交わることのない二人

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気まずい偶然

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 「あ゛ぁー……暑!! 誰! こんな真っ昼間に、外でキャッチボールしよとか言うたん!」



 そう言って投げるヤマのボールを受けとると、すかさず僕は「ヤマでしょ。急にキャッチボールしたいって言い出したの」と言って、ミヤにボールを投げる。

 ミヤもボールを受け取ると「ほんま頭おかしいんちゃう」とヤマにボールを投げる。


 ヤマの突然の閃きで、半ば強制的に僕とミヤは近くのグラウンドへとやって来ると、真夏の真っ昼間にキャッチボールをさせられた。

 本当に何で、こんなクソ暑い日にキャッチボールなんだと思っていると、言い出しっぺのヤマも同じ事を思ったのか「やめよ! 死ぬわ!」と開始数分でキャッチボールは終わる。


 そして近くのコンビニでアイスを買って、僕たちはコンビニ付近の公園で並んでアイスを食べる。

 ヤマは「やっぱ暑い日はアイス一択やわ」と幸せそうにアイスを頬張っている。

 
 そんなヤマに「そんなに一気に食べたら、頭痛くなるよ」と言っていると、ミヤが「そう言えば、予定より菖蒲早よ大阪に戻って来たけど何かあったん?」と聞いて来る。

 ミヤの言う通り、僕は予定よりも早く東京から大阪に戻って来たのだ。


 ヤマは「ほんまや。まぁ、俺らとしては、早よ帰ってくれたから遊べる時間増えて嬉しいけど」と最後の一口のアイスを食べては、どうやら当たりが出たらしく「見て! 当たりや!」とはしゃぎだす。



 「おー、すごいやん。交換して来たら?」

 「今ってまだ交換できんの?」



 そう話す2人を見て、僕は安心感を覚える。

 特に何かがあり、大阪に戻る日にちを早めたわけではないが、何故か実家に居づらくなり、僕は適当な理由をつけ大阪に戻って来たのだ。


 まぁ、実家に居づらくなった理由は、ある程度覚えはあるけど……。


 そう考える僕にヤマが「あ、ごめん、菖蒲。話の途中やったのに」と謝って来るので、僕は「いや……2人に会いたくなって、帰って来るのはやめたんだ」と言う。

 それも事実だった。

 実家にいる間、色々と考えすぎて疲れ切った時、思ったのがヤマとミヤに会いたいだった。


 東京にも仲のいい友人はいるのだが、ヤマとミヤは僕にとって特別な友人だった。

 2人といる時は、何も考えなくていいし、何も気を遣わなくていい。

 何より2人は僕に「何考えてるかわからない」と一度も言ったことがなかった。


 今まで散々嫌と言うほど言われて来たその言葉たち。

 だが、ヤマとミヤだけは僕に向かってそう言うことはなく、むしろ僕がその事について悩んでいると「俺もよく言われる。別に何も考えてへんのにな」と笑い飛ばしてくれた。


 そんな2人と過ごすのは居心地が良く、いつしか家族よりも居心地のいい存在になっていた。

 僕の言葉に「え……愛の告白……?」と嬉しそうにするヤマと「愛されすぎて困るわ」と真顔で言うミヤ。


 2人は「キャーッ乙女にされちゃう~」とふざけ出す。

 2人を見て僕が笑うと、2人は「菖蒲がめっちゃ笑ってる……!」「いつもボケたらめっちゃ厳しく審査してくるあの菖蒲が……!」と言い「お赤飯たかな!」とはしゃぎだす。

 そんないつもと変わらない2人を見て、僕はやっぱり落ち着くな……と思うのだった。


 そしてふと、晴臣さんの事が頭をよぎる。

 晴臣さんから電話がかかって来た後、晴臣さんは大阪に戻る時連絡してと言って来たが、僕は連絡することはなかった。

 そして大阪に戻り数日経つが、今もまだ晴臣さんに連絡はしていない。


 きっと、僕が大阪に戻ったと言ったら、また前のように晴臣さんとスイーツを食べに行ったり、お笑いを見に行ったりするのだろう。

 けれど、東京に戻ってからずっと、本当にこの先もこの関係を続けていいのだろうか。そんな思いが出て来た。


 晴臣さんは好きだし、出来ることなら何も考えずに、今まで通り過ごしたい。

 けれど、それは出来ないことはわかっているし、いつかはこの関係に終わりをつけなければいけない日が来る。

 だとすれば、まだ晴臣さんへの想いが浅いうちに、終わらせるのがいいんじゃないだろうか。


 きっと先延ばしにすれば、晴臣さんから離れられなくなる。

 そんな事を考えていたら、晴臣さんに大阪に戻った事を知らせぬまま、数日が経っていた。



 アイスを食べたが、やはり外は暑いのでどこか涼める場所に移動しようかと話になり、場所を調べるため、スマホを取り出した時だった。

 スマホの通知音が鳴り、僕は画面を見る。



 「え……?」



 予想外の人物から、予想外の内容が送られて来ており、僕は思わず口に出して驚いてしまう。

 そんな僕にヤマは「どうしたん?」と言い、ミヤと一緒に僕の元へとやってくる。


 そんな2人に「あ……いや……」と、どうしようかと迷うも、今送られて来た内容を話す。



 「実は……鈴宮さんからラインが来たんだけど……お笑いのちょっとしたライブのチケットが当たって、一緒に見に行かないかって来てて……」



 僕の言葉に2人は「まじ!?」と声を揃えたかと思えば「やっぱりな! 菖蒲に気いあったんや!」「ついに鈴宮さん動いたか~」とそれぞれ口にする。

 そんな2人に「いや……たまたまでしょ」と言うと、ミヤは「いい加減自覚せえ」と肩に手を置いてくる。



 「わざわざお笑いのライブに、気のない奴なんて誘わんやろ! しかも相手はあの鈴宮さんやで? 普通の人間があんな美人にお笑いなんか誘われたら、俺に気あるんかなって誤解してしまう!」

 「それは美人な鈴宮さんはちゃんと理解してる。その上で誘ってくるってことはこれはもう脈アリやろ!」



 ヤマの言う通り、鈴宮さんは鉄壁で有名だ。

 色んな男子が鈴宮さんを食事や遊びに誘っても、ことごとく断られたと言うのはよく聞く。

 鈴宮さんは一切、男を寄せ付けず、大勢で飲みに行っても一滴もお酒を飲まないらしい。

 そもそも飲み会自体に参加しないらしいが。
 
 全く隙を見せないことから裏で鉄壁と呼ばれているのだ。



 「俺が知ってる中で、こんなふうに遊びに誘われてんのお前くらいやって! なぁ? ミヤ!」
 
 「うん。ていうか鈴宮さんの連絡先知ってるんだって、菖蒲くらいちゃう?」



 2人は「行ったらいいやん!」と言ってくるが、僕は悩む。

 もし本当に、鈴宮さんが僕に好意を持ってくれているのだったら、かえって失礼になるのでは……?


 それに……まだ、晴臣さんのこともちゃんと出来ていないのに。



 悩む僕にヤマは「そんな深く考えんでも、お前彼女おらんねやし、大学の友人と遊ぶ思って行ったらいいやん」と言ってくれる。

 そんなヤマに続けミヤも「そうそう。散々言っててあれやけど、まだお前に気があるって分かったわけやないしな。気楽に行ってきいや、菖蒲、お笑い好きやろ?」と言ってくれる。


 そんな2人の言葉に、それもそうか。と思う。

 そして、普通に同い年の女の子と遊んだりすれば、また気持ちが変わるかもしれない。


 そう思い僕は鈴宮さんき「何時に行けばいいかな?」とラインを送る。

 すると、すぐに既読はつけられ「朝10時に駅前で待ち合わせはどう?」と来たので、僕は「分かった」と送り、鈴宮さんと遊びに行く事が決まった。







 10時になる10分前。僕は付けていた腕時計で確認すると、少し早く着いちゃったな、と思いながら落ち着かないので、深呼吸をする。

 親しい女の子の友人は普通にいるし、出かけたりしたこともあるが、何故か鈴宮さんと出かけるとなるとこんなに落ち着かないんだろう。


 まぁ、そこまで親しいってわけじゃないからかな。

 僕は鈴宮さんとは、何度か課題で同じ班だったことはあったが、それ以外接点はなかった。


 なので当然、話したこともあまりないので、そんな人と2人きりでお笑いを見に行くとなると、緊張もする。

 1人、歩く人たちを眺めていた時「白井くん!」と呼ぶ声が聞こえてくる。


 見なくてもその声の持ち主は分かり、僕は「鈴宮さん」と声をかける。



 「おはよう。もう待ってるって思わんくて、遅くなっちゃったね。ごめんな」



 そう謝る鈴宮さんに僕は「そんな事ないよ。僕も今さっき着いたばかりだし」と返す。

 鈴宮さんは「よかった」と言って、前髪を整え笑顔を見せる。


 心なしか、いつもよりオシャレをしている気がして見えるのは、昨日、ヤマやミヤが鈴宮さんが僕に気があると言ったからだろう。

 僕は自惚れるなよと、自分に釘を刺し、鈴宮さんに「電車に乗るんだよね?」と聞くと、鈴宮さんは頷き、僕たちは駅へと歩いて行く。



 「――でも驚いたよ。まさか鈴宮さんがお笑いのライブに誘ってくれるなんて」



 電車に乗り込み、目的地へと向かう中、隣に座る鈴宮さんにそう言うと「鈴宮さんもよくお笑いライブとかに行ったりするの?」と問いかける。

 すると鈴宮さんは「初めてやで」と言うので、じゃあどうしていきなりお笑いライブに? と不思議に思っていると、鈴宮さんは僕の考えを見透かしたかのように言う。



 「山下やましたくんに、白井くんはお笑いがめっちゃ好きって聞いてん。よくお笑いライブにも行ってるみたいやって」

 「やから白井くんのこと誘ってん」



 いつの間にヤマとそんな話をしたんだと思いながらも「へぇ……チケットは貰ったの?」と聞くと、鈴宮さんは「ううん。白井くんがお笑い好きやって聞いたから取ってみてん」と言う。

 僕はその言葉に固まる。


 今の……僕がお笑い好きだから、わざわざそのために取ってくれたって言う風に聞こえたけど……いや、いやいやいや。

 流石に自意識過剰だよな。


 僕は「そ、そうだったんだ。僕のためにありがとう」と返すと、鈴宮さんは数秒間を開け「白井くんが好きな芸人が出たらいいけど」と笑う。

 今、数秒間があった……何か言ったほうがいいのかな。


 僕は「あの……!」と鈴宮さんに声をかけようとすると、どうやら目的地に着いたらしく「ついたで、白井くん」と鈴宮さんは立ち上がるので「あ、うん……」と僕も立ち上がる。

 と、にかく、せっかく鈴宮さんが僕のためにチケットを取ってくれたんだ。


 ちゃんと楽しまないと。


 僕がそう切り替えていると、鈴宮さんが「えらい気合入ってんなぁ。そんなにお笑い好きなん?」と可笑しそうに笑う。



 それから約二時間、ライブは終わった。

 お笑いライブは駆け出し中の芸人を中心としたライブで、サプライズゲストにおおきに倶楽部が出てき、唐突の推しに僕は、隣に鈴宮さんがいることも忘れ楽しみ倒してしまったのだった。



 「――面白かった……! まさか最後におおきに倶楽部が出てくるなんて……!」



 おおきに倶楽部だけではなく、他の芸人のネタも面白く、とても満足がいくライブだった。

 はしゃぐ僕を見て鈴宮さんは「白井くんが楽しんでくれたみたいでよかった。めっちゃいい顔してんで」と言う。


 その時、初めて晴臣さんとおおきに倶楽部のライブを見に行った時のことを思い出し、僕は出てくるなと頭を振る。

 そして鈴宮さんに「なんか、僕ばっかり楽しんじゃったね。鈴宮さんは楽しめた?」と聞くと、鈴宮さんは「うち、芸人さんのライブ初めてやってんけど……」と言うと、とても凛々しい顔をして言う。



 「めっちゃハマりそう」



 その言葉に僕は「でしょ!!」と思わず前のめりになってしまう。

 そんな僕に驚く鈴宮さんに気づき、僕は一つ咳払いすると、鈴宮さんはクスクスと笑い「ほんま、白井くんはお笑いの事になると面白いなぁ」と言う。


 僕は恥ずかしくなり「ちょ、ちょっとお腹すかない?」と話題を変える。



 「確かに、ちょっと減ったかも。めっちゃ笑ったからかなぁ」

 「え、笑ったらお腹空くの?」

 「多分。お腹動かすから、カラオケの後とかお腹すかん?」



 鈴宮さんの言葉に僕は確かに……と、カラオケもそうだけど、お笑い見に行った後はやたらと小腹が空くなと思う。

 そう考えていると、鈴宮さんが「この近くに喫茶店あるみたいやしそこ行く? そこよく、駆け出し中の芸人さんも通ってるって有名らしいで」と提案してくれ、僕は「じゃあそこ行こう」と頷く。



 「めっちゃ雰囲気あるとこやな」



 僕と鈴宮さんは、鈴宮さんが提案してくれた喫茶店へとやって来ていた。

 そこはトミーによく似た昔ながらの喫茶店で、凄く居心地が良く、鈴宮さんの言葉に「そうだね」と頷く。


 僕と鈴宮さんはショートケーキとコーヒーを頼み、ライブの感想や、互いの友人たちのことを話し合う。



 「でも、本当に今日はありがとうね。ライブに誘ってくれて、凄く楽しかったよ」



 晴臣さんと何度かライブに行って思ったけど、やっぱり誰かと行くライブも楽しいな。

 なんて思っていると、鈴宮さんは少し黙り「……白井くんって彼女おるん?」と聞いてくる。


 あまりにも突然の事で僕は思わず「え、」と大きな声を出してしまう。

 周りの人が何事かとこちらを見、僕は気まずくなる。


 そんな僕に鈴宮さんは「薄々気づいてると思うけど、うち、白井くんの事いいなって思ってんねん」とこれまた驚くことを言うので、僕は戸惑ってしまう。

 確かに、今日一緒に過ごして、何となくそうかなとは思ったけれど、まさかこんな急に面と向かって言われるとは……。



 反応に困る僕に鈴宮さんは「ごめんな、困らせるつもりはなかってんけど、ただ知っててほしくって。今すぐ返事が欲しいとかじゃないから」と眉を下げ笑う。

 そんな鈴宮さんを見て、僕は「謝らないで……伝えてくれてありがとう」と返すことしかできなかった。


 鈴宮さんは「ほんま白井くんは優しいな」と言ってケーキを一口食べる。

 そんな鈴宮さんを見て僕は思う。


 今日、鈴宮さんと一緒に過ごして凄く楽しかったし、気さくで飾らないから僕も楽だった。

 それにわざわざ僕のために、興味ないお笑いのライブのチケットを取ってくれ、僕が好きそうな喫茶店まで探していてくれて。


 凄く僕のことを考えてくれていて、ありがたいし、僕ももっと鈴宮さんの事を知りたいと思った。

 このまま鈴宮さんと過ごしたら、もしかしたら恋人になる時も来るのかもしれない。


 けれど今もずっと、僕の頭の片隅にはずっとあの人がおり、他の誰かと過ごしていても、ふと考えてしまう。



 鈴宮さんが「この後、どうする? まだ時間あるけど……」と言うので、僕は「鈴宮さんがいいならどこか――」と言いかけた時だった。

 カランカランッ――とドアベルの音が鳴ったかと思えば、店内に2人組の男性が入ってくる。


 2人ともスーツを着ており、その1人はよく見知った人で。

 僕は開いた口が塞がらなかった。


 そんな僕に「白井くん? どうしたん?」と鈴宮さんが聞いてくるも、僕はその人物に驚き何も返せなかった。


 な、何で晴臣さんがここに……!?


 そう。店内に入って来たのは、1人の見るからにカタギではない男性と晴臣さんだったのだ。

 やばい。そう思ったのも束の間、晴臣さんと目が合い、僕は思い切り目を逸らしてしまう。


 そんな僕に鈴宮さんが「どうしたん? 挙動がおかしいで」と言うので、僕は「だ、大丈夫……」と言い、晴臣さんの方に少し視線を向ける。

 めっっっちゃ見てる……!!


 すると、晴臣さんたちは店員さんに案内され席までやって来たのだ、全くついていない。

 晴臣さんたちが案内されたのは、僕たちの通路挟んで隣の席で、僕から晴臣さんの顔が見えてしまう。


 すっごくデジャヴ……。

 なんて思いながら、僕は最悪だ……と晴臣さんから視線を逸らすのだった。
 
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