わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

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第二四三話 シャルロッタ 一六歳 大感染の悪魔 〇三

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「……ワーボス神の使徒である暴力の悪魔バイオレンスデーモンはこの程度では活動を止めません、暴力は終わらない……暴力……最高ッ!」

「婚約者殿! 飛んでくださいっ!」
 クリストフェルの一撃は正確に悪魔デーモンの中心、胸へと突き立てられていた。
 人間であれば確実に殺しているはずのその一撃……だが、必殺と思えたその一撃を喰らっても、暴力の悪魔バイオレンスデーモンの生命活動は終わらない。
 その両腕に備え付けられた鎖鋸刃チェーンブレードが唸りをあげ、クーランは大きく顎を開くとクリストフェルを抱擁するかのように両腕を広げた。
 その行動とユルの警告を理解したクリストフェルは剣を引き抜くことを諦めて柄を手放すと、悪魔デーモンの体を蹴飛ばして大きく身を踊らせた。
 標的を失ったクーランは軽く舌打ちするかのように顎を打ち鳴らすと、あまり感情の伴っていない声を響かせる。
「ワーボス神は言いました……死の抱擁は人類の罪を許す愛……逃げられたのは惜しい……」

「くそ……蜻蛉ドラゴンフライが……」
 クリストフェルが手放した名剣蜻蛉ドラゴンフライはクーランの胸に突き立てられたままだが、彼が手を離したことにより付与されていた魔法の炎は消失し、クーランの肉体を蝕む炎が消滅していく。
 クリストフェルの側へと駆け寄ったマリアンが腰に下げていた刺突剣レイピアを手渡すと、彼はにっこりと微笑んでからそれを受け取り、軽く手に馴染ませるように二、三度振った。
 良い剣だ……手入れもされているし、何より持ち主が大事に扱ってきたのだろう、あまり刺突剣レイピアに慣れているわけではないクリストフェルでも違和感なく扱える気がした。
「ありがとう、この借りはちゃんと返すよ」

「い、いえ……」

「しかし中心点……コアのあたりを貫いたのに活動を止めないとは……」
 のそり、とユルがクリストフェル達の脇へと姿を表す……彼は影から影を飛ぶように移動して巧妙に位置を変えていた。
 クーランが目の前に迫る攻撃や、クリストフェル達の行動に目を取られることを計算に入れていたのか、味方である彼らですらユルの位置は正確にはわかっていなかったと言っても良い。
 そのユルが何度も唸り声を上げているクーランを見て、不思議そうに眉を顰めるのを見てクリストフェルはもう一度暴力の悪魔バイオレンスデーモンへと視線を戻した。
 人間型の上半身に蜘蛛の胴体……中心点だと思っていた場所は人間の上半身、いわば人間であれば心臓がある位置に近い胸付近。
コア……僕は相手が人間と同じ構造だと思ってたけど、中心点に当たる部分が違うのではないか?」

「……あり得ますな」
 クリストフェルの言葉にヴィクターが少し考えた後に頷く……目の前の暴力の悪魔バイオレンスデーモンの上半身は人型ではあるが、あれはあくまでも巨大な下半身に添えつけられたおまけのようなものかもしれない。
 蜘蛛の体は上半身に比べて大きすぎる……どういう生命活動をしているのかわからないが、少なくとも体液を循環させている生命体である以上、巨大な体を動かすための心臓の役目になる器官が存在している。
 クリストフェル達はきちんとは理解していないが、ユルが考えるに彼らのコアは心臓に近い機構を持ったものなのだろう、であれば……。
「蜘蛛のように見える胴体のどこか……ですかな」

「ああ、そのようだね……」
 クーランは胸に突き刺さった剣を引き抜くことすらせずに、威嚇するように何度か唸りを上げる両腕の鎖鋸刃チェーンブレードの動きを確かめるように刃を合わせている。
 気がつけば引き裂かれた傷口は塞がり、あれだけ吹き出したはずの体液の流失も止まっている……だが胸に刺さった蜻蛉ドラゴンフライの付近だけは修復ができないのか、体液が軽く滲んでいるのが見える。
 確実に倒せる、いや殺せる相手だ……クリストフェルは再び刺突剣レイピアを一度振るうと裂帛の気合いとともに前へと出る。
 それが合図だったのかヴィクターが両手持ちの大剣グレートソードを担ぐと走り出し、マリアンは牽制するようにクーランに向けて矢を放っていく。
 クリストフェルは唸り声を上げて威嚇するようなポーズを見せるクーランに向かって突進しながら叫ぶ。
「いくぞっ! 暴力の悪魔バイオレンスデーモンクーラン……お前は確実にここで倒すっ!」



「ウヒョオオオオオッ!」

「だあああっ! キモいっ!」
 大感染の悪魔パンデミックデーモンカルディバドスの顔面を素手で殴り飛ばす……ドゴッ! という音と共にわたくしの拳に手応えが伝わってくる、いや正確には防御結界を纏わせた拳で殴っているので一枚皮を挟んでいるようなものなのだが、この相手の場合防御結界なしでぶん殴った場合手が溶け落ちるのかもしれない。
 手応えはあるのだが、魔力を込めた拳戦闘術フィストアーツではない一撃では相手にダメージらしいものを与えていない……さすが第二階位というべきだろうか?
 返す刀で左拳をカルディバドスの顔面に叩き込むが……思ったよりも手応えが重いため、悪魔デーモンの体を宙へと持ち上げるには至らない。
「思ったよりもか細い細腕……その細腕で我を殴りつけるなんて……超ッ……興奮しますねえっ!」

「だからキモいって言ってんだよ!」

「踏みつけてもらってもいいのですよおおおおっ!」
 カルディバドスは体を奇妙に震わせながら迫ってくるが……不味いな、あまりここで時間を潰すわけにはいかないのに……! 巨体とその溶解能力をきちんと理解しているのか、悪魔デーモンはまるで体当たりをするかのように突進を仕掛けてくる。
 言動はどうあれ特性を活かしての立ち回りは理解している感じか……わたくしのこの体は非常に軽量で見た目と同様に細くしなやかだ。
 絶対的な質量によるシンプルだが強引な突進はこちらにとって厄介に思えると思ったのだろう、だが……わたくしはそのままカルディバドスの突進を正面から受け止める。
 ドガアアアアッ! という衝突音が響き渡るがわたくしは片手を差し伸ばしたポーズで悪魔デーモンの巨体を止めている。
「な、なんと……我の質量はその細腕で止められるような重さでは……」

「結界があるからね、実際には触れていないわよ」

「……いけずですなあ……だが、それがイイッ!」
 間髪入れず全身より紫色の毒煙を吹き出すが、ある程度予想をしていたわたくしの強化した防御結界の縁でプチプチという音を立てながら侵食するので精一杯というところだろうか?
 確かに普通の人間ではこの悪魔デーモンは倒すことはできないだろう、武器も溶解するだろうし触れたら即溶ける……うーんこの悪魔デーモンとの戦闘は十分クソゲーと言っても過言ではないだろう。
 毒煙が晴れた後も無傷でそこに立っているわたくしを見たカルディバドスは驚いたような表情を浮かべるが、そうそうそういう顔が見たいよね。
「……これだけ? 他の悪魔デーモンの方がまだ多彩な攻撃を仕掛けてきてたわよ?」

「ふむむむむぅ……これは予想外ですなぁ」
 カルディバドスはこれ以上侵食が難しいと判断したのか、それまでに見せなかったような軽やかな動きで跳躍すると、少し離れた場所へと着地し、こちらの出方を窺うような表情でじっとわたくしを見つめる。
 防御結界のふちにあった溶解性の毒は防御結界の魔力を侵食することができなくなり、そのまま地面へと効力を失ってポタポタと落ちていく。
 お互いの手札を全て見せているわけじゃないけど……神滅魔法雷帝の口付けサンダーキッスを無効化、いや正確には肉体を修復しながら迫ってきたわけだから回復能力もそれなりに高いだろう。

「ま、やるじゃないの……」
 少し今判明している手札を整理しないとダメだな……カルディバドスの身体能力は先ほどの跳躍を見ても分かるとおり非常に高い、というかあの巨体であれだけの跳躍を見せるのは格闘戦もそれなりにできるのだと推測する。
 魔法への防御能力は高い……神滅魔法で殲滅できないとなるとより強力な魔法を叩きつけても一瞬で灰にしなければ復活してしまう。
 拳戦闘術フィストアーツならどうだろうか? ばっちいからあんまり触りたくないけど効果はありそう……となると剣戦闘術ソードアーツ……不滅イモータルであれば溶解にも耐えてみせるだろうし、確実に相手を両断するだけの威力は出せるに違いない。
「……ならやることは一つね」

「ウヒョ? どうやらちゃんと技を見せてくれるようですな」
 カルディバドスはわたくしの雰囲気が変わったのを察知したのか、少し興味深そうな表情を浮かべて全身から吹き出す毒煙を何度か強く噴出させていく。
 下手に武器で攻撃されないようにするための防御方法だな? 普通の戦士相手ならこれだけで接近戦ができなくなるから有効なのだろうが。
 わたくしは軽く右手を振って虚空より一握りの美しい剣を引き抜く……不滅イモータルと呼ばれる決して滅びることのない魔剣はわたくしの手の中で敵を切り裂く喜びに打ち震えるような感覚を伝えてくる。
 そう……貴方も目の前の大感染の悪魔パンデミックデーモンを切り裂けることに歓喜を覚えているのね? ならば……その喜びに応える必要があるってことか。
 剣を構えたわたくしは一度不滅イモータルを奮って手応えを確認したのち、口元を歪めてニヤリと笑うとカルディバドスに向き直る。

不滅イモータルよ、我が愛剣として目の前の敵を切り裂く手伝いをなさい……混沌は全て滅するべし!」
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