交わることのない二人

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どうしたいか

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 「え? 鈴宮さんと付き合ってないん?」



 夏の終わりが近づく中、大学の食堂で昼食をとっている最中、向かい側に座るヤマがラーメンの麺を持ち上げた状態で驚いたようにそう言ってくる。


 僕は食べていたご飯を飲み込み「……うん」と頷く。

 そんな僕にヤマは「信じられへん……あんなに遊びに行ってんのに。」と言うと、豪快に麺を啜る。


 その横でミヤが「あんま言うたりなや。いくら菖蒲が相手が自分に好意を持ってるの分かってて、曖昧な関係のまま頻繁に遊びに行くクソ野郎やからって、菖蒲も傷つくやろ」と言って、カレーを食べる。



 「お前のほうが酷いで」

 「だってほんまのことやん。まぁ、鈴宮さんがそれでもいいからって言うてるらしいけど」



 辛辣なミヤに僕は何も言い返すことができない。

 鈴宮さんとお笑いを見に行き、晴臣さんと会わないと決め、僕は鈴宮さんにはっきりと自分の気持ちを伝えた。


 曖昧なままで居る事はやっぱり、鈴宮さんに失礼だから。

 だが、鈴宮さんは「分かった」と言ったものの、もっと知ってもらうために、お笑いライブに行くのに付き合ってと言われたのだ。

 僕は流石にそれは、申し訳ないと断ったのだが、鈴宮さんは「気持ちが変わることだってあるやろ? 一緒に過ごしてるうちに」と言うとそれに……と続けすごく真剣な表情で「白井くんが、うちをお笑いの沼に落として来たんや。うちが慣れるまで付き合うてもらうで」と言うので、僕は定期的に鈴宮さんとお笑いを見に行っているのだ。


 自分でも、振った相手とお笑いを定期的に見に行くなんて、よくないとは思うのだが、断り過ぎるのも申し訳なく、気づいたら今の関係になっていた。



 晴臣さんのことも曖昧だし、鈴宮さんとも。

 僕は「やっぱり……クソ野郎だよね」と言うと、ミヤは「クソやクソ。このタラシ!」と言い、ヤマは「お前それ言いたいだけやろ」とつっこんでいる。


 「そう、だよね……」と言う僕を見て、ヤマは「あーほら、落ち込んじゃったやん! ごめんなさいは?」と言うと、ミヤは「菖蒲くん、ごめんね。でもやっぱりクソやと思う」とさほど悪気がなさそうに謝ってくる。

 そしてふざけ出す2人。だが今の僕はつっこむ気力も起きず、ため息をつく。



 晴臣さんと会わなくなれば、悩まずに済むかと思ったのに、会わなくなったらなったでずっと晴臣さんのことを考えてしまうし。

 そんな状況で、いくら鈴宮さんが良いと言ったからって、仮にも僕に好意を持ってくれている鈴宮さんと遊びに行くのはやはり、失礼だ。


 次、会うときにはっきりさせなければ。

 その日から日にちは経ち、その日、鈴宮さんとお笑いを見に行く約束をしていたので、僕は待ち合わせの場所へと行き、鈴宮さんと一緒にお笑いを楽しんだ。


 そして、鈴宮さんが行きたい場所があると行ったので、そこに行くことにしたのだが。



 「ここ……」



 その場所に僕はすごく見覚えがあった。

 何故ならそこは、晴臣さんとスイーツを食べに行くきっかけとなったパンケーキ屋だったから。


 そのパンケーキ屋は劇場から近い場所にあり、僕はこんなに近かったんだ……と思っていると、鈴宮さんが「白井くん。入ろ」と声をかけてくる。

 僕は頷き、店の中に入る。


 お店の中は、晴臣さんと来た時と同じでSNS映えしそうな雰囲気が漂い、女の子達が好きそうな可愛らしい空間が広がっていた。

 その日も見渡す限り、女性のお客さんしかおらず、改めてよく男2人で入ったよな、と思う。


 店内を見渡しそう懐かしんでいると、鈴宮さんがメニューを見ながら「白井くんは何にする?」と聞いてくる。

 その声にハッとし、慌ててメニューを見る。


 だめだ。今は鈴宮さんと来ているのに、晴臣さんの事ばかり……集中しないと。

 僕はそう考えながら、メニューを見ていると、鈴宮さんが「見て! このパンケーキ、アイス乗ってるって!」と嬉しそうに言ってくる。


 その瞬間、あの日の晴臣さんと重なり、僕は驚く。

 そんな僕に気づいた鈴宮さんが「どうしたん?」と聞いてき、僕は「いや……そうだね」とぎこちなく返してしまう。


 あの日の晴臣さんも、パンケーキにアイスが乗ってあるのを見て、嬉しそうにしていたっけ……。

 気づくと、また晴臣さんの事を考えている自分に気づき、僕は可笑しくなってしまう。


 自分からしばらく会わないでくださいって言ったのに、本当に何がしたいんだろ。

 それから僕と鈴宮さんはパンケーキを頼むと、今日見たお笑いライブの感想を言い合いながら、パンケーキを食べた。



 「――パンケーキ屋まで付き合ってくれてありがとう。白井くん」



 パンケーキを食べ終えた僕たちは、最寄りの駅に戻ってき、帰路を歩いていた。

 隣を歩く鈴宮さんはそうお礼を言うと「白井くんとパンケーキよう似合ってたわ~」と楽しそうに言う。


 そんな鈴宮さんを見て僕は、言うなら今しかないと思い、歩いていた足を止める。

 僕が足を止めたことに気づいた鈴宮さんは、二、三歩歩いたところで立ち止まり、振り返る。


 「白井くん?」と声をかけてくる鈴宮さんに、僕は「……鈴宮さん。話したいことがあるんだ」と言うと、鈴宮さんは一瞬、驚いた表情を浮かべるも直ぐに「……公園行って話そ」と言う。

 僕は鈴宮さんが良いならと頷き、近くの公園に移動し、ベンチに並んで腰掛ける。



 「それで、話って?」



 座って直ぐに、鈴宮さんは僕にそう問いかけてくる。

 僕は鈴宮さんを見て「……一緒にお笑いライブに行ったりするの、今日で終わりにしたいんだ」と言う。


 僕の言葉を聞いた鈴宮さんは、驚いた表情を浮かべるも、直ぐに視線は逸らされ「って事はやっぱり脈なしって事やんな」と言う。

 僕は「……ごめん」と返すと、鈴宮さんは「そんな気してた」と笑う。


 そして、鈴宮さんは「まぁうちに全然興味なさそうなとこを好きになったんやけど」と言うので、僕は「え……?」と聞き返す。

 鈴宮さんは「白井くんのこと好きになった理由な」と言うと、懐かしそうに話し始める。



 「一年の学祭の打ち上げの時、初めてちゃんと白井くんとは話してんけど、その時、白井くんと会話した内容何やったと思う?」



 一年の学祭の打ち上げの時……? 全く記憶にない僕は「ご、ごめん……何話したっけ……?」と聞くと、鈴宮さんは「ごめん、トング取ってくれる?」と言う。

 鈴宮さんの言葉に僕は、え……それは会話、なのか? などと困惑していると、鈴宮さんは眉を下げ笑い「面白いよな。二時間くらい打ち上げはあってんけど、白井くんとした会話はたったそれだけやってん」と言うのだ。


 確かに、鈴宮さんと会話した記憶はないけど、流石に会話しなさすぎではないか……?

 そう考える僕に鈴宮さんは「そこでうちは白井くんのこと気になってん」と言うので、僕は思わず「今ので?」と返してしまう。


 「友達にも同じこと言われたわ」と笑う鈴宮さん。



 「でも、うちからしたらそこが良かってん。参加してた男子がほとんどうちと会話しようと必死になってた中で、白井くんだけがうちに全然興味ないみたいな態度で……。そんなん初めてやったから新鮮で面白かってん」

 「それから何回か白井くんと話してくうちに、白井くんの人柄に惹かれて行って、今に至るってわけ」



 鈴宮さんはそう言うと「直接本人に言うの恥ずかしいなぁ」と笑う。

 当然だが、初めて聞いた鈴宮さんが僕の事を好きになった理由。


 そんなに前から思っていてくれていたなんて。

 そう思っていると、鈴宮さんは「多分やけど、白井くん好きな人がおるんやろ?」と言ってき、僕は思わず「えっ……」と驚いてしまう。


 そして「えっと……」と返事に困っていると「見てたら分かるで」と鈴宮さんは言う。



 「その人に想いは伝えたん?」

 「いや……まだ……」

 「何で?」



 そうぐいぐい質問してくる鈴宮さんに、戸惑いながらも、仮にも好意を寄せてくれている鈴宮さんに話しても良いのかと思っていると、それを察したのか「あ、うちのことは気にしんといて。振られてるねんから、何聞こうが痛くも痒くもないで」と笑う。


 ずっと思っていたけど、鈴宮さんって結構さっぱりしてるよな……なんか、雰囲気が晴臣さんに似てる気がする。

 なんて考えながら「その……色々あって、今、会ってなくて。それに……周りに反対される? と言うか……」となんて言えば良いか分からず、曖昧に答える。


 そんな僕の話を聞いた鈴宮さんは「禁断の恋ってやつか~……うちやったら、むしろ燃えるけど」と頰に手を当て言う。

 やっぱり鈴宮さんは強いなと、眉を下げ笑うと「まぁ、ヤクザが相手ってなったら、そう簡単な話ちゃうわなぁ」と鈴宮さんが言うので、僕は驚きすぎて目玉が飛び出るかと思った。


 「えっ、何で……?」と驚く僕に、鈴宮さんは「さっきも言ったやん。見てたら分かるって。好きな人が誰に恋してるかくらい見たら分かるよ」と言う。

 そ、そう言うものなのか……? と頷く僕に、鈴宮さんは「この前会った男の人やんな?」と聞いてくる。



 「確かにええ男やった……白井くんには負けるけど」

 「あっはは……」

 「でも、まぁ難しいわなぁ。うちやったら、いくら燃える言うてもヤクザは…………いや、うちやったら行くわ」



 そう真顔で言う鈴宮さんに、僕は「行きそう」と頷く。

 そして、鈴宮さんは「まぁ、色々考えなあかんねんやろうけど、結局は白井くんがどうしたいかやろ」と言う。



 「僕がどうしたいか?」

 「そう。白井くんの人生やねんから、他人がどうやなくて、自分がどうしたいって考えな。何かあっても他人は助けてくれへんねやから、どうせ助けてくれへんねやったら、好きな生き方した方がいいやん」



 鈴宮さんはそう言うと、スマホを見て「あ、やば! もうこんな時間やん! 今日、お笑いやるやろ? 早よ帰らな!」と立ち上がる。

 僕も立ち上がり「送るよ」と言うも、鈴宮さんは「あかん! 白井くん見逃すで! 送るのは大丈夫やから」と言う。


 まだ明るいが、心配なので家に着いたら連絡をしてと言い、鈴宮さんとは別れた。

 1人、帰路につき、先ほど鈴宮さんが言っていた言葉を思い出す。



 結局は僕がどうしたいか……。

 家族のこととかを考えれば、晴臣さんとはこのまま会わない方がいい。


 けれど、それを抜きに考えた時、僕は……晴臣さんとどうなりたいんだろう。

 ずっと、晴臣さんと一緒に過ごせるだけでよかった。

 そして、いつか来るであろう別れまで、好きでいようと思っていた。


 だけど今、その別れが前まで来ているが、僕はどうしたいのか分からない。と言うか、決断ができない。

 一体、どうすればいいんだろう。


 そう頭でぐるぐる考えている今も、心の中ではずっと、晴臣さんに会いたいと言う思いで溢れていた。
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