今日でお別れします

なかな悠桃

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side― kohshi

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※箸休め的な内容で本編の少し前の話になります。弟の虹志が彼女と付き合う前の話です。本編には全く関係ないので読まなくても次話には影響ありません。



―――――――――――――――
俺には二人の姉がいる。一番上の姉貴は“猪突猛進”タイプ、二番目は“内弁慶”タイプ。上の姉が割と目立つ行動派、リーダーシップを自らとるような長女の性格から非対称と言っても過言ではない程の全く目立たないのが次女。俺はどちらかと言えば長女に似ているがあそこまでバカにはなりたくない、かといって次女みたくウジウジじめじめも性に合わない。ただ次女は腹立つことに内弁慶タイプだから俺には当たりがきつかったりするから腹が立つ。

だから長女とは年も離れているせいか割と普通に話すが次女とは合わない。そんな性格だから男で泣きを見る羽目になるんだ。あの時だって...。


「...くん...きり...く...桐野くん?」

(ヤベっ、意識トリップしてた)

「さっき先生がノート提出してないの桐野くんだけだから伝えてって言われて...」

「あぁー、あとでハラ先に渡しとく」

「うん、あのき、「虹志ーっ一緒に帰ろー」

(げっ、ウザいの来やがった)

あからさまな鬱陶しい表情をするも相手は全く気にするどころか理解してもいない様子で俺の腕に纏わりついてきた。

「わりい坂野、俺今日予定あるから無理だわ」

絡みついてきた腕をはがし不機嫌そうにしている坂野を無視し鞄を担いだ。

(あれ?アイツいつの間にいなくなっちまったんだ?)

“ちっ”...脳内で不快気に舌打ちしギャーギャー騒ぐ坂野をスルーして生徒玄関に向かった。下駄箱の“佐久間”の氏名がある靴箱にはすでに帰ったらしく内履きが揃えて入っていた。

俺は苛立ちと落胆が混じったような溜息を無意識に吐いていた。俺はその足で家の近くにある図書館へ寄り自習室へと向かった。行く日によって満席に近い時もあるが今日は割と空いていたため空いてる席にテキトーに荷物を置いた。

(やっぱ自習室ここにいたか)

後ろ姿からだが見覚えのある背格好の女が勉強しているのがわかった。


佐久間未央さくまみお・・・中二、中三と同クラで俺は目立つような奴らとつるんでいるが佐久間はどちらかと言えば自分の意見を言わず流れに任せるタイプ。大人しいのが集まったグループにいる...ハッキリ言ってほとんど会話らしい会話もしたことない、印象が薄いイメージの関わることのないタイプの女...ウジウジじめじめ、そんな言葉が似合うアホいと同族、見ていて一番イラつく女。

そんな女が今では俺の視線を放そうとしない...あの時の表情が頭から離れない。


☆☆☆
やっと集中しかけた矢先、佐久間が帰り支度を始めたのが見えた。俺はあいつにバレないように頭を下げ佐久間が通り過ぎると急いで荷物を纏め下に降りた。

(ヤベッ見失った...あいつ、トロそうに見えて結構足えーんだよな)

そんなとこもと一緒とは...俺は急ぎ足で図書館から出ると駐輪場付近で誰かと話しているのが見えた。俺は隠れるようにそっと覗くと佐久間と背の高い男子高校生、その隣には優しそうな笑みを浮かべる綺麗めな女子高生がいるのが見えた。

男は佐久間の頭にポンと手を乗せ笑っているのが見える。佐久間も笑顔でいるのに俺はと同じ胸の痛みに襲われた。二人が去り際、佐久間に手を振り佐久間も笑顔で手を振り二人が楽しそうに話をしている姿をずっと見つめていた。

「諦めたら?」

俺の言葉に吃驚したような表情で佐久間が振り向いた。その顔は今にも泣きだしそうな...俺にはそんな表情に見えた。

「なんで桐野くんが...」

「俺も結構ここ利用してんの、家帰ったらウゼー姉貴がいるから部屋で集中して受験勉強できねーし」

「そ...そうなんだ」

気まずそうに話す佐久間に何故だか苛立ちながら気持ちを落ち着かせようと息を吐いた。

「さっきの男の方、前にもここで見たことあるけど」

「あー、うん...あの人は幼馴染のお兄ちゃんなんだ」

「へー、じゃああの隣にいた女子高生は?」

「私のお姉ちゃん...同じ年で高校も一緒なんだ、いつも時間ある時はお兄ちゃん近所だから図書館寄った日は迎えに来てくれるんだけど今日は無理って言われてたんだ。でも心配だからってさっきメッセに外にいるって入ってきて...でもまだ明るいし一人で帰れるからいいよって言ったとこ」

(ここもあのアホと同じかよ)

どこかしら作り笑いを浮かべる佐久間こいつに何故か嫌な言葉が脳内に湧きだった。

「お前の姉ちゃんかわいいな、隣の奴とめちゃくちゃお似合いだったし...ってもしかして佐久間も好きだったとか?」

(何言ってんだ俺)

「でもさー、告白とかしたら良かったんじゃね?もしかしたらうまくいってたかもよ、あっでもあの二人昔から好き合ってるとしたら佐久間の告白は空回りもいいとこだな」

(もう止めてくれっ、こんなこと言いたいんじゃないっ)

「はは...二人とも私にとってはすごく大好きで大事な二人で...その二人が恋人同士に...」

力なく笑い俯く佐久間の足元のアスファルトは雨跡のような小さく濃い色が落ちていた。俺は自分が取り返しのつかないことをぶつけてしまったことにめちゃくちゃ後悔した...いやそんな甘いもんじゃない、俺は俺自身をボコボコにぶん殴りたい気分だった。

「おっ、お前は視野がめーんだよ!」

「ひゃっ」

俺は無理やり両手で佐久間の両頬を挟み俺に顔を向けるように持ち上げた。涙を溢しながら吃驚する佐久間の顔が面白くて...可愛くて思わず噴き出してしまった。

「佐久間は俺があんな幼馴染おとこよりもっといい男見つけてやっからもう忘れろっ!わかったな!」

(俺よりいい男なんていねーけどな)


心ん中で呟いてたら瞼をパチパチ瞬きする姿が腹立つくらい可愛くて...誤魔化すように佐久間の頬を挟んだ両手を更に力を籠め挟むと唇が前に出てきて“3”のようになってしまった。

「き、きりのきゅん、くちゅうが...」

バタバタと暴れる佐久間が小動物のように見え俺はまた噴き出すように笑ってしまった。

「俺が傍にいてやるから...だからもう泣くな、笑ってろ」






俺は、何度かここでお前があの幼馴染といるとこを見たことがあるんだ。それまでなんとも思ってなかった只の地味なクラスメイトが好きな男にはあんなにもキラキラした表情を向けるのを目の当たりにして固まった。その時“俺死ぬんじゃないかっ”ってくらい心臓に激痛が走ったんだ...。

でも別の日さっきの女と仲良さそうにいるとこ見たんだ...互いに想い合ってるような表情...だからお前が入る余地なんてねーんだよ、それなのに...だから俺はお前が嫌いだった...だって碧と一緒だから。何も言わず報われることがない気持ちを抱えてどうすんだって...ウジウジ悩んでどうすんだって、だから俺は碧も佐久間も嫌いだ...でも......。


俺は長女に似ている、“猪突猛進”タイプ。だからウジウジ考えない。逃げようとしたらどんな手を使っても捕まえる。だから未央、お前はもう俺から逃げられない、諦めな。
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