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第二五九話 シャルロッタ 一六歳 弑逆 〇九
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「……来たか……ティーチ、ここから先は死地だぞ」
「うひぃっ! も、もう来たの? おかしくない?! まだエスタデルに近づいていないよ?」
美貌の副官リーヒ・コルドラクの瞳が突然爬虫類を思わせるそれに変化し、どこか遠くを見るように一点をじっと見つめたのを見てティーチ・ホロバイネンは全身を硬直させるかのようにびくりと体を震わせる。
彼らと契約をしているシャルロッタ・インテリペリ……その魔力が思ったよりも近くに来ていることに気がついたリーヒは以前よりも強大な魔力が展開されていることに内心驚いた。
シャルロッタ様が普通の人間ではないことは理解していた、はっきり言えば人間ではない自分よりも遥かに人間ではない。
人の姿をしているにも関わらずだ……軽く目頭を抑えるとリーヒの瞳が元に戻り、隣でガタガタと震えているティーチへと視線を向けてからはあっ、と軽くため息をつく。
「……お前は指揮官だティーチ……残念ながらシャルロッタ様は敵にまわっている、私たちは全力で抗わねば死ぬぞ」
「……そりゃわかってるけど……」
「だからな、我々は自分の力を示す必要がある……敵が来るぞッ!」
呆然とした表情を浮かべるティーチをひと睨みすると、天幕に展開していた魔力を解き……天幕の外に控えている兵士へと声をかけた。
天幕を出ていくリーヒを追いかけて、慌てて走り出すティーチ……今本陣近くにいる兵士の数はそれほど多くない。
シェリニアン将軍が確実に何かをやらかしている……ティーチの率いる部隊には決して略奪・暴行などを行わないように言明している。
だが……シェリニアンの軍にはティーチの命令は届かない、いや届きようはずもないのだ。
マカパイン王国に行って気がついた……インテリペリ辺境伯家への根深く、そして制御しようもないものだということを。
「……竜殺しは貴殿らを守る、我も守る……! 貴様らは全力で抗え! 敵はたった一人……シャルロッタ・インテリペリ、辺境の翡翠姫である!」
「シャルロ……? お、おおおっ! 副官殿の名に従えっ!」
リーヒの言葉に一瞬訝しがるような表情を浮かべたマカパイン王国兵だったが、頼れる美貌の副官が今までにない緊張した面持ちでいることに気がつくと、表情を引き締めて手に持った武器を握る手に力を込める。
「竜殺し」ティーチ・ホロバイネンと副官リーヒ・コルドラクの二人が率いる軍は数は多くないが、リーヒ自身が訓練した精強な兵士たちで構成されている。
マカパイン王国以外では知られてはいないことだが……リーヒの人間離れした強さは国内では有名であり、片手で剣を受け止め、魔法の力で溶解させるなどの行動を見た兵士たちは彼女が英雄なのではないか? と思っている。
そしてその英雄を従える「竜殺し」ティーチの本当の実力はまだ誰も見てはいないが、恐ろしく強いのだろう、と誤解を生む結果となっていた。
「ティーチ! 腑抜けていないで指揮をしろッ!」
「……ああ、わかった……森の中で伏兵として活動せよ! 敵を女性と思うな! 人間の見た目をした怪物だと思えッ!」
ティーチの表情がそれまで弱気さに満ち溢れたものとは打って変わって、自信に満ち溢れたものとなったことで兵士たちの士気が一気に上がっていく。
たった二〇〇名の兵士だが、ティーチとリーヒが手塩にかけて育て上げた精強な兵士たちだ……シャルロッタ・インテリペリという英雄の足止めくらいはできるだろう。
リーヒはシャルロッタ様との戦いについて深く思考を巡らせる……以前負けた時は自分がレッドドラゴンそのものの姿で戦ったことにも影響を受けていると考えていた。
竜は魔獣の王である……そのプライドは彼女自身が太古の時代から生き続けてきたことで培われてはいるのだが、あの敗北により自分は変わったと思っている。
「シャルロッタ様は人間だ……我はこの姿をとることによって人を理解した……」
不便だと思い続けてきた人間の姿……だが慣れてみるとこの姿にはいくつかの利点が存在している……特に竜である自分は自由自在に四肢を変化させることができる。
この姿のまま竜の息を打ち出すことも可能だ……威力も以前より比べ物にならないほどの破壊力を持った竜の息を吐き出すことにも成功している。
元々巨大な体躯を持ったレッドドラゴンを人間大まで縮小すればどうなるのか? 四肢に満ち溢れる炎の魔力を自在に操る魔人がそこには誕生するのだ。
我は今こそ不当な呪いをかけたシャルロッタ様に意趣返しを行うのだ……と彼女は強く願っていた。
それは魔獣の王たる竜としてのプライドが、人間如きに負けたという過去の自分に対するけじめのようなものだ。
「楽しいなあティーチ……強者との戦いはいつだって楽しいものだ」
「リ……リーヒさん? シャルロッタ様に勝てるのか? 第一逆らったらカエルになるのでは……?」
「そんな呪いがあれば我が率先してお前にかけている、あれはブラフだ」
ティーチが彼女の言葉に驚いてその顔を見上げると、リーヒはニタリと爬虫類を思わせるような笑みを浮かべて咲う。
そう、あくまでもそれほど気の強くないティーチを脅かすためにシャルロッタが言っているだけの虚言……この世界には呪いと呼ばれるものは数多くあるが、生物をそのまま別の生物へと変化させるという呪いは超高度なものに分類され、魔力の消費や肉体の情報を書き換える上で効率が良くないことで知られている。
確かにシャルロッタ様は無尽蔵の魔力を有しており、おそらくそれすらも実現可能ではあるだろうが……だが、戦闘中にそんな魔力を無駄使いすることは効率的ではない。
「ティーチ……我は全力でシャルロッタ様に抗う、お前も手伝え……竜殺したる矜持を見せてみよ」
「……う、ぐ……も、もし呪いが本当でカエルになったら……」
「我がお前を一飲みにしてやる、安心せいカエルに変われば知能などなくなるでな」
リーヒの言葉に絶句して顔色がどんどん悪くなるティーチ……だがそれとは対照的に隣に立つ彼女はギラギラとした眼差しでおそらくこちらへと向かってきているであろうシャルロッタの魔力へと目をむける。
我は二度目の敗北などしない……前回は人間だと侮って負けたようなものだ、竜の矜持を傷つけたことを思い知ら瀬てやりたいと常に思い続けていた。
このような形で再戦が叶うなど思いもしなかった……だが、今回はティーチについてマカパイン王国へ来たことが幸運だったのだろう。
「早く来い……シャルロッタ様、この身にかけられた不当な呪いをお前の手で解除させてやる……」
「……へえ、カエルの呪いがブラフだって気がついたのか……随分と時間がかかって……」
わたくしは森の中を音もなく走っている先で、懐かしい魔力が膨れ上がるのを感じて口元を綻ばせる。
リヒコドラク……いや人間の姿をとっている時はリーヒ・コルドラクという絶世の美女ではあるが、彼女は元々わたくしがワンパンでのしたレッドドラゴンであり、本質的には人間とは違う生物だ。
たまたまワンパンで倒したのだけど、あれは相当に運が良くってこちらの姿を見て舐めてくれたおかげだとも言える……本来彼女達のようなレッドドラゴン、しかも巨大な個体は数百年を生きる中で莫大な魔力を溜め込んでいく。
人間がたった数十年しか生きれない中、竜族は数百年、数千年の時を微睡と覚醒を繰り返しながら生きていく……古竜、エンシェントドラゴンと呼ばれる竜族は数が少ないが、その戦闘能力は神にも等しいものとなるのだ。
ちなみに竜はその体色に魔力が現れていて、レッドドラゴンは炎の魔力のみを扱えるのだが、例えばブルードラゴンなら氷、グリーンドラゴンは毒なんて分類もあったりする。
リヒコドラクは赤いんで炎の魔力を扱えるわけで……そういや前も炎吐きまくってたな。
「ま、らくしょーですけどね……ただ立ち向かおうとするその心意気やよし」
まあよく考えてみればわかることだけど……元勇者のわたくしがそんな呪いなんてかける方法知ってるわけがない。
前世の魔法使いは呪いの研究してたな……なんだっけ、朝起きると寝台に髪の毛がパラパラ落ちる呪いとか、意中の相手に気になってもらう呪い? とかそんなの開発してたな。
魔法抵抗力が高すぎると大した効果が出ないとかで……呪いらしきものをかけてもらったが、あんまり効果なかったな。
飛ぶように木々の間を蹴って進むわたくしの前に、マカパイン王国の兵士たちが散開しているところに出くわすが、彼らの意識がこちらに向く前に眠りの雲を放って昏倒させ、その隙を狙ってわたくしは走り抜ける。
「……眠りなさい」
「ふ……あ……なん……だ……」
次々とバタバタ倒れていくマカパイン王国の兵士たち……数が多いな、しかも中には明らかに悪人の気配を感じさせる連中も混じっているが……とどめを刺すとかそういう時間はなさそうだしな。
眠りの雲は一定範囲の対象を強制的に眠らせる……まあ魔法の本質的には気絶させるって状態に近い効果なんだよね。
現に眠りの雲で眠らされた対象が目覚める時には強烈な二日酔いに近い状況で目覚めることになる。
あれ最悪なんだよねえ……わたくし前々世でもお酒好きじゃなかったから、余計にしんどかった記憶がある。
高速で木々の間を飛び回り、眠りの雲で兵士を昏倒させつつわたくしは森の中を走り抜けていく。
森の木々が途切れると国境沿いの平原へと抜ける……ここは以前もわたくしが散策したことのある場所だが……今はそこに複数の天幕が設営されており、マカパイン王国の軍旗である世界を見る目が翻っているのが見えた。
そして……その旗の下には二人の人物が立っている……一人はわたくしを見た瞬間に隣に立つ赤髪の美女の背後へと隠れようとした男性……ティーチ・ホロバイネン。
そして赤髪の女性……わたくしを見つめて堂々たる笑みを浮かべて仁王立ちするリーヒ・コルドラク……太古より生き続けるこの世界でも有数のレッドドラゴンが人間の姿をとってそこに立っていた。
「……ようこそご主……げふんげふん、シャルロッタ・インテリペリ! ここが貴様の墓場となるっ!」
「うひぃっ! も、もう来たの? おかしくない?! まだエスタデルに近づいていないよ?」
美貌の副官リーヒ・コルドラクの瞳が突然爬虫類を思わせるそれに変化し、どこか遠くを見るように一点をじっと見つめたのを見てティーチ・ホロバイネンは全身を硬直させるかのようにびくりと体を震わせる。
彼らと契約をしているシャルロッタ・インテリペリ……その魔力が思ったよりも近くに来ていることに気がついたリーヒは以前よりも強大な魔力が展開されていることに内心驚いた。
シャルロッタ様が普通の人間ではないことは理解していた、はっきり言えば人間ではない自分よりも遥かに人間ではない。
人の姿をしているにも関わらずだ……軽く目頭を抑えるとリーヒの瞳が元に戻り、隣でガタガタと震えているティーチへと視線を向けてからはあっ、と軽くため息をつく。
「……お前は指揮官だティーチ……残念ながらシャルロッタ様は敵にまわっている、私たちは全力で抗わねば死ぬぞ」
「……そりゃわかってるけど……」
「だからな、我々は自分の力を示す必要がある……敵が来るぞッ!」
呆然とした表情を浮かべるティーチをひと睨みすると、天幕に展開していた魔力を解き……天幕の外に控えている兵士へと声をかけた。
天幕を出ていくリーヒを追いかけて、慌てて走り出すティーチ……今本陣近くにいる兵士の数はそれほど多くない。
シェリニアン将軍が確実に何かをやらかしている……ティーチの率いる部隊には決して略奪・暴行などを行わないように言明している。
だが……シェリニアンの軍にはティーチの命令は届かない、いや届きようはずもないのだ。
マカパイン王国に行って気がついた……インテリペリ辺境伯家への根深く、そして制御しようもないものだということを。
「……竜殺しは貴殿らを守る、我も守る……! 貴様らは全力で抗え! 敵はたった一人……シャルロッタ・インテリペリ、辺境の翡翠姫である!」
「シャルロ……? お、おおおっ! 副官殿の名に従えっ!」
リーヒの言葉に一瞬訝しがるような表情を浮かべたマカパイン王国兵だったが、頼れる美貌の副官が今までにない緊張した面持ちでいることに気がつくと、表情を引き締めて手に持った武器を握る手に力を込める。
「竜殺し」ティーチ・ホロバイネンと副官リーヒ・コルドラクの二人が率いる軍は数は多くないが、リーヒ自身が訓練した精強な兵士たちで構成されている。
マカパイン王国以外では知られてはいないことだが……リーヒの人間離れした強さは国内では有名であり、片手で剣を受け止め、魔法の力で溶解させるなどの行動を見た兵士たちは彼女が英雄なのではないか? と思っている。
そしてその英雄を従える「竜殺し」ティーチの本当の実力はまだ誰も見てはいないが、恐ろしく強いのだろう、と誤解を生む結果となっていた。
「ティーチ! 腑抜けていないで指揮をしろッ!」
「……ああ、わかった……森の中で伏兵として活動せよ! 敵を女性と思うな! 人間の見た目をした怪物だと思えッ!」
ティーチの表情がそれまで弱気さに満ち溢れたものとは打って変わって、自信に満ち溢れたものとなったことで兵士たちの士気が一気に上がっていく。
たった二〇〇名の兵士だが、ティーチとリーヒが手塩にかけて育て上げた精強な兵士たちだ……シャルロッタ・インテリペリという英雄の足止めくらいはできるだろう。
リーヒはシャルロッタ様との戦いについて深く思考を巡らせる……以前負けた時は自分がレッドドラゴンそのものの姿で戦ったことにも影響を受けていると考えていた。
竜は魔獣の王である……そのプライドは彼女自身が太古の時代から生き続けてきたことで培われてはいるのだが、あの敗北により自分は変わったと思っている。
「シャルロッタ様は人間だ……我はこの姿をとることによって人を理解した……」
不便だと思い続けてきた人間の姿……だが慣れてみるとこの姿にはいくつかの利点が存在している……特に竜である自分は自由自在に四肢を変化させることができる。
この姿のまま竜の息を打ち出すことも可能だ……威力も以前より比べ物にならないほどの破壊力を持った竜の息を吐き出すことにも成功している。
元々巨大な体躯を持ったレッドドラゴンを人間大まで縮小すればどうなるのか? 四肢に満ち溢れる炎の魔力を自在に操る魔人がそこには誕生するのだ。
我は今こそ不当な呪いをかけたシャルロッタ様に意趣返しを行うのだ……と彼女は強く願っていた。
それは魔獣の王たる竜としてのプライドが、人間如きに負けたという過去の自分に対するけじめのようなものだ。
「楽しいなあティーチ……強者との戦いはいつだって楽しいものだ」
「リ……リーヒさん? シャルロッタ様に勝てるのか? 第一逆らったらカエルになるのでは……?」
「そんな呪いがあれば我が率先してお前にかけている、あれはブラフだ」
ティーチが彼女の言葉に驚いてその顔を見上げると、リーヒはニタリと爬虫類を思わせるような笑みを浮かべて咲う。
そう、あくまでもそれほど気の強くないティーチを脅かすためにシャルロッタが言っているだけの虚言……この世界には呪いと呼ばれるものは数多くあるが、生物をそのまま別の生物へと変化させるという呪いは超高度なものに分類され、魔力の消費や肉体の情報を書き換える上で効率が良くないことで知られている。
確かにシャルロッタ様は無尽蔵の魔力を有しており、おそらくそれすらも実現可能ではあるだろうが……だが、戦闘中にそんな魔力を無駄使いすることは効率的ではない。
「ティーチ……我は全力でシャルロッタ様に抗う、お前も手伝え……竜殺したる矜持を見せてみよ」
「……う、ぐ……も、もし呪いが本当でカエルになったら……」
「我がお前を一飲みにしてやる、安心せいカエルに変われば知能などなくなるでな」
リーヒの言葉に絶句して顔色がどんどん悪くなるティーチ……だがそれとは対照的に隣に立つ彼女はギラギラとした眼差しでおそらくこちらへと向かってきているであろうシャルロッタの魔力へと目をむける。
我は二度目の敗北などしない……前回は人間だと侮って負けたようなものだ、竜の矜持を傷つけたことを思い知ら瀬てやりたいと常に思い続けていた。
このような形で再戦が叶うなど思いもしなかった……だが、今回はティーチについてマカパイン王国へ来たことが幸運だったのだろう。
「早く来い……シャルロッタ様、この身にかけられた不当な呪いをお前の手で解除させてやる……」
「……へえ、カエルの呪いがブラフだって気がついたのか……随分と時間がかかって……」
わたくしは森の中を音もなく走っている先で、懐かしい魔力が膨れ上がるのを感じて口元を綻ばせる。
リヒコドラク……いや人間の姿をとっている時はリーヒ・コルドラクという絶世の美女ではあるが、彼女は元々わたくしがワンパンでのしたレッドドラゴンであり、本質的には人間とは違う生物だ。
たまたまワンパンで倒したのだけど、あれは相当に運が良くってこちらの姿を見て舐めてくれたおかげだとも言える……本来彼女達のようなレッドドラゴン、しかも巨大な個体は数百年を生きる中で莫大な魔力を溜め込んでいく。
人間がたった数十年しか生きれない中、竜族は数百年、数千年の時を微睡と覚醒を繰り返しながら生きていく……古竜、エンシェントドラゴンと呼ばれる竜族は数が少ないが、その戦闘能力は神にも等しいものとなるのだ。
ちなみに竜はその体色に魔力が現れていて、レッドドラゴンは炎の魔力のみを扱えるのだが、例えばブルードラゴンなら氷、グリーンドラゴンは毒なんて分類もあったりする。
リヒコドラクは赤いんで炎の魔力を扱えるわけで……そういや前も炎吐きまくってたな。
「ま、らくしょーですけどね……ただ立ち向かおうとするその心意気やよし」
まあよく考えてみればわかることだけど……元勇者のわたくしがそんな呪いなんてかける方法知ってるわけがない。
前世の魔法使いは呪いの研究してたな……なんだっけ、朝起きると寝台に髪の毛がパラパラ落ちる呪いとか、意中の相手に気になってもらう呪い? とかそんなの開発してたな。
魔法抵抗力が高すぎると大した効果が出ないとかで……呪いらしきものをかけてもらったが、あんまり効果なかったな。
飛ぶように木々の間を蹴って進むわたくしの前に、マカパイン王国の兵士たちが散開しているところに出くわすが、彼らの意識がこちらに向く前に眠りの雲を放って昏倒させ、その隙を狙ってわたくしは走り抜ける。
「……眠りなさい」
「ふ……あ……なん……だ……」
次々とバタバタ倒れていくマカパイン王国の兵士たち……数が多いな、しかも中には明らかに悪人の気配を感じさせる連中も混じっているが……とどめを刺すとかそういう時間はなさそうだしな。
眠りの雲は一定範囲の対象を強制的に眠らせる……まあ魔法の本質的には気絶させるって状態に近い効果なんだよね。
現に眠りの雲で眠らされた対象が目覚める時には強烈な二日酔いに近い状況で目覚めることになる。
あれ最悪なんだよねえ……わたくし前々世でもお酒好きじゃなかったから、余計にしんどかった記憶がある。
高速で木々の間を飛び回り、眠りの雲で兵士を昏倒させつつわたくしは森の中を走り抜けていく。
森の木々が途切れると国境沿いの平原へと抜ける……ここは以前もわたくしが散策したことのある場所だが……今はそこに複数の天幕が設営されており、マカパイン王国の軍旗である世界を見る目が翻っているのが見えた。
そして……その旗の下には二人の人物が立っている……一人はわたくしを見た瞬間に隣に立つ赤髪の美女の背後へと隠れようとした男性……ティーチ・ホロバイネン。
そして赤髪の女性……わたくしを見つめて堂々たる笑みを浮かべて仁王立ちするリーヒ・コルドラク……太古より生き続けるこの世界でも有数のレッドドラゴンが人間の姿をとってそこに立っていた。
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