碧っ!待って!!」
夏樹の悲痛な声に耳を傾けることなく碧は夏樹の家を飛び出し無我夢中で逃げ気付けば近所の公園へ辿り着いていた。
「今日は踏んだり蹴ったりってやつだな、はは...私って男運ないなー、結局誰も私の事なんて見てないんじゃん、やだなーウケるわー......なんで私ばっかこんな想い」
自嘲しひとしきり泣き、碧はある行動に移すべく覚悟を決めた。
☆☆☆
『紅音?!やっと話せた...身体は大丈夫?体調悪いのに何度もかけてごめん、でも心配で』
「こっちこそごめんね、喋れる気分じゃなくて...でももう大丈夫だから」
碧は一度家へと戻りスマホを持って再び公園へとやって来た。
『あのさ、実は紅音に言うことあって...』
「私も貴斗に話さなきゃいけないことあるんだけど先いいかな?」
そう述べる碧の話に了承し「どうしたの?」貴斗のどことなく機嫌のいい声色に碧は落ち着いた優しげな声で貴斗の耳元に告げた。
「私ね、貴斗と別れたいの」
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