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(幕間) 死を呼ぶ音色 〇二
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「……死者が蘇る? 死霊魔法の使い手とかじゃないの?」
「いえ、王国の中にいる登録された死霊魔法使いは数が少ないのですが、全員の所在が監視されていましてどうやら未登録の者が事件を起こしているのだと推測されます」
クリストフェル・マルムスティーン……イングウェイ王国第二王子にして王立学園で学ぶ学生、そして一年生筆頭の称号を持つ彼は、今学園内で王族専用に設けられた特別室で、事務処理をしながら侍従であるヴィクターからの報告を聞いて眉をひそめていた。
王国内のあちこちで、死んだはずの人間が蘇り人を襲っている……ここ最近王国新聞社発行の紙面をにぎわせている話題の一つだ。
「未登録の死霊魔法使いなんて簡単に追跡できるのでは? そもそも王国民であればその手の魔法を扱う人間は登録が義務になっているのだし、書類漏れなんて今までなかったんだろ?」
「それでも絶対ではありません、力の弱い者は時折登録を免れているケースがあるそうです」
イングウェイ王国の魔法使いにはいくつか分類があり、死霊魔法の使い手は独特の魔力から王国魔法協会が独自に調査を行い、資質があると認められたものは所在地や育成を管理されるという厳格な法が定められている。
死者を扱うということがどれだけ危険なのか、をこの国の人たちは身に染みて理解しているからだ……建国間もないころ、まだ神話時代から人間の時代への黎明期、一人の天才魔法使いがいた。
彼は死者を扱うことに長け、死霊魔法の基礎ともいえる分類やその効果などをまとめていったのだが、ある日を境に彼は自らを不死の存在とするべく禁忌の実験に手を染めていった。
「不死者を束ねる者、むさぼり食らう悪鬼……イイルスマールクみたいなやつなのかね」
「わかりません、ただイイルスマールクは現在休眠期に入っているはずなので……」
不死者の王たるイイルスマールクはイングウェイ王国で最も有名なリッチーで、未だに生き続ける伝説的な存在だ。
一〇〇年ごとに休眠期と活動期を繰り返し、活動期になると不死者が活発化するとまで言われる本物の死霊魔法を極めた賢者でもある。
ただその異名とは裏腹に防衛以外で人を襲うようなことはなく、彼の領地である「腐れ沼」に足を踏み入れなければ出会うこともない比較的安全な存在として知られている。
「腐れ沼」は不死者の巣窟と化しており、時折この沼から抜け出したものが討伐対象になるくらいで冒険者組合でも「こちらからの手出しは不要」としている怪物でもあるのだ。
「調査は進んでいるのかい?」
「……実は原因となる魔法の使い手が見つからないそうで……」
「なんだ、それじゃ野放しって事かい?」
クリストフェルの少し呆れたような表情をみてヴィクターが申し訳なさそうに頷く……その顔をみたクリストフェルは少し考えるように顎に手をやる。
そして急に表情を崩して何かを思いついたように微笑を浮かべると先ほどまで処理していた書類を乱雑に机の上へと投げたあと椅子からすくっと立ち上がった。
その表情を見たヴィクターと少し離れた場所にいたマリアンは敬愛する王子の考えがわかったかのような気がして慌てて彼を止めようと話しかけようとするが、それを手で制止するとクリストフェルは笑顔のまま言い放った。
「この国の者が異変を聞いて動かないわけにはいかないよね……お忍びで出かけようか」
「い、いやそれはちょっと困るのですけど……」
「殿下、殿下に何かあれば我々が……」
ヴィクターとマリアンは慌ててクリストフェルを止めようと食い下がるが、彼は黙って首を横に振るとハンガーにかけられていた外套を手に取る。
王立学園で彼がこなしている書類作業、公務は本来兄であるアンダース第一王子がやらなければいけないもので、後学のためにと兄がわざわざこちらに任せてくれているものでしかない。
やらなくてもいいものだが、彼自身公務に飽きはじめたこともあって気分転換がしたくなっているのだ。
「ちょっと息抜きするだけだよ」
「そ、その息抜きは何日かかるんですか?」
「ん-……一週間くらいかなあ。だめ?」
「いや、長すぎますって……」
侍従二人が必死に止めるのをみて、少し悲しそうな表情を浮かべるクリストフェルだが、タイミング悪くそこへ扉を軽くたたく音が響く。
三人は慌ててもとの場所へと戻ると、クリストフェルは椅子に座りなおしてから「どうぞ」と扉の向こうの人物へと声をかけた。
扉がゆっくりと開くと一人の少女がぺこりと頭を下げて入ってくる……クリストフェルの婚約者にてインテリペリ辺境伯家令嬢シャルロッタ・インテリペリだ。
「クリス、お仕事中失礼しますわね」
「シャル、君が来ることを拒むことはないよ……一体どうしたんだい?」
「あ、いえ……実家からお茶が送られてきたので一緒にどうかと思って」
彼女の手には小さな陶器で出来た容器が握られている……クリストフェルは笑顔のまま立ち上がると、そっと彼女の手をとって豪華なソファへとエスコートすると、マリアンへと目くばせを飛ばしてお茶の用意を進め始めた。
婚約者であるシャルロッタがこの部屋に来ることも増えてきた……クリストフェルは手放しで彼女を迎え入れ、他愛もないおしゃべりや近況の話を交わすようになっている。
彼自身は彼女への好意を隠そうともしていないし、シャルロッタもそんな彼に絆されているのか表情も柔らかくなってきている。
「シャル、君の手は本当に美しいね……撫でていいかい?」
「あ、あの……そういうのは少し恥ずかしくて……」
「そうなのかい? 僕とシャルは婚約者なのだからもっと先に進むべきだと思うんだよ?」
「そ、それはちょっと……その、やっぱりそういうことはきちんと式を挙げたりしてからですね……」
「明日上げようか? 僕は今日でも構わないよ?」
そう、ヴィクターとマリアンという侍従がいる前でもクリストフェルはシャルロッタへの愛情表現を止めようとしない。
シャルロッタは恥ずかしそうに頬を染めて嫌がるそぶりも見せるが、言葉だけで実際にはされるがままだ。
ある意味砂を吐きたくなるような光景を毎度毎度見せられて、二人の侍従は「またやってやがるよ……」とでも言いたげな表情で目を背けている。
二人の侍従の表情に気が付いたのかクリストフェルはやれやれとため息をつくと、シャルロッタに向かって笑顔を浮かべる。
「シャル、とても重要なことを頼んでいいかい?」
「え? は、はあ……わたくしが出来ることであれば」
「僕と一緒に出かけないか? もちろんお忍びでだ」
彼の言葉が理解できなかったのか、シャルロッタは首をかしげるがクリストフェルはニコニコ笑いながら立ち上がると、外套を手にしてそっとシャルロッタへと手を差し伸べる。
たしかに二人は学園の制服を着ているためそのまま外へと出ることも可能だが……彼女の美しい銀髪は非常に目立つため、そのままではいけないと思ったのかマリアンが予備の外套を手に駆け寄ってきた。
マリアンから外套を受け取るとシャルロッタは軽くお辞儀をしてからふわりとそれを纏うが、細かい所作も美しいなとそれを見ていたヴィクターは素直に感じた。
「では、一緒に行きましょうかクリス……お忍びというからには何かありますね?」
——王都郊外にある小さな村……一時間ほどしか離れていない場所にあるこの村で起きた事件が、近隣を騒がしていた。
「……こりゃひどいね……」
クリストフェルはすでに家の住人を失い、無人となった廃屋の中へと足を踏み入れる……先日この家に住んでいた中年女性が何者かに食い殺された。
悲鳴を聞いて駆け付けた兵士たちが見たのは、内臓を引き出され絶命した女性とその彼女の肉を食らっている腐った死体のような姿の怪物。
それは食屍鬼と呼ばれる低級不死者の一種で、この怪物は自然発生することでも知られる墓を荒らして死体をむさぼり食らうことで知られている。
食屍鬼自体の戦闘能力はそれなりに高いが、武装した兵士であれば数人がかりで倒せるレベルということもあって脅威度はそれほど高くない。
「食屍鬼自体の発生は珍しくないそうなんですが、問題は……」
「そうだよね、彼らは強盗のように家へと押し入らないからね」
食屍鬼は確かに怪物なのだが知能がそれなりに高く、よほど飢えない限りは人里を襲わない習性がある……というより下手に集団を攻撃するとより多数の人間に追い回されることを知っているらしく、基本的には墓を荒らして死体を食うほうが多いのだ。
ところが……今回だけでないが今巷を騒がしている事件では、家の中へと押し入っている……しかも単独でだ。
これはかなりの異常事態ともいえる……彼らの習性からは全く想像のつかない状況がおきているのだ。
「……食屍鬼が民家を襲ったんですの? 変ですわね……」
「よく知ってるね、今回の事件は不可解な点が多いんだ」
シャルロッタが壁や、床に付着した血痕を見ながら眉をひそめている……クリストフェルが床に散らばった食器や、片付けられていない家具などを確認していく。
この家で起きた事件では死者は一名……王国軍へと息子を送り出した母親が一人で暮らしていたが、息子は地方紛争で命を落としており、悲しみに沈み込んでいたそうだ。
そんな矢先に起きた事件……退治された食屍鬼はひどく腐乱した状態で、通常の個体よりも損傷が激しかった……まるで腐った状態から食屍鬼になったかのようだったとも報告書には書かれている。
「……食屍鬼のことは僕も勉強した、でもその常識に当てはまらないことが多すぎる」
「……シャルロッタ様、こんな場所にいると汚れてしまいますが大丈夫ですか? それにご令嬢にはすこし酷だと思いますが……」
「大丈夫ですわよ、なれて……いえ、クリスの願いなのですからわたくしも最後まで見届ける必要がございますわ」
シャルロッタは何か言おうとして少し口ごもってあいまいな笑顔を浮かべるが、マリアンはそれを無理をしているか、もしくは辺境伯家である程度そういった場合は男性について行けと教わっていると解釈して、それ以上は追及せずに黙って引き下がる。
どちらにせよ気の弱い女性と違ってシャルロッタ・インテリペリという少女は恐ろしく肝の据わった人物だというのが最近よくわかってきている。
それでこそクリストフェルが見初めた理由なのだろうな、とほんの少し胸のあたりがチクリと痛むのを感じ、彼女は胸をそっと抑える。
クリストフェルは何やらガサガサと調べ物をした後、唐突に全員の方向へと振り返って話しかけてきた。
「よし、ここはもういいな……相談をしたいから外に出て一度話をしようか」
「いえ、王国の中にいる登録された死霊魔法使いは数が少ないのですが、全員の所在が監視されていましてどうやら未登録の者が事件を起こしているのだと推測されます」
クリストフェル・マルムスティーン……イングウェイ王国第二王子にして王立学園で学ぶ学生、そして一年生筆頭の称号を持つ彼は、今学園内で王族専用に設けられた特別室で、事務処理をしながら侍従であるヴィクターからの報告を聞いて眉をひそめていた。
王国内のあちこちで、死んだはずの人間が蘇り人を襲っている……ここ最近王国新聞社発行の紙面をにぎわせている話題の一つだ。
「未登録の死霊魔法使いなんて簡単に追跡できるのでは? そもそも王国民であればその手の魔法を扱う人間は登録が義務になっているのだし、書類漏れなんて今までなかったんだろ?」
「それでも絶対ではありません、力の弱い者は時折登録を免れているケースがあるそうです」
イングウェイ王国の魔法使いにはいくつか分類があり、死霊魔法の使い手は独特の魔力から王国魔法協会が独自に調査を行い、資質があると認められたものは所在地や育成を管理されるという厳格な法が定められている。
死者を扱うということがどれだけ危険なのか、をこの国の人たちは身に染みて理解しているからだ……建国間もないころ、まだ神話時代から人間の時代への黎明期、一人の天才魔法使いがいた。
彼は死者を扱うことに長け、死霊魔法の基礎ともいえる分類やその効果などをまとめていったのだが、ある日を境に彼は自らを不死の存在とするべく禁忌の実験に手を染めていった。
「不死者を束ねる者、むさぼり食らう悪鬼……イイルスマールクみたいなやつなのかね」
「わかりません、ただイイルスマールクは現在休眠期に入っているはずなので……」
不死者の王たるイイルスマールクはイングウェイ王国で最も有名なリッチーで、未だに生き続ける伝説的な存在だ。
一〇〇年ごとに休眠期と活動期を繰り返し、活動期になると不死者が活発化するとまで言われる本物の死霊魔法を極めた賢者でもある。
ただその異名とは裏腹に防衛以外で人を襲うようなことはなく、彼の領地である「腐れ沼」に足を踏み入れなければ出会うこともない比較的安全な存在として知られている。
「腐れ沼」は不死者の巣窟と化しており、時折この沼から抜け出したものが討伐対象になるくらいで冒険者組合でも「こちらからの手出しは不要」としている怪物でもあるのだ。
「調査は進んでいるのかい?」
「……実は原因となる魔法の使い手が見つからないそうで……」
「なんだ、それじゃ野放しって事かい?」
クリストフェルの少し呆れたような表情をみてヴィクターが申し訳なさそうに頷く……その顔をみたクリストフェルは少し考えるように顎に手をやる。
そして急に表情を崩して何かを思いついたように微笑を浮かべると先ほどまで処理していた書類を乱雑に机の上へと投げたあと椅子からすくっと立ち上がった。
その表情を見たヴィクターと少し離れた場所にいたマリアンは敬愛する王子の考えがわかったかのような気がして慌てて彼を止めようと話しかけようとするが、それを手で制止するとクリストフェルは笑顔のまま言い放った。
「この国の者が異変を聞いて動かないわけにはいかないよね……お忍びで出かけようか」
「い、いやそれはちょっと困るのですけど……」
「殿下、殿下に何かあれば我々が……」
ヴィクターとマリアンは慌ててクリストフェルを止めようと食い下がるが、彼は黙って首を横に振るとハンガーにかけられていた外套を手に取る。
王立学園で彼がこなしている書類作業、公務は本来兄であるアンダース第一王子がやらなければいけないもので、後学のためにと兄がわざわざこちらに任せてくれているものでしかない。
やらなくてもいいものだが、彼自身公務に飽きはじめたこともあって気分転換がしたくなっているのだ。
「ちょっと息抜きするだけだよ」
「そ、その息抜きは何日かかるんですか?」
「ん-……一週間くらいかなあ。だめ?」
「いや、長すぎますって……」
侍従二人が必死に止めるのをみて、少し悲しそうな表情を浮かべるクリストフェルだが、タイミング悪くそこへ扉を軽くたたく音が響く。
三人は慌ててもとの場所へと戻ると、クリストフェルは椅子に座りなおしてから「どうぞ」と扉の向こうの人物へと声をかけた。
扉がゆっくりと開くと一人の少女がぺこりと頭を下げて入ってくる……クリストフェルの婚約者にてインテリペリ辺境伯家令嬢シャルロッタ・インテリペリだ。
「クリス、お仕事中失礼しますわね」
「シャル、君が来ることを拒むことはないよ……一体どうしたんだい?」
「あ、いえ……実家からお茶が送られてきたので一緒にどうかと思って」
彼女の手には小さな陶器で出来た容器が握られている……クリストフェルは笑顔のまま立ち上がると、そっと彼女の手をとって豪華なソファへとエスコートすると、マリアンへと目くばせを飛ばしてお茶の用意を進め始めた。
婚約者であるシャルロッタがこの部屋に来ることも増えてきた……クリストフェルは手放しで彼女を迎え入れ、他愛もないおしゃべりや近況の話を交わすようになっている。
彼自身は彼女への好意を隠そうともしていないし、シャルロッタもそんな彼に絆されているのか表情も柔らかくなってきている。
「シャル、君の手は本当に美しいね……撫でていいかい?」
「あ、あの……そういうのは少し恥ずかしくて……」
「そうなのかい? 僕とシャルは婚約者なのだからもっと先に進むべきだと思うんだよ?」
「そ、それはちょっと……その、やっぱりそういうことはきちんと式を挙げたりしてからですね……」
「明日上げようか? 僕は今日でも構わないよ?」
そう、ヴィクターとマリアンという侍従がいる前でもクリストフェルはシャルロッタへの愛情表現を止めようとしない。
シャルロッタは恥ずかしそうに頬を染めて嫌がるそぶりも見せるが、言葉だけで実際にはされるがままだ。
ある意味砂を吐きたくなるような光景を毎度毎度見せられて、二人の侍従は「またやってやがるよ……」とでも言いたげな表情で目を背けている。
二人の侍従の表情に気が付いたのかクリストフェルはやれやれとため息をつくと、シャルロッタに向かって笑顔を浮かべる。
「シャル、とても重要なことを頼んでいいかい?」
「え? は、はあ……わたくしが出来ることであれば」
「僕と一緒に出かけないか? もちろんお忍びでだ」
彼の言葉が理解できなかったのか、シャルロッタは首をかしげるがクリストフェルはニコニコ笑いながら立ち上がると、外套を手にしてそっとシャルロッタへと手を差し伸べる。
たしかに二人は学園の制服を着ているためそのまま外へと出ることも可能だが……彼女の美しい銀髪は非常に目立つため、そのままではいけないと思ったのかマリアンが予備の外套を手に駆け寄ってきた。
マリアンから外套を受け取るとシャルロッタは軽くお辞儀をしてからふわりとそれを纏うが、細かい所作も美しいなとそれを見ていたヴィクターは素直に感じた。
「では、一緒に行きましょうかクリス……お忍びというからには何かありますね?」
——王都郊外にある小さな村……一時間ほどしか離れていない場所にあるこの村で起きた事件が、近隣を騒がしていた。
「……こりゃひどいね……」
クリストフェルはすでに家の住人を失い、無人となった廃屋の中へと足を踏み入れる……先日この家に住んでいた中年女性が何者かに食い殺された。
悲鳴を聞いて駆け付けた兵士たちが見たのは、内臓を引き出され絶命した女性とその彼女の肉を食らっている腐った死体のような姿の怪物。
それは食屍鬼と呼ばれる低級不死者の一種で、この怪物は自然発生することでも知られる墓を荒らして死体をむさぼり食らうことで知られている。
食屍鬼自体の戦闘能力はそれなりに高いが、武装した兵士であれば数人がかりで倒せるレベルということもあって脅威度はそれほど高くない。
「食屍鬼自体の発生は珍しくないそうなんですが、問題は……」
「そうだよね、彼らは強盗のように家へと押し入らないからね」
食屍鬼は確かに怪物なのだが知能がそれなりに高く、よほど飢えない限りは人里を襲わない習性がある……というより下手に集団を攻撃するとより多数の人間に追い回されることを知っているらしく、基本的には墓を荒らして死体を食うほうが多いのだ。
ところが……今回だけでないが今巷を騒がしている事件では、家の中へと押し入っている……しかも単独でだ。
これはかなりの異常事態ともいえる……彼らの習性からは全く想像のつかない状況がおきているのだ。
「……食屍鬼が民家を襲ったんですの? 変ですわね……」
「よく知ってるね、今回の事件は不可解な点が多いんだ」
シャルロッタが壁や、床に付着した血痕を見ながら眉をひそめている……クリストフェルが床に散らばった食器や、片付けられていない家具などを確認していく。
この家で起きた事件では死者は一名……王国軍へと息子を送り出した母親が一人で暮らしていたが、息子は地方紛争で命を落としており、悲しみに沈み込んでいたそうだ。
そんな矢先に起きた事件……退治された食屍鬼はひどく腐乱した状態で、通常の個体よりも損傷が激しかった……まるで腐った状態から食屍鬼になったかのようだったとも報告書には書かれている。
「……食屍鬼のことは僕も勉強した、でもその常識に当てはまらないことが多すぎる」
「……シャルロッタ様、こんな場所にいると汚れてしまいますが大丈夫ですか? それにご令嬢にはすこし酷だと思いますが……」
「大丈夫ですわよ、なれて……いえ、クリスの願いなのですからわたくしも最後まで見届ける必要がございますわ」
シャルロッタは何か言おうとして少し口ごもってあいまいな笑顔を浮かべるが、マリアンはそれを無理をしているか、もしくは辺境伯家である程度そういった場合は男性について行けと教わっていると解釈して、それ以上は追及せずに黙って引き下がる。
どちらにせよ気の弱い女性と違ってシャルロッタ・インテリペリという少女は恐ろしく肝の据わった人物だというのが最近よくわかってきている。
それでこそクリストフェルが見初めた理由なのだろうな、とほんの少し胸のあたりがチクリと痛むのを感じ、彼女は胸をそっと抑える。
クリストフェルは何やらガサガサと調べ物をした後、唐突に全員の方向へと振り返って話しかけてきた。
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