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(幕間) 雷鳴 〇一
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なろう版ランクイン記念の幕間エピソードです。
元々プロットから落としてた話なのですが、読んでいただけますと幸いです。
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——森の中を走る黒い影があった。
漆黒の毛皮を靡かせ、風のような速さで薄暗い木々の間をすり抜けていく……赤い眼は見る者に恐怖を感じさせるような強者の光があり、その姿を見た者達は恐怖で動けなくなる者もいるに違いない。
……ガルム、この世界マルヴァースにおいて知識を探求し放浪する魔獣とも恐れられる巨大な狼型の幻獣が疾走を続けている。
その眼が捉えている獲物が森の木々の中を必死に逃げ惑うのを見て幻獣ガルムの口元が歪み、全力疾走を続ける口元から荒い息が漏れ出す。
心が躍る、そして獲物が必死に方向転換を繰り返すが、その度にガルムは相手の動きを先読みして彼が元々追い立てていた方向へと無理矢理に追い込んでいく。
踊れ、踊れ……我が獲物を待つ主人の元へ、愛する契約者の前へと引き摺り出すのだ、そして……。
「……出ますよッ!」
視界が一気に開け、ガルムの追い立てていた獲物が広場へと飛び出した。
その獲物とは、この世界では割とメジャーな存在である一角兎と呼ばれる純白の魔獣だった……額に一角の角を持ち純白の毛皮をもつ大人しい草食動物だ。
ただこの魔獣、農作物を荒らすために害獣に指定されることがあることでも知られており、貴族の狩猟対象としても人気の獲物となっていて、狩猟数を競う競技もこの世界では存在している。
ちなみに角は形などにもよるが、磨いて美術品の一部として使用されるほか砕いて薬の材料としても使われており「一角兎に捨てる場所なし」という言葉があるくらい人気の魔獣でもある。
「……上手よユル、勢子としてなら満点ですわ」
一角兎の首が音もなく断ち切られる……一瞬遅れて赤い血が地面へと舞うが、魔獣はそのままの勢いで地面へと滑りながら倒れ、まだ逃げようとする意思があるかのように足が必死に動こうとしている。
魔獣を切り伏せたのは銀色の髪を靡かせ、エメラルドグリーンの瞳を輝かせる美しい少女……この地を治める大領主、インテリペリ辺境伯家の末子、辺境の翡翠姫シャルロッタ・インテリペリその人だった。
彼女の手には美しく輝く小剣が握られているが、刃先には全くと言っていいほど血が付着していない、そのことからもこの少女が見た目の年齢とはかけ離れた凄まじい技術を持っていることがわかる。
「んふふ、我は故郷の幻獣界でも追い立てる役目をしておりましたからな、こういうのは得意なのですぞ」
「えらいえらーい、お父様たちですと魔導銃や弓矢で狩るのだけど……これしかないしねえ……」
シャルロッタはふらふらと手に持った小剣を軽々と振ってから腰につけた鞘へと納め、尻尾を振っているユルの頭を優しく撫でるが……恐ろしい姿をした魔獣は気持ちよさそうな顔で口元を緩ませる。
今彼らがいるのはインテリペリ伯爵領の領都であるエスタデル郊外にある小さな森の中、秘密の場所にいる……ここはシャルロッタが見つけた場所で、あまり人が立ち入らないことから彼女が自分の能力を把握するための実験場として使用している場所でもある。
ただ、普段では考えられないくらい一角兎の数が少ない……まるで何かから隠れるかのように、この森の中から不自然なほど魔獣の数が減っていたのだが、ユルやシャルロッタがいるせいかもしれないと考えて、思考を切り替える。
「さ、シャル……我は少し小腹が空いたので早速肉をですね……」
「……一生懸命走っていると思ったらそういうことか……処理するから待ちなさい」
シャルロッタはようやく動かなくなった一角兎の体を持ち上げると、足に縄を巻いてから近くの枝を使って逆さまに吊り下げる。
首を切ってしまったためにポタポタと血が滴り落ちるが、各部に切れ込みを入れてから一気に皮を引っ張って剥がすと毛皮を別の枝へと放って載せ、小剣をもう一度手にとって一角兎の腹を切り裂いた。
下処理が進んでいく獲物を興味深そうに眺めながらユルは敬愛する主人へと話しかける。
「随分手慣れておりますな……キゾクレイジョウというのはそういうことも勉強するのですか?」
「こんなの貴族はしませんわ……これは前世でやってたから体が覚えてるだけ、趣味で覚える人はいるだろうけど……普通は嫌がる、と思いますわ」
シャルロッタは表情を変えずに一角兎の処理を進めていくが、躊躇うこともなく残った臓物を丁寧に刃先でより分けると一部の臓器を手に取り、残りには魔法で火を起こして焼却していく。
ユルにとっては貴族令嬢という身分自体が理解しにくいものであり、契約者であるシャルロッタの行動や考え方が普通ではないというのが俄かには信じ難いものがあるのだ。
「肝臓は薬の原料になるとかで持って帰って乾燥させるわ、肉は焼いて食べてしまいましょうか」
「焼くのですな! ま、待ちきれませんぞ……」
「食いしん坊ねえ……まあ、そういうところが犬っぽいけど……ちょっと待ってくださいましね」
口の中で何かを唱えたかと思うと、ふわりと優しい風が辺りを舞うように吹く……その風に合わせてあたりに落ちていた枝が独りでに彼女の目の前へと集まっていくと次の瞬間、いきなりボッ! という音と共に火が着く。
魔法を生活の一部に使う魔法使いもいないわけではないが、それでも通常は戦争中の兵士や強力な攻撃手段としての運用が行われる場合が多く、ユルが今まで見た魔法使いとしてはかなり珍しい部類に入る。
シャルロッタがそのまま小剣に肉を突き刺すと、焚き火を使って肉を炙り始める……香ばしい香りと、脂が滴り落ちるのを見て思わずゴクリと喉が鳴ってしまう。
「焼く、というのは実に興味深いです……我々はそういう食べ方をしませんからな」
「人間だけじゃないけど、加工されていない生肉を食べるのは危険なのですわ……散々注意されたけど飢えに耐えきれずに齧り付いて、何度かお腹を壊したのですよねえ……」
「それは前世のお話ですか?」
「……そう、勇者として覚醒する前は農民だったから……貧乏だったんですわよ、わたくし」
シャルロッタの眼がほんの少しだけ物憂げな光を帯びるのを見て、ユルは意外なものを見ている気分になった。
今の彼女は望めばなんでも手に入る立場……影の中から見ていてもこの小さな少女に傅く大人は多い、侍女頭であるマーサも彼女より年上であり、そのほかの侍女たちも年配の女性が多い。
彼女の家族はこの土地を支配する貴族であり、数多くの大人たちがひれ伏す身分であると説明されている……だが、時折この少女が見せる表情は貴族らしくない、どこか影のあるもののようにも見える。
「今では考えられませんな」
「毎日畑を耕して……土まみれになって、それでも食べるものが少ないからいつもお腹を鳴らしていてね……その前の記憶があるから辛い時期もあったわ」
「その前の記憶?」
「あ、ああ……こっちの話ですわ、そろそろ食べられるのではなくて?」
少し焦げ目がついた兎肉を眺めるとにっこりと笑ってからユルへと放る……空中に浮かぶその肉を一口で頬張ると口の中で軽く咀嚼してみて、染み出す肉汁に思わず体が震えそうになる。
運動した後の肉は格別……一角兎の肉は生でしか食したことがないのに、シャルと契約してから様々な方法で味付けで食べるようになり、これは幻獣界にいる仲間にも教えてあげたいと思ってしまう。
「美味しいですなあ……生で食べる肉も良いのですが、これはもうなんというか別物の味です」
「満足したならよかったですわ、そろそろ部屋に戻りましょうか」
「病気になっているはずなのに出歩いていたら怪しまれますものね……」
お互い顔を見合わせてから微笑んで頷くと、シャルロッタがふわりとユルの背中へと飛び乗ると、まるで疾風のように森の中を駆け抜ける。
令嬢として生きているシャルロッタにとって自由に外を出歩くことはかなり難しい……調子が悪いと言って寝ているはずのシャルロッタが身を隠して郊外を出歩いていることがバレてしまったら、自由に動くことが難しくなってしまうだろう。
だがユルは森の中を疾走しながらある匂いを感知したことで、渋々ながらも背に載るシャルロッタへと話しかける。
「……シャル、嫌な匂いがします……放っておくと面倒なことになりそうでして、立ち寄りませんか?」
元々プロットから落としてた話なのですが、読んでいただけますと幸いです。
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——森の中を走る黒い影があった。
漆黒の毛皮を靡かせ、風のような速さで薄暗い木々の間をすり抜けていく……赤い眼は見る者に恐怖を感じさせるような強者の光があり、その姿を見た者達は恐怖で動けなくなる者もいるに違いない。
……ガルム、この世界マルヴァースにおいて知識を探求し放浪する魔獣とも恐れられる巨大な狼型の幻獣が疾走を続けている。
その眼が捉えている獲物が森の木々の中を必死に逃げ惑うのを見て幻獣ガルムの口元が歪み、全力疾走を続ける口元から荒い息が漏れ出す。
心が躍る、そして獲物が必死に方向転換を繰り返すが、その度にガルムは相手の動きを先読みして彼が元々追い立てていた方向へと無理矢理に追い込んでいく。
踊れ、踊れ……我が獲物を待つ主人の元へ、愛する契約者の前へと引き摺り出すのだ、そして……。
「……出ますよッ!」
視界が一気に開け、ガルムの追い立てていた獲物が広場へと飛び出した。
その獲物とは、この世界では割とメジャーな存在である一角兎と呼ばれる純白の魔獣だった……額に一角の角を持ち純白の毛皮をもつ大人しい草食動物だ。
ただこの魔獣、農作物を荒らすために害獣に指定されることがあることでも知られており、貴族の狩猟対象としても人気の獲物となっていて、狩猟数を競う競技もこの世界では存在している。
ちなみに角は形などにもよるが、磨いて美術品の一部として使用されるほか砕いて薬の材料としても使われており「一角兎に捨てる場所なし」という言葉があるくらい人気の魔獣でもある。
「……上手よユル、勢子としてなら満点ですわ」
一角兎の首が音もなく断ち切られる……一瞬遅れて赤い血が地面へと舞うが、魔獣はそのままの勢いで地面へと滑りながら倒れ、まだ逃げようとする意思があるかのように足が必死に動こうとしている。
魔獣を切り伏せたのは銀色の髪を靡かせ、エメラルドグリーンの瞳を輝かせる美しい少女……この地を治める大領主、インテリペリ辺境伯家の末子、辺境の翡翠姫シャルロッタ・インテリペリその人だった。
彼女の手には美しく輝く小剣が握られているが、刃先には全くと言っていいほど血が付着していない、そのことからもこの少女が見た目の年齢とはかけ離れた凄まじい技術を持っていることがわかる。
「んふふ、我は故郷の幻獣界でも追い立てる役目をしておりましたからな、こういうのは得意なのですぞ」
「えらいえらーい、お父様たちですと魔導銃や弓矢で狩るのだけど……これしかないしねえ……」
シャルロッタはふらふらと手に持った小剣を軽々と振ってから腰につけた鞘へと納め、尻尾を振っているユルの頭を優しく撫でるが……恐ろしい姿をした魔獣は気持ちよさそうな顔で口元を緩ませる。
今彼らがいるのはインテリペリ伯爵領の領都であるエスタデル郊外にある小さな森の中、秘密の場所にいる……ここはシャルロッタが見つけた場所で、あまり人が立ち入らないことから彼女が自分の能力を把握するための実験場として使用している場所でもある。
ただ、普段では考えられないくらい一角兎の数が少ない……まるで何かから隠れるかのように、この森の中から不自然なほど魔獣の数が減っていたのだが、ユルやシャルロッタがいるせいかもしれないと考えて、思考を切り替える。
「さ、シャル……我は少し小腹が空いたので早速肉をですね……」
「……一生懸命走っていると思ったらそういうことか……処理するから待ちなさい」
シャルロッタはようやく動かなくなった一角兎の体を持ち上げると、足に縄を巻いてから近くの枝を使って逆さまに吊り下げる。
首を切ってしまったためにポタポタと血が滴り落ちるが、各部に切れ込みを入れてから一気に皮を引っ張って剥がすと毛皮を別の枝へと放って載せ、小剣をもう一度手にとって一角兎の腹を切り裂いた。
下処理が進んでいく獲物を興味深そうに眺めながらユルは敬愛する主人へと話しかける。
「随分手慣れておりますな……キゾクレイジョウというのはそういうことも勉強するのですか?」
「こんなの貴族はしませんわ……これは前世でやってたから体が覚えてるだけ、趣味で覚える人はいるだろうけど……普通は嫌がる、と思いますわ」
シャルロッタは表情を変えずに一角兎の処理を進めていくが、躊躇うこともなく残った臓物を丁寧に刃先でより分けると一部の臓器を手に取り、残りには魔法で火を起こして焼却していく。
ユルにとっては貴族令嬢という身分自体が理解しにくいものであり、契約者であるシャルロッタの行動や考え方が普通ではないというのが俄かには信じ難いものがあるのだ。
「肝臓は薬の原料になるとかで持って帰って乾燥させるわ、肉は焼いて食べてしまいましょうか」
「焼くのですな! ま、待ちきれませんぞ……」
「食いしん坊ねえ……まあ、そういうところが犬っぽいけど……ちょっと待ってくださいましね」
口の中で何かを唱えたかと思うと、ふわりと優しい風が辺りを舞うように吹く……その風に合わせてあたりに落ちていた枝が独りでに彼女の目の前へと集まっていくと次の瞬間、いきなりボッ! という音と共に火が着く。
魔法を生活の一部に使う魔法使いもいないわけではないが、それでも通常は戦争中の兵士や強力な攻撃手段としての運用が行われる場合が多く、ユルが今まで見た魔法使いとしてはかなり珍しい部類に入る。
シャルロッタがそのまま小剣に肉を突き刺すと、焚き火を使って肉を炙り始める……香ばしい香りと、脂が滴り落ちるのを見て思わずゴクリと喉が鳴ってしまう。
「焼く、というのは実に興味深いです……我々はそういう食べ方をしませんからな」
「人間だけじゃないけど、加工されていない生肉を食べるのは危険なのですわ……散々注意されたけど飢えに耐えきれずに齧り付いて、何度かお腹を壊したのですよねえ……」
「それは前世のお話ですか?」
「……そう、勇者として覚醒する前は農民だったから……貧乏だったんですわよ、わたくし」
シャルロッタの眼がほんの少しだけ物憂げな光を帯びるのを見て、ユルは意外なものを見ている気分になった。
今の彼女は望めばなんでも手に入る立場……影の中から見ていてもこの小さな少女に傅く大人は多い、侍女頭であるマーサも彼女より年上であり、そのほかの侍女たちも年配の女性が多い。
彼女の家族はこの土地を支配する貴族であり、数多くの大人たちがひれ伏す身分であると説明されている……だが、時折この少女が見せる表情は貴族らしくない、どこか影のあるもののようにも見える。
「今では考えられませんな」
「毎日畑を耕して……土まみれになって、それでも食べるものが少ないからいつもお腹を鳴らしていてね……その前の記憶があるから辛い時期もあったわ」
「その前の記憶?」
「あ、ああ……こっちの話ですわ、そろそろ食べられるのではなくて?」
少し焦げ目がついた兎肉を眺めるとにっこりと笑ってからユルへと放る……空中に浮かぶその肉を一口で頬張ると口の中で軽く咀嚼してみて、染み出す肉汁に思わず体が震えそうになる。
運動した後の肉は格別……一角兎の肉は生でしか食したことがないのに、シャルと契約してから様々な方法で味付けで食べるようになり、これは幻獣界にいる仲間にも教えてあげたいと思ってしまう。
「美味しいですなあ……生で食べる肉も良いのですが、これはもうなんというか別物の味です」
「満足したならよかったですわ、そろそろ部屋に戻りましょうか」
「病気になっているはずなのに出歩いていたら怪しまれますものね……」
お互い顔を見合わせてから微笑んで頷くと、シャルロッタがふわりとユルの背中へと飛び乗ると、まるで疾風のように森の中を駆け抜ける。
令嬢として生きているシャルロッタにとって自由に外を出歩くことはかなり難しい……調子が悪いと言って寝ているはずのシャルロッタが身を隠して郊外を出歩いていることがバレてしまったら、自由に動くことが難しくなってしまうだろう。
だがユルは森の中を疾走しながらある匂いを感知したことで、渋々ながらも背に載るシャルロッタへと話しかける。
「……シャル、嫌な匂いがします……放っておくと面倒なことになりそうでして、立ち寄りませんか?」
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