わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

文字の大きさ
27 / 430

第二三話 シャルロッタ・インテリペリ 一三歳 一三

しおりを挟む
 ——ガタゴトと列車に揺られ、わたくしはお父様と一緒に王都へと向かっている。

「……はあ……憂鬱……婚約かあ……」
 列車、そう……わたくしは列車に乗っているのだ……剣と魔法の世界であるはずのマルヴァースにおいても実は数が少ないながらも原始的な機械が存在している。
 転生前に魔導機関があると女神様が話していたけど、その魔導機関で動く魔導列車はイングウェイ王国の領地内にいくつか敷設されており、インテリペリ辺境伯領と王都の間にも列車は繋がっていて、輸送の一部及び人の行き来については、この魔導列車を経由して行われているのだ。

 魔導列車は魔導機関……つまり魔力を動力とした巨大な機械を使って動かしている、らしい。
 らしいというのも詳しく構造を聞くためには専門的な勉強が必要で、勉強しようと思ったら侍女たちに止められたからだ……「令嬢たるものそんな知識要りませんよ!」と。
 ということで、知識として魔導機関自体があることは知っているが、どういう構造でどうやって動くのか、などの知識はいまいち疎く、どうやって動いてるんだろうなー、と考えている次第だ。

 ちなみに魔導列車は各公爵領、辺境伯(うちともう一家)、そして王都の一部に小型のものが敷設されているのだとかで、合計七本の路線がある。
 本来は国境警備用の兵員輸送に使うために敷設された線路らしいが、イングウェイ王国は軍事的にもかなり強力で、小競り合い以上の戦争はここ二〇〇年近く起きていない。
 そうなってくると別に兵士を送る必要がなくなった線路をどうするのか……で国のお偉方が揉めた結果、輸送と交通の便をよくするための路線にしようとまとまった。

 そこから一般開放された魔導列車は旅行や移動に使用されるようになり、王国内の長距離移動に使用されるようになった歴史がある。
 ただ、料金がそれなりに高額なため、一般の旅人は安価な馬車や馬での移動がメインになっており、貴族の御付きなどでないと魔導列車に乗ることは難しく、今も乗っている乗客はわたくしのような貴族か、裕福な商人だけになっている。
 ところが王都の路線は環状路線で設計されていて、料金がほぼ無料のため庶民が利用できるようになっている反面、貴族は庶民との同席を嫌って王都内では馬車を使うという逆転現象が起きた。

 利用料金を安価にしたのは数代前のイングウェイ王国国王の執政で、「これからの魔導機関は庶民にも慣れ親しむものであってほしい」という狙いがあったそうだが……果たしてその想いは届いたのだろうか?
 どちらにせよあと二年もすれば王都にある王立学園に入学が決定しているわけだし、その時は一度話のネタに環状路線に乗車してみようとは思っている。
「シャルは列車に乗るのは久しぶりだったね、気分は悪く無いかい?」

「前に王都に行った時以来ですわね……大丈夫ですわ、わたくし乗り物で酔ったことがないので……」
 向かいの席に座っているお父様がニコリと微笑む……わたくしは窓の外を見ながら応えるが、その時点でこれからのことを考えると憂鬱にならざるを得ない。
 ここから一週間ほどだが、王都にあるインテリペリ辺境伯家の別邸に寝泊まりしていくつかの夜会、そして今回の目的である王城へと赴き、婚約者であるクリストフェル・マルムスティーン第二王子と面会しなければいけないのだ。

 魔導機関という大層な機械がある癖に、この世界には写真機に相当するものは存在せず、貴族向けの絵師が似顔絵を描いてくれるわけだけど、絵画で見たクリストフェル殿下は非常に男前に描かれているが、本当にこんな顔してんのか? ってくらい美化されているような気がした。
 まあ、実際にあったら無茶苦茶イケメンって可能性もあるけどさ……それでも何で婚約を……むしろ婚約するんだったら王族じゃなくて同じくらいの家格になる侯爵家とか、伯爵家の男性を選ぶのかと思ってたよ。
「そういえばお父様、どうしてクリストフェル殿下……いや王家はわたくしを婚約者にご指名なされたんでしょうか? 他のお家の方も名乗りを上げられていたのでは?」

「……そうだな、本来は侯爵家あたりが良いのでは? とは思っていたのだがね、クリストフェル殿下と国王陛下は辺境の翡翠姫アルキオネと名高いお前の噂を聞いて是非ともと申されてな……」
 あー、つまり誇張されて伝わっている辺境の翡翠姫アルキオネという美名に釣られて、殿下はわたくしを一度見たいと考えたんだな。
 穿った見方であれば辺境の翡翠姫アルキオネって名前も、言い様によっては田舎の小娘って意味も込められているはずなんだよね、王都に呼びつけて「ほら大層な名前の割に大したことねえじゃん」ってやりたい層も一部混ざって誇張しているのだろう。
 領地に篭っていても女性の悪意というのは割と身近にあって、嫉妬などの感情をストレートにぶつけられることもあるから、わたくし個人としては愛称の流布は望んだものでは無いのだ。
「私はシャルがようやく婚約候補となって嬉しいよ……お前は私が保証するが、王都にいるどんな女性よりも美しいと思うぞ」

「……いやですわお父様、わたくし以上の美女如き、王国にはごまんとおりますわよ?」
 とは言ってみるものの、確かに前世基準で考えますとね……わたくしシャルロッタ・インテリペリは今現在でも絶世の美女と評されてもおかしくない容姿ではあるのだ。
 白銀の美しく輝く髪、エメラルドグリーンの瞳に、彫刻のように整った容姿、白磁のように滑らかな肌……一三歳、たった一三歳なのにすでに女性らしい体型であり出るとこ出ており、なんかお尻とか腰のラインについては自分で見ていても惚れ惚れするくらい綺麗だ。
 これもマーサ達が毎日こまめにお手入れをしてくれるおかげではあるが……やだなー、もしこれで見初められましたとでもなったら本当に王族入りが確定してしまう。

 確かにクリストフェル殿下は第二王子で今後王位を継ぐことはほぼ無いとされているけど、ほぼ無いって絶対に無いわけでは無いからな。
 魔物も多く存在しているこの世界では事故で王族が殺されたりするのは割とメジャーなトラブルとも言われ、三年前に出現した悪魔デーモンがどうしてあんなところで油を売っていたのか、とか魔王は本当にいないのか? などの疑問はまだ晴れていないからだ。
 わたくしはお父様に聞こえないように窓の外を眺めながら、そっと呟く。
「……やだなあ……結婚とか他の人に変わって欲しいのに……」



「……王子、クリストフェル殿下……本日にはお見合いの相手が参られるのですぞ……駅まで迎えに行かなくてよろしいのですか?」
 心配そうな顔を浮かべる初老の男性を尻目に、金髪に碧眼のまだ若いが美しい顔をした少年……貴族らしい仕立ての良い衣服に身を包んだクリストフェル・マルムスティーンは書類を確認する手を休めて、初老の男性へと視線を向ける。
 そういえば本日だったか……王族でありながら一三歳になるまで婚姻の話を先延ばしし続けてきたのは理由があり、それは彼自身が女性に対してあまり良い思い出がないという部分に起因する。
「……今回のお見合い相手は、誰なんだっけ?」

「インテリペリ辺境伯のご令嬢、シャルロッタ様です! 何度も申し上げましたのに……」

「ああ、そうだ辺境の翡翠姫アルキオネとか言ったか……貴族の娘なのだから、高慢でわがままな女性なのだろうな……」
 クリストフェルには本来婚約者候補としてハルフォード公爵家の令嬢であるソフィーヤ・ハルフォード嬢が内定していた……だが、残念なことにソフィーヤは絵に描いたような貴族の令嬢であり、本人もその出自を笠にきて我が儘な女性として育っていた。
 そんな彼女に振り回され続けたクリストフェルはほとほと同年代の女性に幻滅しており、一度距離をとって冷静な目で世間を見たいと婚約自体を延期してしまっていた。
 体調が悪く咳が続いているのもあるが、彼自身が女性に興味を持てなくなりつつあり、周りが焦り始めているのだ。
「……殿下、確かにソフィーヤ嬢はその、我が儘でした。ただ全ての女性がそうであるとは限りません、シャルロッタ嬢はインテリペリ家のご領地に住まわれていますが、悪い噂を聞きません」

「ハルフォードの古狸も娘のことは『きちんと躾けてます』って言ってたぞ……それであれなら僕は女性など縁遠い生活で構わない」
 クリストフェルの古い傷を思い切り抉ったと気がついて、初老の男性……王子の執事を務めるマチュー・エランデルは困った顔で黙り込む。
 ソフィーヤ……ハルフォード公爵令嬢は周りから見てもとても我儘で、調子が悪いから休ませてくれと頼むクリストフェルの部屋に押しかける、使用人の態度が気に食わないと平気で鉄拳制裁を行う……などなど行動に問題がありすぎた。

 決定的にクリストフェルが怒ったのは平民出身の侍従であるヴィクター、マリアンに対してとてもではないが看過できない言動を繰り返したためなのだが、それでも彼女はなぜ「婚約者候補」から外されたのか理解をしていないようで、未だ婚約者であるかのように振る舞っているという。
 だがマチューを困らせる気はなかったのだが、結果的にそれがワガママにしか聞こえないかもしれない、ということに気がついたのかクリストフェルはハアッ、と大きくため息をつくと、少し苦しそうに咳き込みながら書類を机に置くと、椅子から立ち上がって歩き出す。

「ゲホゲホッ……わかった、迎えに行こう……だが、ソフィーヤのような女性であったら即刻領地に帰ってもらうことにしよう」
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...